February Holiday
「わたしのお友達」
二月の下旬頃。わたしはブライトちゃんと一緒にショッピングモールへお買い物をしに来ていた。
「今日はお洋服を買いたいねー」
「デュアルってば…昨日も服を買ってたでしょ?」
「乙女にとって服は必需品だもん! 買っておいて損はないよ!」
わたしがこの赤の果実で一番仲が良いのはブライトちゃん。とても気が合うし、中学の頃に所属していた部活動は同じテニス部。学校が違っていても、話がとても弾んじゃう。
「もうそろそろ春だし、"桜模様"の服とかどう?」
「桜模様って…。ブライトちゃん、あんまり服のセンスなかったりする?」
「冗談冗談。ほら、そこのお店とか良さそうじゃない?」
ブライトちゃんが指差すお店は、大人びた女性に似合う衣服が集いに集った服屋。わたしはそのお店を目にして、苦笑いを浮かべてしまう。
「わ、わたしには似合わないと思うなぁ…」
「そんなことないって! 何事も挑戦挑戦!」
「えぇ…?」
そもそもわたしは童顔。
"美しい"よりも"可愛い"が似合う年頃。THE・大人の女性を象徴する衣服やアクセサリーに手を出したところで、自身の見た目を滑稽にするだけだと思う。
「あっ、これとかどう?」
「このワンピース?」
「うん、デュアルにこの色は似合うと思うよ。サイズもいいのがあるし」
ブライトちゃんが手に取ったワンピース。それは無地の紺色のもの。春や夏に着られることを想定しているのか、涼しさを重視された半袖型だった。
「でもな~…」
ただ、やっぱり雰囲気が少しだけ大人びている。このワンピースを着たときのちんちくりんなわたしが容易に想像できてしまう。
「ね? 一回試着だけでもしてみよ?」
「そこまで言うなら…」
わたしはブライトちゃんに押し負け、紺色のワンピースを手に持ちながら試着室へと入る。
(自信無いんだけど…)
着ている私服を一枚ずつ脱ぎ捨てて、鏡の前で下着姿となった。高校生になるまでは白色を基調とした上と下の下着を身に着けていたけど、このエデンの園に来てからは黒色に変えたんだっけ。
(んー、大人の女性になるためにはまず内側からだと思ったんだけどなぁ)
周囲の目に見えない個所から、大人の女性っぽい黒色の下着を履いて、徐々に慣らしていこうと思っていた。まぁでも、結局誰もわたしの地道な努力なんて知らないんだけどね。
(身体の至る所がまだまだ幼いよね…)
胸のサイズは測ったときはBカップだったけど、わたしの中では小数点を切り上げればCカップになるから問題ない。一番の問題はやっぱりこの童顔。幼さがいつまで経っても抜けない原因でもあって、天敵だと思っている。
「……」
黒色の下着も脱いでしまえば、裸体はどこからどう見ても小学生か中学生。わたしは全身の至る所を触りつくし、少しだけ気分が落ち込んでしまった。
「…もう十六歳なのに、生えてこないし」
何がとは言えないけど、どうしても下半身辺りの"生え際"が気になっちゃう。中学生の頃に、修学旅行の大浴場で見たクラスメイトの女子たちは、やや生えていたり、立派に生えていたりと様々だった。それなのにわたしだけ、変わらず綺麗なまま。
「ブライトちゃんはどうなんだろう…」
大浴場後の女子部屋では、色々と濃い話題を取り上げていた。"産毛の処理の仕方"や"初体験や初キス"の話。わたしは異性と交流なんてしたことないから、そこで"保健体育の様々な知識"を無理やり詰め込まれてこの有様になった。
「デュアルまだー?」
「あっ、ごめんねー! もう着替えるから!」
わたしはブライトちゃんに急かされたため、紺色のワンピースへとそのまま着替える。そして仕切りのカーテンを開いて、わたしはワンピース姿を見せたけど、
「デュアル? どうしたの?」
「…えっ? ううん何でもないよ!」
そこで重大なミスを犯したことに気が付いてしまう。
("下着"付けてないままだった…!)
さっき脱ぎ捨てた黒色の下着は、足元に転がったまま。つまりわたしの今の状態は下着無しのノーパン・ノーブラという…。
「ほんとに? 少し顔が赤いけど…」
「ううん本当に何でもないの!」
わたしはすぐさま足元に転がっている黒色の下着類を、試着室の隅へと足で退けた。身体の上にワンピース一枚だけなんて、"変態"がすること。
「ていうかそのワンピース凄い似合ってる! 少し大人びて見えるし!」
「そ、そう? じゃあ、これ買ってみよっかなぁ…」
何も履いていないことがバレないようトントン拍子で話を進めていく。わたしは一早く仕切りのカーテンを閉めて、着替えようとしたけど、
「そのワンピースは私が買ってあげる! 私もデュアルが可愛くなるのに協力したいし!」
「えっ」
「折角だしそのまま着て帰ろ! 買ったばかりの服を着て外を歩くと、見える景色が違ってくるから!」
ブライトちゃんは勝手にワンピースの代金を支払って、着ていた私服を入れるための紙袋を渡してきた。退くに退けないので、仕方なくその紙袋を受け取る。
(あ、あとで履けばいっか…)
私服の中に下着を包んで紙袋に入れたけど、この新品のワンピースはスカートの丈が短い。丈の位置は膝よりも少し上ぐらい。ちょっと屈んだだけで、中が見えてしまう。
「この後どうする? 何か食べてく?」
「えっとぉ、どうしよっかなぁ…」
何も履いていないと下半身に変な感じがして、気が気じゃない。涼しさと奇妙な解放感のせいで、わたしは全身がムズムズしていた。
(これじゃあ、わたしは露出狂だよ…!)
羞恥心のせいで、身体が熱くなっていく。濡れた唇を湿らせる熱い吐息が漏れる。
「デュアル、もしかして体調が優れなかったりする?」
「少し…熱っぽいかも…」
「ほんとに…!? 大丈夫!?」
「…うん」
胸がドキドキする変な気分。ブライトちゃんは、わたしのことを心配して、寮の部屋まで送り届けてくれた。
「本当に一人で大丈夫なの?」
「うん。今日は薬を飲んで早く寝たいから、一人にしてほしいな」
「…分かった。何かあったら必ず呼んでね? 私たち友達なんだから!」
――友達だから。わたしは嬉しくなった。こんなにも心配してくれる友達がいること。このエデンの園に来てから初めてだったから。
「…ありがと。何かあったらブライトちゃんをぜーったいに頼るね」
玄関でブライトちゃんに別れを告げたわたしは、私服と下着が詰め込まれた紙袋をベッドの脇に投げ捨てる。あの時と同じ感覚だ。どうも身体の疼きを抑えられないみたい。
「あははっ」
わたしは込み上げる欲望に従い、興奮しながらワンピースのスカート先をたくし上げた。
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