第29話 辞表と中年

 翌日はどんよりした天気。仕事に行き、何事もなく作業を行なっていると。


『非常事態発生 非常事態発生、

 モンスターと思われる生き物が工場内に進入、各員は避難指示に従い、避難場所へと速やかに行動して下さい。繰り返し……』



 へぇ、また避難訓練だろ。

 一応マップ確認を、てマジか、もう中まで入って来てるし。


 隣の工場は結構やられてるな、数も多いなぁ。


「よっと!」


 手に持ってる部品で、敵の頭を打つ。


「ここまでくるの早いよ、ってウルフ系か、速いわけだ……」


「千社さん! 早く行きますよ」


 後輩が声をかけてくる、


「俺は大丈夫だ。逃げ遅れがいないか見てから行くわ! お前らちゃんと集合場所行ったら、点呼の確認な! 後で会おうな! っと」


 足に噛み付いてくるウルフを避け、頭を潰す。


「分かりました! 絶対ですよ!」


 泣きながら走っていく後輩。


「工場は走るなっての、さて仕事なくなるからさっさとまわるかね」


 ステータスを上げて、モンスターを片付けながら工場を周っていると。


「せ、千社! こっち来い!」


 馬鹿がもう1人を盾に、ウルフと睨み合ってる。


「ひぃぃ! 鹿嶋さん押さないで下さいって」


 んだよ、最悪な奴に会ったな。仕方ないので、走って寄って行く。


「大丈夫っすか? 早く逃げないとヤバっ!?」


「お前も少しは役にたって嬉しいだろ!」


 あのバカ、俺を押し倒して逃げやがった。まぁ気づいたけどワザと避けなかった。


 立ち上がり、ウルフを倒してもう1人の盾君を逃す。


「まぁ、もーいっか。転装!」


 さて、害獣駆除でもしますか……



 ほぼ倒したがマップにまだあと1匹。

 動きがないからなーんかボスっぽいよなー、行くかね。


『ガアァァァぁぁぅぅぅ!』


 吠えてるねー、二本角のデッカい黒狼さん。バチバチ電気流してボスですねー。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

ライジング・ブラックウルフ ランクD

レベル 43

フォレストウルフの特異進化、電気を纏い角から出す電撃で攻撃する。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


 レッドワイバーンより弱いね、一気に決めるかね! 右手を前に出し、


「獄炎牢!」


 ライジング・ブラックウルフの周りを無数の炎の玉が高速で回り出す。


『が、ガウゥ!?』

「じゃーね!」


 手を閉じると炎が内側に向かっていき、ライジング・ブラックウルフを焼き尽くした。


 あ、ドロップ落ちるじゃん。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

ライジング・ブラックウルフの魔晶石

ライジング・ブラックウルフの牙

ライジング・ブラックウルフの毛皮

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 まーこんなもんか、てか今まで倒した奴のドロップも取って来よっと。と工場を走り出す。


 動きながら美羽に念話し、これからの事を話した。


 何食わぬ顔で作業服に転装し、集合場所へ戻る。


「千社さーん! 良かった、大丈夫っすか? ケガは?」


 後輩が泣きながら近寄ってきて、聞いてくる。



「大丈夫、お前も泣くな。でも大丈夫そうでよかったな、他は無事か?」


「いや……何人かは戻ってきてないっす」


 とその時、

「あれ? お前運だけはいいなぁ! 他の仕事できる奴で戻ってきてないのもいるのになぁ」


 また馬鹿が出てきて笑ってやがる。


「ですね、あんたに突き飛ばされなければ、助けられてたかも知れないんですけどねー」


 これ見よがしに大声で言ってあげた。


 後輩は驚いて固まってる。


「はぁ? なに俺のせいにしてるの? お前が勝手にこけたんだろ ? 人のせいにしてんじゃねーよ!」


 この会社も頑張って社員になったけど、


「まあどーでもいいけどね」


 と工場長のとこに歩いて行く。


「おまっ、どこ行くんだよ! 止まれって」


 工場長の前まで行き、

「お疲れ様です。第1工場生産課の千社と言います。

 工場の中のモンスターは、片付けましたんでもう大丈夫だと思いますが注意して下さい。 

 あとこれの受理をお願いします。」

 と病気になってから、一応持っていた退職届を差し出す。


「ん? 君が? まぁそれが本当だとしても、自衛隊に連絡してあるから、もうすぐ到着するはずだ。

 そのまま待機しておきなさい。

 あと退職届はいまは受理できる状況ではない、後日改めてでいいか?」


「それで構いません、お手数お掛けします」

 馬鹿は口をあんぐり開けて俺を見ている。



 その後自衛隊が到着し。モンスターはいないが、人の死体が食い荒らされた状態で多く見つかった。

 近くにダンジョンがあり、氾濫したのではないかと捜索が始まった。


 死亡者は300を超え、ニュースにもなった。

 子会社なので潰れるかも知れないが、もう知ったこっちゃない。

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