出会い

 

わたしたちが下井くんの存在を知ったのは、夏の終わりくらいだった。


20歳前後くらいの男の子がちょうど今くらいの時間にここを訪れて来てアイスをひとつ注文し、店を出るなりアーケードの柱との間に挟んであった段ボール箱を運んで行った。その頃は回収業者が来るのを意識したことは無く、各店舗の閉店後、静まり返った頃に、毎日勝手に収集されていくのだろうな程度の認識しか無かったけれど、この日は、

 

  

  なんか早めに着いて、勝手に持って行く

  のが悪いとでも思ったのかな?



と、ただなんとなく、そんな考えをよぎらせていた。


「今のひと、格好良くなかった?!」

有陽ちゃんが唐突にそう言い放った。


「そうかな」

着信をチェックしながら答える。


正直、わたしにはそんな風には思えなかった。もう、ベースが ‘裕泰くんありき’ になってしまっているので、他の男性を見ても本当に何とも思わなくなっている。隠居したご老人でもあるまいし、まだまだ若いのにこんな風なのは、少し悲しいことで変わっているのかも知れない。


だけど、それ以前に(百歩譲って仮に一瞬心踊ったとしても)、廃品を回収しているような人に好意を抱くというのは、失礼ながら、わたしにとっては皆無な事だ。


恥を承知で、今でもその考え方は変わらない。


わたしが入っていない日に買いに来たことはあるのかも知れないけれど、その日以降、その人が来店することは無かった。


とはいっても、営業時間内に段ボール箱を回収していく姿をちょくちょく見かけるようになり、ついには話しかけるようになった。


「お仕事、大変そうですね」


ある日、二人してバイト上がりに表へ出たタイミングで回収に来ていたその人に初めて声を掛けた言葉だ、もちろん有陽ちゃんが。


声を掛けられたことが意外だったのか、作業をしながら一瞬驚いた様子を見せたけれど、すぐさま照れたように、でもしっかりとわたしたちの方に顔を向けて、


「ありがとう」

「今、帰り? 気を付けて」


そう言いながら、 「けて」 くらいで身体は反対方向へ向け、笑みは残しながら、近くに停めてあるトラックの方へ離れて行った。




「優しくない?」


自転車を押しながら、有陽がすかさず発した。


「有陽ちゃん、ああいう人がタイプなの?」


「いやぁ…… タイプっていうか、なんか癒されない?」


「…………」


「ごめん、よくわからないわ」


ちょっと間、無言になった後、そう返すと、お互いに笑い合った。





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