第103話 腐死の病と中年


『野蛮ですね』

『うヒヒ』

『まぁまぁ、そうです! 取り引きしましょう。私は龍の素材が貰えれば大人しく帰りますよ?』

 全員が薄汚れた貫頭衣にペストマスク。身体はあちこちが異常に膨れていて痛々しい。

 だが、そんな事は気にもしてない様子で、下品な声で馬鹿なことを言っている。


「何の為だ?」

『進化の為だよ。かの有名なドラゴンの遺伝子を持つ人間だ。……面白い』

 あぁ、ダメな奴だ。

「子供達はその為か」


『そうです。人間が要らないって売ってるんですから、それをどう使ってもオバッッ!?』

 鳥人間がまとめて吹っ飛ぶ。

『さっさと片付けるぞ?』

 ナキが声をかけると同時に全員が動いたな。


 鳥人間はさっきと同じで強くないようだ。全員が軽く倒している。

「さて、俺は」

 鳥人間を倒すみんなと逆に、玉龍の方へ向かう。


『あらら、見つかりました?』

 玉龍の巨大な身体の影に隠れ、手を伸ばす鳥人間。

 他の鳥人間と違い、黒いロングコートに黒い革手袋、ズボンも靴も黒で、茶色のペストマスクと白髪のが異様に目立つ。


「隠れてないだろ。で? お前は人間か? 化け物か?」


『んーー……私は、元人間ですね。それが何か?』

 手を引っ込め、こちらを不思議そうに見る。

 


「ただの世間話だ。今は人間じゃないのか?」

 こいつらは一体何なんだ?

『まぁ、化け物でしょうね』


「人間が化け物に?」

『あぁ、それは『腐死ふじの病』腐らず死ねない病』

 何でもないように言う鳥人間。

「不死身なのか。最悪だ」

 腐らず死ねないって寿命がないんだな。


『いいものではないですよ? ……回復手段のない時は地獄でした。死ぬほどの怪我でも死ねない。『腐らない』は、再生も同時に失ってます』

 

「それは弱点を教えてくれてるのか?」

 治らないなら、少しの傷も負いたくないはず。

『別に弱点ではありません。普通の会話は久しぶりなので、ちょっと喋り過ぎたのは否めませんが』


「……分かった。だが、はいどーぞと渡す気もさらさらない」

 まぁ、回復が出来るのだろう。

『それはそれは、ではさっさと済ませましょう』


 こいつらも理由がある。


 それがどんなに理不尽だろうが、


 そんな道理は通らない!


「オラっ!」

 拳が当たると金属のような音が鳴る。

「……お前」

 何か着ているのか?


『私の名前はベネボランスです』

「聞いてねえよ!」

 後ろに飛び、距離を取る。

『それは失礼』

 金属音が響いたが、分厚いゴムを殴ったような感触だな。


『これも研究の成果。『呪いの鬼鎧』

 尊い犠牲に感謝ですね』


「うおぉぉぉおぉぉぉ!」

 何が尊いだ! 

『効きませんよ!』

 蹴ったのに衝撃が吸収される。やはり分厚いゴムのようだ。

 しかも、ガードが崩されるくらい、拳も重い。

「カズト!!」

 距離をとると美羽が回復を放ってくれる。

「よっと……美羽、大丈夫だ」

 こいつ以外は偽物か? 他は余裕で勝っている。

 身体には攻撃が効きづらい?


