10:11 vsMeteor 後篇
二人はお互いに身体を衝突させ合えば、地面にひれ伏し、痛みによってその場でのたうち回る。
「これってよー? あの光が関係してんのかー?」
「…おそらく、そう。アイツの第二キャパシティ」
メテオの右拳に緑色の光、左拳に桃色の光が宿っているのに対して、ヴィルタスは緑色、ビートは桃色の光によって身体の内側から照らされていた。
「クソッ!! 何だよこれ…!? 全然離れられねぇ!」
「おい、そっちでどうにか引き剥がしてくれ…!」
被害はそれだけでは留まらない。ヴィルタスとビートの身体が衝突したあの瞬間から、二人の身体が引っ付いてしまっていたのだ。
「ぐぐぐっ…!! なにこれ、全然離れないよ!」
「このまま引っ張っても制服が破れるだけか…!」
ノアとルナが全力で左右から引っ張り合ったところで、二人の身体は少しも離れない。まるで二人の身体が、一つの身体として繋がっているかのように。
「…これは無理だな。メテオの能力を解除させるしか方法はない」
「でもこの能力の発動条件って何だろう? ヴィルタスくんとビートくんは一体どうしてこんな風に――」
ルナの些細な疑問。それに答えるように、メテオは右と左の拳を同時に虚空で手繰り寄せ、
「ぐぁっ…!?」
「んにゃぁッ!?」
ノアとルナの身体をヴィルタスたちと同じように衝突させた。
「おいおい、これって…」
「…離れた方がいい」
それを目の当たりにしたリベロとレインはお互いに顔を見合わせて、すぐに別々の方向へと全力で駆けていく。
「仲良くしてくれよ」
しかしメテオが先ほどと同じ動きを行えば、かなり離れていたレインとリベロの身体が引き合うようにして、元々立っていた場所まで引っ張られ始めた。
「マジかよ…!!」
「…ッ!」
彼女は刀を、彼は大剣を地面へと突き刺してその引力に抗おうとするが、
「やっべぇ!?」
「くっ…」
その力には抗えず、地面を切り裂きながらレインとリベロの背中は触れ合ってしまう。
「…分かったよ。お前の第二キャパシティは、俺たちの身体を"磁極"にする能力だな?」
「正解だ。オレの第二キャパシティは
メテオの第二キャパシティ、
「そういやオレたちはお前に一度は触れていたなー。あれが発動条件ってやつだろー?」
「勘が良いな坊主」
発動条件は対象がメテオの身体に"一度でも触れている"こと。ノアたちは彼に接近をし、一度でも触れていた。それが原因となり、第二キャパシティ"磁極"の影響を受けることになったのだ。
「おいおい、この状態で戦うってマジかよー?」
「…それはこっちのセリフ」
「ちょっとノア~!? ちゃんと歩幅合わせてよ!」
「無理だ」
緑色の光を宿しているリベロと桃色の光を宿しているレインは背中合わせ。緑色の光を宿したノアと桃色の光を宿したルナは、右肩と左肩を密着させた状態。
「行くぞ」
メテオが言い争いをしているノアとルナの二人の元まで接近して、右の拳を振り上げる。
「右だ!」
「左に…!」
ノアは右へルナは左へと回避しようと試みた結果、お互いに一歩も踏み出せないまま、
「「――ッ!!」」
メテオの右拳を二人まとめて受ける。そして、そのまま容易く校舎の壁まで吹き飛ばされ、側にある花壇の上で二人一緒に転がった。
「今のはどう考えても左でしょ…! 相手は右腕で攻撃を仕掛けてきたんだよ!?」
「いや、あれだけがら空きだったんだ。右から回り込んで、頭部に反撃の一撃を…」
「おいおいしっかりしてくれよー?」
この磁極という能力が恐ろしいのは、数人に付着させることもできるため、相手と相手をくっ付けて身動きを防いだりすることが可能となる点。強力な磁力によって一度接着すれば、能力が解除されない限り、二度と離れることはできない。
「こっちに来る…!」
「ほんと頼むぜー? オレからそっちは見えないんだからさー」
レインの向いている方角から、メテオが片腕を大きく振り回しながら近寄ってくる。リベロからは相手が見えないため、背後は彼女に任せるしか手段がない。
「ふんッ!」
彼女はメテオの右拳による連打を半身で避けつつ、反撃するために刀を振り上げようとしたのだが、
「がはぁっ…!?」
「――!?」
背中に引っ付いているリベロに顔面にメテオの拳が直撃する。この半身で避けるという行為は、今の状態だと、正面で向かい合っているのと何ら変わりない。リベロが殴られたことで、その勢いのままレインの身体が無理やり右の方向へと引っ張られる。
