第18話 前提がおかしい
「そもそも、私が死んでいるっていう前提で話を進めるのやめてくれないかしら」
尾張さんは両手を組んで、自らの現状に対する認識に対して意を唱える。
「だって、事実として死んでますよ?」
「じゃあ、なんであなたは、私に触ったり、話したり出来るのよ」
僕の胸元に人差し指を突きつけてくる。
それを言われると、ぐうの音も出ない。
「多分プラズマがどーのこーのして、なんかそこはかとなくいい感じになった結果、尾張さんに触れるんだと思います」
「全く意味がわからないわ」
僕の即興で考えた適当な理論は一瞬で両断される。
「奇遇ですね。僕もです」
尾張さんがジト目で僕を見つめる。
仕方ないじゃないか。わからないものはわからないのだ。
「そもそも、尾張さんこの頃、家に帰った記憶あります?」
「・・・・・・ないわね」
僕の質問に対して、首を傾げながら答える。
「今日の昼ごろの記憶は?」
「・・・・・・」
ですよね。
それもそのはずである。現在僕が認識している限り、尾張さんが出現するのは、夕暮れから早朝の間、しかも、学校内でしか見かけていない。
さらに言えば、僕以外に認識している人に会ったことがない。
「いえ、やっぱり納得できないわ。若年性の健忘症なのかもしれないじゃない」
「それはそれで問題ですけどね」
まあ、本人が納得しようがしまいが、どちらにしろ亡くなっている事実はひっくり返らない。
「じゃあ、ちょっと実験してみましょう」
事実はひっくり返らないが、尾張さんが自覚することで何かが変わる可能性もある。
「実験?」
「尾張さんが、その辺を歩いてる生徒に声をかけて、その生徒が振り向かなければ、あなたは幽霊です」
尾張さんは、やれやれと肩をすくめると、まるで既に必勝の策を思いついたとでもいったような顔をする。
「いいわよ? その程度、余裕で振り向かせてあげるわ」
尾張さんは悠然と歩きだすと、ドアを抜けて廊下へ出る。
「無理だと思うけどなぁ」
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