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Reat:「対話」


 これですべて片が付いたようだな。この何もない空間から二人の最期を眺めていたが、残念な結果となってしまった。しかしこれはある意味、運命だったのかもしれない。…人間の友がその道を辿ってしまったのは、少し悲しいものだが。


 さて、キャパシティと創造力という便利な力が消失する未来か。人間たちは再びただの人と成り果てるのだな…っと。


 なぜ、傍観者のお前たちがここにいる? 私の独り言をいつから聞いていた? いや、そもそも今更このような場所に来て、何を求めている?


 仮にお前たちが、"あの二人"に報われてほしいと望んでいて、私の力を頼りに来たのなら、それは無駄足だ。私にはもう何もできない。もはやあの世界へ干渉することすらもできないのだから。  

 

 しかしこんなところまでお前たちはわざわざ足を運んだ。このまま帰らせるのもどうかと思う。だから私が会話相手になろう。残念なことに、私は言葉を与えることしかできないものでな。


 聞きたいことがあれば、私に尋ねてみればいい。答えはすべて私個人の見解が含まれるが…。それでもいいのであれば答えよう。


『Q.神様はいつも何をしているの?』 

 それは神によって大きく異なる。人間たちを観察するだけの暇な神や、無数に広がる世界の管理をしている忙しい神もいる。ちなみに私は前者だった。聖書を読み、暇つぶしに世界の成り行きを傍観するだけの神だ。


『Q.神様の中で一番偉い人は誰なの?』

 私にも分からない。何故なら、神という存在は常日頃からその身分の高さが変わり続けている。誰が偉くて、誰が劣っているのか。それを把握しているのは、暇を持て余す、物好きな神だけだ。


『Q.神様同士って仲が良いの?』

 結論から述べれば、それほど仲良くはない。私にとって、どの神も等しく商売敵みたいなものだ。ただし、お前たち人間とは違って醜い争いはしない。常に冷戦状態というだけでな。


『Q.神様はお願いごとを叶えてくれるの?』

 叶えるのは私たちの役目ではない。叶えるのはお前たちの役目だろう。私たちができるのは見守ることだけだ。 

  

『Q.ユメノ使者にも神様いるよね?』

 前提として私たちには名前など付けられない。"ゼウス"や"ヘラ"というように、名前の付けられた神たちはあくまでも副産物――いや、お前たち人間の創造物だ。しかし、物好きな神は自らに名前を付けることもある。この行為は禁忌の内に入らないが…私はそのような神を見たことはない。


『Q.キャパシティや創造力が消えた世界はどうなると思う?』

 確信して言えるのは、力による格差が消える。今までは"創造力"や"能力"の優劣が、その者の存在を大きく象徴していたが、それが消えるとなれば…。この先の時代は"権力"が重要となる。武力同士の争いではなく、権力同士の争いが栄えることだろう。これはあくまでも私の見解に過ぎないが。


『Q."審判の日"って何?』

 何だそれは。一度も聞いたことがない言葉――いや、待て、どこかで聞いた覚えがある。どこかの神がそのような言葉を使っていた。名前までは思い出せないが、私は一度その神と話したことがある…が、詳しくは思い出せないな。お前たちはどうしてその言葉を知っている?


 聞いただと? それはどこで? 


 …あの世界? 


 ……私がこの無の空間に追放されたことで、あの世界には神がいない。自然的な障害から、人間たちを守る神が消えてしまった。だが、そこには居座れる座が一つある。もしや、その座に新たな神が君臨している…? 

 

 残念なことに、それは私にもお前たちにも、あの世界に住む人間たちにも分からない。今はただ傍観するだけだ。良からぬことが起きないようにな。


『Q.良からぬことって?』

 神の中にも、自身の役目を全うしない者や、己の情を優先する者がいる。だからこそ、このように神の中で禁忌が作られ、犯したものを追放する場が設けられている。禁忌を犯した神に共通しているのは『情の方向性』と『常識の方向性』が大きく傾いているという点だ。


『Q.神様なのにそんなやつがいるの?』

 お前たちの文化で例えるのなら、私たち神は"お人形遊び"を強く好む。その人形役は、生きている"人間"。堕落した神共は、娯楽の為にあらゆる"業"を背負う。よく覚えておくことだ。お前たちが崇めているのは――そういう"存在"だということを。


『Q.あの世界をどう思ったの?』 

 最初は醜さを凝縮させた世界だと感じていたが、その世界にも輝けるものがあると思い知らされた。禁忌を犯したことを、今でも後悔はしていないとだけ言っておく。 

 

 それと、あの世界は事あるごとに『雨』という名の付く人間が、それを解決する"鍵"となるのだな。まるで、それらがすべてが仕組まれているかのように。 


『Q.ルナのことは今でも友達だと思ってる?』

 当然だ。あの女は私にとって、正真正銘の友。だから私は力を貸した。恐らく、同じ神共には笑われるだろう。私たち神が人間の友を作る行為自体、お前たちがその辺の石ころと友となることと同等。


 永久に近い時間。人間と友となったのは"私"が初めてだ。あの女が、私たち神と初めて友人となった人間だろうな。


『Q.ルナたちに伝えたいことはある?』

 数えきれないほどある。だが敢えてこの言葉だけを伝えたい――Good Luck幸運をと。


 

 …もう十分だろう。私たち神は持て余す時間も、お前たち人間にとっては有限なものだ。元の世界に帰れ。  

  

 何だって…? 現実が辛い、生きる希望が見えない、働きたくない、外に出たくない…だと? あわよくばこの"無の空間"で一生を終えたい…? 呆れた、お前たちはそれしか言えないのか。


 私たちにとって、最も興ざめする"人形遊び"。それは"人形"が"何もしない"時だ。どれだけ逃げたくても、お前たちは嫌なものと向き合い、苦しまなければならない。なぜなら、お前たちの世界に存在する神がそうさせているからだ。


 言葉による"慰め"に"励まし"などは、"痛み止め"に過ぎない。お前たちが苦しめば苦しむほど、権力を持つ者が"幸福"となる。人形は、生まれた瞬間からその"役目"をすべて定められている。人形同士の馴れ合いも、偶然ではなく"必然"。


 そして――私たちは"行動"する人形だけに、"追加の出来事"を与える。何もしない者に、何かが起こるはずもない。

 

 お前たちの世界に居座る神とは、面識があってな。どのような世界なのかは、話で聞いている。


 それを踏まえて言わせてもらえば、お前たちは私たちと何も変わらない…。いや、私たちよりひどいものだ。人形の不幸を喜び、人形の死を見世物にし、挙句の果てには人形が人形を殺すなど…。


 私たちがそれを定めた…? いいや、私たちは自らの手で人形を排除することはしない。お前たちが勝手に殺し合い、蹴落とし合っているだけだ。 


 …これぐらいにしておこう。私たちの評判が下がるだけだからな。


 最後に、お前たちへこれだけは忠告しておく。

 

 今、目の前にあるその"画面"の向こうに――いつかお前たちの"敵"となる"存在"がいる。


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