「これは痛いぞ?」
「うっ――」
メテオの渾身の正拳突き。それが彼女の胸に叩き込まれ、後方へと力無く飛ばされていく。
「おいちゃんと受け身を取れよ! おい聞いてんのか!?」
「……」
リベロ側からすれば、瓦礫の山が積まれている場所に着地をする。それは正面からコンクリートの破片や、鋭利な破片などを受けること。彼は必死にレインに呼び掛けるのだが、意識が朦朧としているのか身体を動かす気配がない。
「
それだけは避けなければならない。リベロは第二キャパシティを発動して、瓦礫の山を炎で消し炭にし、
「ぐっへ…!?」
正面から地面に顔を打ち付けて、着地をした。
「これは貸しだぜ…」
リベロはぐったりとしたレインを背負いながらも、鼻を押さえその場に立ち上がる。
「おーい、死んでんのかー?」
「…生きてる。少しだけ意識が揺らいだだけ」
「オレは嫌だからなー? お前の死体を背中に引っ付けて生きていくのはよー」
ヴィルタスたちは立つことすら出来ず、ノアたちは呼吸が合わない。レインたちは辛うじて戦えるものの、一対一でメテオには敵わないという不利な状況。
「…触れないように、戦うしかなさそうですね」
その場で動けるのは、未だにメテオへ触れていないティアたち。
「でもどうするの? 一度でも触れたらそこで能力を使われるんでしょ?」
「いいえ、あの能力を打破する方法があります」
「打破する…。そんなことが本当にできるのか?」
「はい、出来ますよ」
ブライトとウィザードに返答するティア。彼女は握りしめていた薙刀をその場から消滅させる。
「グラヴィス、全員分のジュエルコネクトはありますね?」
「う、うん。あるけど…」
「ではそれをまず全員に渡すこと。それが第一の目的です」
彼女はグラヴィスから全員分の小型通信機を受け取り、
「
第一キャパシティ、言霊を使用した。小型の通信機はティアに命令をされ、宙に漂いながらもノアたちの元へと向かっていく。
「何をしようとしているかは知らんが…。邪魔となるものは破壊させてもらうぞ」
メテオはそれを破壊するために、行動を起こそうと両手を振り上げる。
「
「
それを阻止しようとヘイズとアウラがそれぞれ引き継いだ能力を発動した。水龍による水鉄砲、枯れ葉による目眩まし。メテオの周囲は一瞬にして、修羅場と化す。
「小癪な…!」
両腕を振り回して枯れ葉を吹き飛ばした後、足元に両指を突き刺して土の塊を持ち上げる。そして、それを水龍に投げ飛ばして跡形もなく消してしまった。
「ブライト、ウィザード、ヘイズ、アウラ、ファルサ。私が作戦を伝えるまで、五人で時間を稼いでください。三分…いえ、一分で構いません。ステラとグラヴィスは私の元まで」
ティアの声に五人が頷き、呼ばれた二人はすぐさま彼女の側まで駈け寄る。
「私があいつの近くで陽動してみる! 皆は後方支援をして!」
「なーに一人でやろうとしてんだ。ワタシも行くに決まってんだろ」
「俺も付いていく。三人の方が上手くいくはずだからな」
ブライト、ウィザード、ファルスの三人がメテオの元へと攻め込んだ。それを合図に再度アウラとヘイズが能力を使用して、水龍と木の葉による目眩ましを始めた。
「数で押し寄せれば勝てると思ったか…!!」
触れないことを第一に考え、攻撃は仕掛けない。ただメテオの周囲を走り回って、拳による攻撃を回避するだけ。
「"創造形態"」
だがメテオは創造形態により真っ黒な鎧となる衣装を身に纏う。今まで見せていなかった全力。それが今ここで解放し、
「邪魔だァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」
「「「――?!」」」
耳を劈くほどの咆哮でブライトたちの鼓膜を破り、三人を音の無い世界へと誘う。
「消えろ!!」
うろたえる三人は一人ずつメテオの殴打で飛ばされ、あっという間にメテオの周囲から人影が消え失せた。
「遠くからちまちまと小賢しいことを…!!」
次にヘイズとアウラへ標的を向けると、両手の拳で地面を叩き割り、宙に浮かんだその巨大な土の欠片を蹴り飛ばす。
「防ぐ…!」
二人は向かってくる土の欠片を相殺するため、創造武器を構えたのだが、
「こっちだ!」
「ウソっ…!?」
土の欠片が目前まで迫った瞬間、粉々に砕かれ、向こう側から拳を振り上げたメテオが姿を現し、
「吹き飛べぇ!!」
「きゃあッ!?」
「くぅぅっ!?」