 ……なら、鳥人間の顔でも拝んでおくかな。


「シッ!!」

 全力で鳥人間の懐に入り込んで、氷魔法で足元を凍らせる。

『効かないって分からないんですか? ぅあ゛?!』

 氷は崩れ、腹に蹴りをくらい吹っ飛ぶ……が、蹲っているのは鳥人間。


「……どこが腐らないんだよ」

 マスクは俺の手にある。

 ベネボランスの顔はドロドロに溶けて、眼球が今にもこぼれ落ちそうだ。


『あ゛あ゛ぁぁあぁぁぁ! い、痛い! 痛いぃぃ!!くそっ! くそっ! 絶対殺してやるるぅぁあ!!』

 脈動する肉の表面は青黒く変色し、動くたびに下から濡れ光る赤い肉が見える。

 さっきまでの余裕は無く、癇癪を起こした子供のように走り出すと、自分の顔の肉を掴み取ってばら撒く。


「うおぉおぉ!! 気でも狂ったか!? って、みんな近寄るなよ!!」

 グロいゾンビから逃げながら、ばら撒いたものを見ると、飛び散った肉片は大きくなり、数十匹のヒルに姿を変える。


「き、キモッッ!!」

 両手を鳥人間に合わせ、

『まだ……まだ、実験は途中ぅ! 鬼よりも生命力溢れる、龍を……龍がアアァァアァアァァァァァァァァァ』

 ヒルはとりあえず焼き殺す!


「みんなは玉龍のとこに行け! こいつは俺が相手をする!」

 

「兄さん気をつけて!」

『行くぞ!』

「カズト! すぐ来てよ!」

 玉龍の身体を駆け上がっていくみんなを横目に、ベネボランスを見る。


「そんなに簡単じゃないよな」

 火が上がってるのは散らばったヒルとベネボランスの顔だけ。白い髪はもう無くなっているのに、身体も服も燃えてすらいない。


『い、痛い……イダイダイダイ……』

 さて、どうする? あいつに触るのは論外。魔法も効いてるか分からない。


「腐死の病ってのは、痛みもあるんだな」

 不死身のデメリットが酷すぎる。

 時の止まった肉体は、痛みで生を認識させて、死の恐怖を長い間刻み込む。


『ヒぁ……ぁああ、ふぅ……龍は目の前……』


「忙しい奴だな。まぁ、狂ってしまうのも分からんでもないか」

 マスクを放り投げる。

『あ、や、あ、あぁ……』

 震えながらマスクをつけると、そのまま動かなくなる。


『い……いけ……』

「は? うおぉぉ!」

 今迄、動かなかった鳥人間がこっちに向かってきている。

「お前! それ卑怯だろ! ちょっやめろって!!」

 鉄の棒を取り出して、ゾンビ供を遠くにぶっ飛ばす!

「兄ちゃん! 大丈夫!」

「お、おう! キモいぞコレっ!!」

 上から声がするが、声だけだった。


『いけ! そいつを潰せ!』

「見たら分かるだろ! こいつらじゃ無理! てか、こいつらどかせよ!!」

 ふざけんな! 弱いけど怖いんだよ!


“ドオォーン”

 土煙の中に影が見える。

「ぼぉーーくが来たぁーー!!」

 片手を挙げてポーズを決めるノセ。


“ブワァアァァ!!”

 今度は炎が広がり、その中から、

「おぉおーれぇーも来たぁーー!!」

 逆の手を挙げたモッチー。


「やっと見つけた! 出番だノセ!」

「はい! モッチーさん! ここは僕達が受け持った!!」

 二人は出番が無かったから、鬱憤ばらしで暴れ回る。


「カズト、玉龍が終わったって」

『もう来てます。どうですか?』

 そこには小さめの蛇のようだが、宙に浮く白い龍がいた。

「可愛いじゃないか。もう元の身体はいいのか?」

『はい。消しますか?』

「俺がやるよ。よっと」

 時停倉庫に玉龍の身体を保管する。


「おおーい、鳥人間も諦めて帰れ。本体は無くなったぞ」

ノセたちといい勝負をしていたベネボランスは唖然とする。


『そ、素材はどこに行った!? どこにやったんだ!!』

 焦ってゾンビにも探すように指示を出してるが、

「この階にはないぞ? 頑張って探せよ」

 嘘は言ってない。

『勝負はまた今度だ!』



 全員揃ってこれからを話すが、早めに安全な場所を確保しようか。

「カズト、これからどうするの?」

「ん? 別のダンジョンを作って、このダンジョンは廃棄する」

 そもそも、ダンジョンが別次元なんだから、他の次元に新しく作って、入り口に繋げればいいだろ。

『そうですね。ダンジョン内部は私達以外いませんし。やるなら今です』

 

 と言う事で、ダンジョンの問題は簡単にケリがつき、鳥人間達を残し、新しいダンジョンにお引越しとなった。

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