… 18




「ごちそうさまでした。すごく楽しかったです」


玄関先で二人揃って頭を下げ、下井家を後にした。


「水炊き、美味しかったね」


「〆の雑炊、最高だった」


わたしと有陽ちゃんの会話を駅まで送ってくれる下井くんが笑みを浮かべて聞いている。


「本当は今晩ハヤシライスって言ってたのに、フグとか買ってきて鍋にしてるし」


「親父も嬉しかったんだと思うよ」


肩をすぼめながら会話をして歩く下井を加世子はふと立ち止まらせる。


「なんでそんなに薄着なの?」


分厚めとはいえ、ブルゾンだけだとどこか寒そうに見えた。


「これ巻いて」


そう言いながら自分のマフラーを取って下井の首に巻き付けようとしている。「いいよ」と軽く払って歩き出そうとする下井をさらに引き留め、


「巻かなかったらこれ付けさせるよ」


と言って、しまってあった例のふわもこの耳当てを鞄から取り出してふざけてみせた。


観念したように大人しくなった下井に、


「潔癖性なの? 洗ってあるから大丈夫だよ」


などと独り言のようにつぶやきながらマフラーを巻き付ける。


「良いじゃん。暖かそうになった」


有陽ちゃんも賛同してくれて単純なわたしは上機嫌のまま駅へと向かう。


「お父様にありがとうって伝えておいてもらえる?」





少しだけ下井くんとの距離が縮まったような気がしたわたしは駅前に続く角を曲がるとそう伝えた。それもこれも、今日、下井くんのことを誘ってくれた有陽ちゃんのお陰かな……これからはお店の前で会った時に、もっとフレンドリーになれるかな……等と頭の中でイメージしていると、そこから目覚めさせるように有陽ちゃんが突然わたしの腕を掴んで名前を呼んだ。


「彼氏さんにここにいること言った?」


急に立ち止まって横目でわたしを見つつ、囁くようにそう言われて何事かと思ったら、正面にある1箇所しかない改札口の前に裕泰くんの姿があった。


「……なんで」


裕泰は立ち尽くすわたしたちに歩み寄っている。


「さっき、谷岡さんの家にいるってメールしただろ? ……嘘ついたの?」


「違う……っていうか、説明をすれば長くなると思って……」


静かに聞かれると、被せるようにすぐ、そう答えた。


黙ったまま視線をわたしから右の半歩位後ろにいた下井くんの方に移し、じっと見た後、何も言わずに小さなロータリーの隅に停めてある車へと後ろを向いて歩き出した。


「えっ、ちょっと待って……」


慌てて追いかけて行く背中を有陽と下井が不穏の空気が流れる中見届けていると、少し離れた暗がりで二人が立ち止まり何やら話している様子がわかったその直後に、加世子だけが改札口前の二人の方へ走って戻って来た。有陽を呼びに来たのだったが、その際、下井の顔はお礼を言うために少し見ただけに終わり、有陽を車の方へと誘導して行った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます