… 4

「寝不足? なんか疲れてない?」


「ちょっと考え事があって……」


「そうなんだ……」


こんなにも清々しい朝で、小寒い中、降り注ぐ陽射しは心地よいはずなのに、今のわたしには眩しすぎる。


1限目を終えて、朝イチのわたしの様子を気にしてか、美樹が学校終わりにお茶でもしないか尋ねてきた。


今日は、バイオリンのレッスンを受ける日だ。だけど、美樹の誘いに乗りたい。話を聞いてもらいたい。練習もそこそこにしかしていないし、気分的にも日をあらためてもらおう。そう思ってママにメールを入れた。


  

  まだ午前中だし、何とかなるよね……



 『了解しました~』


ちょっとズレたテンションの返事が返ってくる。そこがママの、天然というのか、かわいらしい所。





学校終わりには、近くのカフェへ行った。入った頃には比較的空いていて落ち着いて話が出来たものの、いつの間にか満席になっていた。話す内容が内容だし、誰が聞いているかわからないので、このお店は出ることにする。


「どこ行こっか?」


「銀座の方まで出ない?」美樹がそう提案した。


「銀座、いいね。久々だわ」


メトロに乗り、そちらへ向かう。


百貨店なんかに出入りしてウロウロし、裏通りを歩いているとハッピーアワーの文字が目立つチョーク書きの看板が目に入り、陽も暮れてきて肌寒くなってきたところだったので、地下へと続くそのお店への階段を下りて行った。


本音を言うと 今日は飲みたい気分 なんていう、わたしにとっては “オトナな台詞” でも言って、カウンター越しに注文をしたいところだけれど、 “何か悪いこと” をしようとする時、必ずといって良いほどパパの顔が頭に浮かび、急激にサーっと熱が引いて、おとなしい自分になる。

 

「何かノンアルコールの、飲みやすいもの、ありますか?」 


せめてノンアルという表現でお酒を……という小さな抵抗。


美樹も同じように付き合ってくれる。


「0.5%くらいは入ってても良いんですけど」


そう伝え、さらに店員さんに聞こえるように、確か1%未満だったらノンアルコールを語って良いのではなかったか等のわたし達のノンアル論を美樹と繰り広げながらアピールしつつ、カウンターの中を覗き込むようにして一か八かでしばし待つ。


数分後、店員さんが「ノンアルコールです」と出してくれたのは、フルーツが美味しそうに飾られたサングリア。正確には、サングリア風ジュースだ。特にわたしは、見た目がどうみても学生、しかも未成年って感じだもの、店員さん、良いお仕事されます……。



他にお客さんのいない店内で、素敵な木製のテーブルにつき、2,3食べ物もオーダーし、一息。一旦は学校の話とか最近あった出来事とかなんでもない普通の会話を楽しんだ。


「少し炭酸も入ってる……美味しい」

「あ、写真撮っておくべきだったかな……」


独り言なんかも言っていると、さっきのカフェで相談していた本来の話題に美樹が戻した。


「本当のところ、どうなんだろうね」

「ちゃんと確認した訳じゃ無いんでしょ?」


美樹の言う通り、まだグレーというか、不確かな情報に翻弄されているのは確かだ。


「そうなんだよね…… 特段変わった様子も無いし……」


「電話してみる? 今」


「電話して聞く……って事?」


ほとんど氷だけになった “ぶどうジュース” を飲み干す。


「そう。 何なら途中で代わるよ」


美樹は決して冗談で言ってるんじゃないよという目をしていて掛けざるを得ないような雰囲気になっていた。


意を決して、携帯を鳴らす。


「あの…… 聞きたいことがあるんだけど…… ……裕泰くん…… 他に……」


「えっ?何? ごめん、良く聞こえない」


会社帰りと思われる人達で賑わいだした店内のボリュームに声を持っていかれる。


「……他に…… 他に好きな人いるの?」


ついに言ってしまった。


  

  語尾を強めに言ったから怒ってる風に感

  じたかな……



美樹はテーブルの上で腕組みをして視線を下に向けながらも真剣に聞いている様子。


「……何言ってんの?」


明らかに間があった。

驚いた時の間なのか、 “ヤバイ” の方の間なのか、どちらかわからないけれど、前者であって欲しいと願う。


「今、家じゃないよね?」


「うん、友達とごはん食べてる」


「とにかく、会って話そう。後で連絡する」


電話を切った後、美樹の顔を5秒くらい見つめてしまった。後で知ったけれど、この時相当不安そうな顔をしていたらしい。








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