November Holiday
ルナの引きこもり脱却計画 前編
「ノア~! 私、引きこもり脱却する~!」
「あー? お前、引きこもり脱却できてなかったのかよ」
「やることがないと家に引きこもる癖が出てるからさ~? そろそろ引きこもりを脱却するためにノアの部屋から旅立とうと思う~」
私は引きこもりを脱却すると同時にノアの元から離れ一人で暮らすことを決意する。初代教皇と決別したこともあり、これを機にルナとしての生活を心機一転を改めたかったのだ。
「やっと、やっとお前の世話をしなくてもよくなるのか…」
「…何その待ち遠しい日がやってきたみたいな反応」
「いや気にするな。それよりも自立をするならまずはお前の荷造りをしないとな! 自分の部屋番号は分かるか?」
やけに協力的なノアに、私は頬を引きつりながらもジュエルペイで自分の部屋番号を確認する。どうやらここから遠くはない距離。私がノアに自分の部屋の番号を教えると、
「荷物は全部運んでやるから、お前は先に自分の部屋の掃除をしていてくれ。半年も入っていないんだから埃塗れだろうしな」
「何か妙に喜んでない~?」
「気のせいだ気のせい」
私はノアの部屋に私物を次々と鞄に放り込む。
そんな私の側に近寄ってきたのはノエル。
「ルナお姉ちゃん? 何してるの?」
「引っ越しの準備だよ~! 私は自立をすることにしたんだ~」
「じりつ…?」
ノエルは首を傾げて私の顔を不思議そうに眺める。私はそんなノエルの頭を撫でて、荷造りを何とか終わらせた。
「荷造り終わったよ~」
「そんじゃあ行こうか。お前の部屋に」
荷造りした荷物をノアに持ってもらい、半年ぶりに私の部屋へと訪れてみれば、
「うっ…埃っぽいね…」
「当たり前だ。半年も放置していれば自然と汚れるに決まってる」
部屋の隅から隅まで埃が被っていたりしたせいで、私は思わず口を塞ぐ。隣に立っているノアはいつの間にか口にマスクを装着しながら、部屋の奥へと乗り込んでいく。
「これぐらいならまだマシだ。軽く掃除をするだけですぐに綺麗になる」
「ほんとに~?」
「最近の科学力は兵器だけじゃなくて、掃除にも使われているらしいからな」
ノアはそう自信満々に答えると、部屋の真ん中に筒のような機械を創造して設置する。
「それは何なの~?」
「あー…『対埃キラーマシーン』だ」
「どっかのゲームに出てきそうな名前だね~」
某RPGにありそうな名前の機械名を耳にして、私は頭の中で四本足に剣とボウガンを持ったモンスターを思い浮かべていた。そんな私を他所にノアはその機械のスイッチをオンにする。
「外に出るぞ」
「え、外に出るって…この機械はどういう動きをするの~?」
「まぁこっちで見てれば分かる」
ノアに連れられベランダへと移動をして、窓越しでその『対埃キラーマシーン』という名の掃除機械の動きを観察することにした。
「…え、えぇ? あれってもしかして部屋の中にある埃を吸引してるの~?」
「あの機械は汚物の塊である埃の繊維をセンサーで読み取り、よく判別をしながら吸い込んでいるんだ。ネックレスや髪飾りといった金属、生体反応のあるものなどは吸い込まないように作られている」
「こんなの私たちの時代にあったっけ~?」
スイッチがオンになった『対埃キラーマシーン』は、とてつもない吸引力で部屋の至る所にある埃をすべて吸収し始める。窓の外から眺めていても、その吸引力の高さが伝わるほどに強力なものだ。
「いいや、あるはずないな。あの機械はこの前グラヴィスに教えてもらったものだし」
「グラヴィスくんに~?」
「あぁ、この時代に便利な掃除道具はないのかと尋ねたらこれを教えてくれたんだ」
「そうなんだ~…」
次々と埃を吸い込んでいくと、ピタリとその機械が停止した。
「センサーで確認する限りの誇りをすべて吸いきったようだな」
ノアがそう言いながらも窓を開き、中へ入ろうとしたその瞬間、
「…うおお!?」
「んにゃぁあ…っ!?」
再び『対埃キラーマシーン』が吸引を始め、ノアと私の服が引っ張られた。どうやら私たちの服に付いている埃を感知して、再び吸引を始めてしまったらしい。
