第90話 天使と中年


 俺達は返り血を落として、そのままホテルに帰る。さすがに俺らが責任を持つ事はない。



 結局何もしていないのだから。



 一応、賢人と二人で警官を誘導して現場に置いてきたので、今頃調べているだろう。





 四人部屋に全員で集まっている。


『お兄さん、警察は?』

 ノセはベッドに腰掛けている。


 四つのベッドにソファーとテーブルがあるので、リズムとアジャティがソファーに座り、俺らはベッドに腰掛けている。



『警官は連れて行った。後は処理するだろ』


 人死が出ているので少し空気が重い。



『アジャティ? 大丈夫?』


 俺らが外に出てる間に、ノセに言って、リズムに自然言語理解を取らせた。



『大丈夫、でも、家なくなった』


 アジャティとは少し話した。……アジャティは売られることは分かっていたようで、それが普通だと思っていたらしい。


 アジャティを抱きしめ、

『大丈夫。……お姉ちゃんが守るから』



 リズムはアジャティを引き取ると言うが。


 ……無理なら異次元ハウスで俺が育てる。




『兄ちゃん、アイツらは』

 賢人も何か考えてるようだが、


『アイツらの事は少し調べる。だが深追いはしない』


『でも』

 分かってるが、


『目的も分からないのに無闇に突っ込むのはダメだ。解析もマップも通用しなかった。……どう考えても危険過ぎる』


『……そうだね』



 俺はコイツらを守らないといけない。




『リズムはどうする? まだダンジョンの攻略はするのか?』


『……アジャティの事もしっかり進めるけど、ダンジョンも進めて行きたい』


『ならアジャティを預けるぞ。俺らの仲間に預けるから問題はない。……後はステータスか』



 確かギルドのは、年齢制限があったはずだから、



『俺が行くよ。自然言語取らせて、あっちに慣れさせる。明日一日貰うけどね』


 賢人が言ってくる。



『賢人と、……ノセも行くか?』

 

『はい! 賢人だけだと不安だからねー』

 とふざけている。



『明日は休みにする。リズムも明日からアジャティの事で動くからな?』


 早く動かないとどれだけ期間がかかるか分からないしな。


『分かったわ。お父さんにも連絡しておく』


 よし、


『それじゃあ飯にしよう。ラウンジならまだいけるだろ?』


 少しでも腹に入れないとな。





 

 夜、一人外に出て月を見る。


 確かに鬼、いや、違うのかも知れない。


 世界にもやはり、守護者になるような者たちがいるのだ、ここのダンジョンは龍。


 人間の責任とは……やはりダンジョンだよな。何もしてないって言うことは、ちゃんと管理しろってことか。


 いや、それは世界中の人間がやるべきことで……まさか、子供にさせるなんて事は……分からないか。




 俺はリンリンに電話をかける。


『ハイハーイ! リンリンだよー!』

 いつもと変わらないか。


「よう、遅くにすまない」


『いいよ、聞きたい事はスキルが防がれたこと?』

 見てたのか、


『あぁ、何故防がれる? レベルが高いからか?』


『んー、考えられるのは、天界のアイテム。でもこれは無理かな? 出荷してないしね。次はレベル。カズトのレベルは今の世界だと最高レベルだよ、だからこれもなし。最後に敵の能力。今のところこれじゃないかな?』



 アイテム、レベル、スキル、か。



『だよな。世界は広いな』


『まぁ、こっちでも調べてあげるよ』


『忙しいんだろ?』


『フリしてるだけ。問題ないよ! そんじゃ切るけど、……前も言った、君は君のやりたいようにやるべきだ。一人で世界は無理だからね。おやすみー!』


「言いたいこと言ってきったな」



 やりたいようにやるべき、か。

 

 ……自分が分からなくなる時だって、あるんだよ。





 ……くそっ……最近はマシだったのに。






 翌日は、賢人、ノセ、アジャティ、は部屋の前で別れる。


「本当に大丈夫なのね?」

 リズムは歩きながら聞いてくる。


「あぁ、あれで頼れるから問題ない」

 それよりも、


「親父さんには連絡したのか?」


「したわよ、朝からこっちの弁護士に会って、それから保護団体。国際養子縁組が出来るかどうかね」

 

 ホテルの外に出て、

「よし、じゃあ俺も付き合うから行くぞ」

「えぇ、よろしくね」





 賢人side

「ちょ! だーめだって! いまからステータス取りにいくの!」

 俺は割って入るが、


「だめよ! ちゃんとした服を買いに行くのが先!」

 美羽さん、


「あらあら、鼻水がでてるわよ。……はい、綺麗になったわ」

 美羽さんのお母さん。


「私はこの髪型が似合うと思うけど?」

「いや、こっちがいいですよ」

 アンコにマリン?