地面に拳を叩きつけたことにより生じた衝撃波で、ヘイズとアウラを吹き飛ばしてしまった。
「エルガープロス」
次にメテオの死角からティアが能力を発動する。放った炎の塊はメテオの背中に直撃した…。
「生温い炎だな?」
が、創造形態の黒い鎧によって攻撃はまったく通らない。彼女は狐の面の下で頬を引き攣り、
「――雨など降るもをかし」
第二キャパシティ
「相手をしてあげますよ」
「ほぉ、死に急いでいるのか?」
「いえ、そこまで足は速くないので」
「舐めた口を…!」
メテオがその挑発に乗り、左右の拳を鳴らしつつも彼女へと襲い掛かる。
(やはり身体能力を上げたところで…。BC型の私じゃ、足元にも及びませんね)
歌人で身体能力を向上させていたティア。けれどBC型なうえ、メテオの強力な乱舞をいつまで躱し続けることは不可能。
「捕まえた!」
「ッ!?」
ほんの数十秒でティアは胸倉を掴まれ、地面に叩きつけられる。
「っ…!!」
地面へと仰向けに倒れ込んだティアの腹部を、メテオは右脚で上から踏みつけた。
「まずは"ヤツら"の見せしめにお前から殺してやる」
「か"は"ッ…!!?」
臓器が圧迫され、思わず咳き込む。ティアはメテオの右脚を掴んで必死に抵抗するが、超合金のような硬さと重さをしている脚をどかすことなど出来ない。
「残念ですが…あなたの負けですっ…」
「こんな状況になって何を言い出すかと思えば。負け犬の遠吠えか?」
「…いいえ、それは違いますよ」
狐の面の向こう。
そこから覗かせる瞳が灰色に染まり、
「――吠え面見せるのは"お前"ですから」
メテオの身体の至る個所から血が噴き出した。
「なにが、起きて…」
メテオは自身の身体を見下ろす。そこには刀、大剣、大鎌が突き刺さり、拳銃が一丁突き付けられていた。
「ぐおぉぉぉッッ!!?」
身体を万力で挟み込まれたかと勘違いするほどの圧迫感。メテオはその感覚に思わず叫び声を上げる。
「策士策に溺れる気分はどうだ?」
メテオの身体を挟み込んでいたのはレイン、リベロ、ルナ、ノアの四人。それぞれのペアがメテオを挟み込む形で対称に向かい合っていた。
「貴様ら…! 一体どうやって離れて…」
彼の血液以外にも、地面へとポタポタと流れ落ちている血液。それを目にしたメテオは「まさか」と、自身を挟み込んでいるノアたちを一人一人確認する。
「…肉を切らせて骨を断つだよ」
「こんな言葉通りに実践したバカはきっとオレたちだけだぜー?」
ノアは右腕を、ルナは左腕を斬り落とし、リベロとレインは背中の肉を斬り落としていた。ティアが考えた作戦、それを実行するための代償。
「だが斬り落としただけじゃ、ほんのわずかしか離れられない! こんなに状態で挟みこめはしないはず…!」
「…それはどうでしょう」
東西南北、離れた位置に置かれている鏡。その側に立っているのはステラ。
「貴様ら、あの鏡を使って…」
ステラの第二キャパシティ
「これで僕の計算上では、もうあいつは動けないはず…」
ティアはグラヴィスに鏡の向きの角度やメテオを丁度四人で挟み込める位置を計算させ、そのポジションへとメテオを誘導していた。そして所定の位置についた瞬間、ノアたちの肉を断ち切り鏡の中へと入り込んだのだ。
「…正直、この作戦が上手くいくとは思わなかった」
「ああ、ステラが大事な役目を負っていたからな」
計算するグラヴィス、誘導するティア。この二人よりも重要な役目を課せられていたのはステラだ。
「良かった…。成功して、良かったよ…」
ステラの
「…でも、信じて良かった」
二人を転送させた後、すぐに別の二人の元へ鏡を召喚させないといけない。そのタイミングがもし少しでもずれていれば、上手くメテオを挟み込むことはできなかった。
「さぁどうする? 能力を解除しないとお前が押し潰されるぞ」
「ぐお"ぉ"ぉ"ぉ"お"っっ!!?」
N極とS極の引力は凄まじいもの。メテオの創造形態の鎧さえもバキバキに砕き、骨の髄まで圧迫する。能力者が自身の能力によって追い込まれる最悪な事態。
「貴様らぁぁぁあ!!」
それが、ティアの見つけたこの能力の唯一の弱点。それを突かれたメテオは、形勢逆転をされ追い込まれてしまう。そんな不利な戦況にメテオは歯軋りをし、
「第三キャパシティ…
大声で叫んで、次なる能力を発動した。
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