「ノアーー!? このポンコツを止めてよー!!」
生体反応は吸わない、汚れである埃は吸う。この両方が共存した際にどちらが優先されるか。言わずもがな、この『対埃キラーマシーン』は埃を吸うことだけを考えるだろう。
「分かった分かった! ぶっ壊すからそこにしがみついて待ってろ!」
「え!? ぶっ壊すの!?」
「スイッチをオフにするよりも壊した方が手っ取り早い!」
普段なら私は頭が回らない方だ。交戦する際も頭をあまり使わず、力に物を言わせてひねり潰すタイプ。だからこそ咄嗟の思い付きや機転を利かせることなどはできない。
「タイム~! それを破壊したらダメだと思うよ~!?」
「何て言ったんだぁー!? 何も聞こえないぞ!」
「破壊したら、ダ・メ・な・の~!!」
「おい聞こえないぞ!」
しかしこんな茶番に等しい状況下の中で、『対埃キラーマシーン』を破壊して止めたときに一体どうなるのかがすぐに脳裏を過った。よく考えて欲しい。『対埃キラーマシーン』は先ほど大量の埃を吸い込んでいた。もし仮に作動している最中に強い衝撃なんて与えてしまえば、
「もういい! さっさと壊すからな!」
「ダメェェェ!!」
――溜まっていた埃が逆流を起こし、部屋中に埃がばら撒かれる。
という私のその予想は的中。ノアが素手で『対埃キラーマシーン』を壊せば、ガタガタとその場で震え、
「うげっ――!?」
「ぬゃぁぁぁあ!!?」
機械が爆発を起こし、中に溜まっていた埃が雨のように降り注ぐ。私とノアはそれをもろに被り、自身の身体が埃塗れになってしまう。
「「……」」
最初に訪れたときよりも酷い部屋の有様。
一からのスタートというよりマイナスからのスタート。
「…ノア」
「……ごめん」
そんな惨劇を目の当たりにしたノアは、巨大な埃を頭に乗せながらそう私に謝った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ…何とか掃除が終わったな」
あの惨劇の後、一時間ほどかけて部屋を綺麗に掃除した。勿論掃除の仕方は機械に頼らず、自らの手で雑巾やモップを使ってゴシゴシとひたすらに手間をかけている。
「これでこの部屋には住めそうだね~」
「そうだな。少し部屋が寂しい気もするが…」
私の部屋が綺麗になっても、見渡す限り殺風景。最低限必要な冷蔵庫・洗濯機・掃除機という昭和時代に三種の神器と呼ばれていたものが置かれていても、物を置く棚といった家具などがなければ荷造りしてきた荷物を仕舞うことができない。
「明日買い出しに行こうかな~…」
「お金はあるのか?」
「うん、今まであんまり使うこともなかったし~。必要なものを買えるだけのお金はあるよ~?」
今までノアの部屋で暮らしてきたことで、出費はせいぜい食費や生活費分だけ。私はリベロやファルサのように趣味に没頭してお金を使うことはしていなかった。
「買い出しに行くのは構わないが、俺は明日用事がある。もし行くのなら、付き添いは俺以外のメンバーに頼めよ?」
「そっか~。それなら誰に頼もうかな~…」
「誰に頼むかを考える前に、必要なものをちゃんと紙にでもリストアップしておけ。うろうろしてその場で買うものを決めていたらいつまで経っても必要なものがすべて揃わないからな」
私はノアの意見を参考に、一枚のメモ帳へと必要な家具を記しておくことにする。
「赤の果実のメンバーたちには俺から協力してやってくれと頼んでおくよ」
「待ってよ~!? それじゃあまるで私が右も左も分からないみたいな言い方で――」
時は既に遅し。
グループチャットにはノアが私の部屋の番号と、買い出しに付き合ってあげてほしいという二つのメッセージを送っていた。それを見たブライトたちは『OK』というイラストのスタンプを送ってくる。
「良かったな。みんな協力的で」
「全然良くないよーー!!」
私の引きこもり脱却計画。
それはまだ始まったばかり。
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