「賢人、俺も海外に行きたい!」


「カズトさんは?」


『なぁ、いつまで待ってればいいんだ?」



「……だぁーー! 全て却下! 兄ちゃんに頼まれたんだ! しかもアジャティはまだ言葉が通じなくて怖がるだろ? だからステータスとってくるまでオアズケだ!」


 くっそカオスだ。


「ノセ!」


『行こうか、アジャティ』

『う、うん。バイバイ』


 手を引いてノセとアジャティが歩いてくる。



『アジャティ、ごめんな。悪い人達じゃないから、許してね』


 アジャティは笑うと、

『……人いっぱい、嬉しいと楽しい』


「そっか。じゃあ、早くみんなと話す為にステータス取りに行こう!』


「「『『『おう!(はい)」」』』』


 声が多い!




『……ついてくるの?』


「何言ってるのか分からないよ」

 ボブめ!


「ならさっさと行くよ、雪菜さんの北海道ダンジョン」


「「『『『うい!(はい)」」』』』



 北海道ダンジョン 一層


「おい、なんだこの、瀕死のモンスターの山は?」


「ばっか! 早くアジャティに倒させろよ!」


 アジャティは怯えてる。


「多すぎんだよ! アジャティが怖がるだろ!」

 スライムと大ネズミとゴブの山。


「大丈夫! 守ってやっから! な? アジャティ」


 なんでいい笑顔なんだよ。


『は、はい!』

 アジャティがノセが作った棒を構えて、振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす!


『だぁー、大丈夫だ、大丈夫だよアジャティ』


 暴走するアジャティを捕まえて、残りはノセが始末する。


 ステータスは無事取れて、教えながら自然言語の日本語を取らせると、


「ありがとうございます。お兄ちゃん達」


「「「「『お、おふぅ!」」」」』

 破壊力が凄まじい……お兄ちゃん。


 やはり、辿々しい言葉はちゃんと教わってないからか。

 日本語は流暢に喋れるようになって、馬鹿兄達はチヤホヤしながらアジャティのレベル上げ。


 まぁアジャティが嬉しそうだからいいけど、


「そろそろ帰るぞ! 美羽さんに怒られる」


「「「「『うい」」」」』


 ……アジャティにも教えたな。




 帰ると、今度は美羽さん達の買い物だ。


 何故か美羽さんのお姉さんや、お父さんもショッピングモールへ。


 アジャティは声も出せず、お父さんに抱っこされながら歩いていき、みんなの着せ替え人形になっている。


「ノセ、手伝えよ」

「分かってる、ボケる元気もない」

 交通誘導しなければ、


「ナキさん! 道聞かれても道知らないでしょ! てかナンパ多すぎ! 羨ましい!」


「ボブはなんでアイス買ってきてるの! すぐ戻ってくるわけないだろ? 一人で食べろ!」


「モッチーさん! 玩具は一個まで! てかなんで少女アニメのグッズ? アジャティは男の子!」


「お父さんはどっしり構えてて下さい。え? プリクラ? 後で取りに行きましょうね」


 女の人の買い物は長い……男は暇になって、遊びたがる。それを止めるのは俺らだ!



 なんとかハウスに戻ってきた。

「賢人お兄ちゃん、大丈夫?」


 天使か!


「大丈夫だ。ちょい疲れただけ。楽しいか?」


 アジャティは照れて、

「うん、天国みたいだね」


 そこに住む天使か!


「……なら良かった。そろそろ帰りますか? リズムも兄ちゃんも待ってるよ」


「うん! お別れ言ってくるね」

 ノセが着いて行ったから大丈夫。


「で? ナキさんはどうしたの?」

 

『モッチーとボブから言われた。敵は強いんだろ? 俺に着いて行けだと。……自分らが行きたいくせにな』


 そっか、


「ボブとモッチーは?」


『強くなるんだとさ』

 なら大丈夫かな。


「そ、じゃあ、アジャティが来たら帰りますよ。兄ちゃんには自分で言ってね」


『おい、そりゃないだろ! 手伝えよ!』


「な、自分のことでしょ!」


『そんなこと言うなよ、頼むから』


 ナキさんも兄ちゃんに弱いよな。

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