6:13 管理外の記憶
「……」
死体の山が積み上がっているZクラスの教室で、ノアたちは身体を休ませる。遺体を見るだけで吐き気を催していたメンバーたちも日に日に慣れてきてしまっているのか、平然とした顔で過ごしていた。
「ビートくんとアウラちゃんは~?」
「自分の仲間たち"だった"ものがある教室になんていたくないだろう」
ネクロはスロースに殺されたとグラヴィスから聞いていたノアは、残りのBクラスの生徒の分を密告システムで通告し終えていた。
「あの二人から目を離して大丈夫なの~?」
「AクラスもSクラスも恐らくこれ以上の行動を起こさない。アウラやビートが狙われることはないはずだ」
「それじゃあ~…後はいつも通り時間が経つのを待つだけだね~」
ルナがノアの隣にさり気なく腰を下ろす。Bクラスとの戦いが幕を閉じ、メンバーたちが安堵する中でたった一人ノアだけはディザイアのことを考えていた。
(ディザイアに名前がなかったこと。ゼルチュはジュエルペイの不具合だと言っていたが…)
どうもそうは思えない。
例えそれが本当に不具合だったとしても、ディザイアがゼルチュへと襲い掛かった理由が不明だ。ディザイアはどれだけ残虐な行為を繰り返しても、決して校則違反を起こしていなかった。
(あの二人は俺たちの知らないところで何かあったのか…?)
そんな彼が校則違反を犯してしまうほどに憎悪を抱いて我を忘れてしまう。そこまで劣悪な関係をこの半年僅かで築き上げられるはずがない。恐らくはこのエデンの園が始まる前から知り合っていたとしか…。
「ステラちゃんってユメノ使者を呼び出せるようになったんだよね?」
「そうだよー」
「今も呼び出せるの?」
「うーん…ちょっとやってみるね」
ヘイズがステラに些細な疑問を投げかけてみれば、ステラは大きく深呼吸をして、
「ユメノ使者、モルペウス!」
光と共に自身の背後へと半身であるユメノ使者を呼び出した。
「今度はなに?」
(種族が神のユメノ使者か。この世界へ来て最高ランクのユメノ使者を見るのは初めてだな)
モルペウスは赤髪のツインテール。ステラは赤色の長髪。このように髪型で判断するしか見極められないほど似た者同士。ヘイズも二人を前にして交互に見比べている。
「あなたってわたしの半身なんでしょ?」
「そうだけどー?」
「何でも言うこと聞いてくれるの?」
「まぁねー」
ステラはモルペウスの返答を聞いて「じゃあ…」と何かを少しだけ考えて、
「あいつに攻撃して!」
「おい、俺は味方だぞ」
意気揚々とノアを指差し、そう命令を下した。ノアはふざけているステラに大きな溜息を吐きながら、軽いツッコミを入れたが、
「はいはい」
「え?」
モルペウスはその命令通り、光のレーザーをノアへと放った。
「…味方だという主張が聞こえなかったのか?」
ノアは自分の前方に鏡を創造して、窓の外へとそのレーザーを反射させる。その威力は殺傷力が高く強力もの。
「モルペウス…! ノアは味方だよ!?」
「わたしは味方とか敵とか分かんないしー。それにあなたが攻撃しろって言ったから攻撃しただけだよ?」
ユメノ使者はその人物の半身が故に、創造力が本人より高くなる場合もある。自身の実力に見合うランクのユメノ使者ならば、素直に言うことを聞いてくれる。…が、自分の実力以上のランクのユメノ使者となれば反抗したり、命令を無視したりすることもあるのだ。
「そのユメノ使者はステラの実力に見合っていないんだ。不必要に呼び出せば、暴れ回る可能性だって――」
「あー! 人間さんたち"久しぶり"だね!」
彼の言葉を遮るようにしてモルペウスがノアとルナの前まで詰め寄る。そして懐かしむような表情を浮かべながら二人の顔を眺めていた。
「久しぶりって~? 私たちは初めて会うけど~?」
「"何千年"も前に会ったことあるよ?」
「…人違いじゃないか?」
「えー? 確かに少し"若い"ような気もするけど…」
ノアとルナは表面上で人違いだと主張をしているが、モルペウスが自分たちと過去に会ったことがあるという記憶は間違っていないと心の中で確信を得ていた。"何千年も前"・"少し若い"という二つのキーワード。これは二人が赤の果実のメンバーたちに隠し通している内容に当てはまる"転生"に関連する言葉だ。
「青色のニット帽を被ってた人間や、凄い怠そうにしていた人間とかと一緒にいたでしょー!」
「それは…誰の事だ?」
そればかりは記憶喪失中のノアとルナも覚えてはいない。けれどモルペウスが嘘をついているとは到底思えなかった。根拠はステラの半身だということ。モルペウスは当の本人に似て、嘘をつくほどの知能を持ち合わせてはいないはず。
「おっかしいなぁー。本当に人違いだったりする?」
「私たちに聞かれてもね~」
(ステラは何の話かを理解していない…ということはモルペウスだけが俺たちのことを覚えているのか?)
ステラとモルペウスの関係性は主と従者。本来ならば主が持つ記憶のみを従者が持つことができるはず。それなのにモルペウスはステラの記憶外のことを覚えている。これはあり得ない事象だ。
「おー…もうそろそろ鐘が鳴るぜー」
Bクラスとの戦いは一日で片付いたが、一週間分の疲れを身体に付加させた第四殺し合い週間。そんな長いようで短かった一週間に終わりを告げる鐘が、
「――何とか生き残れたか」
ノアたちの勝利を祝福するように校舎内で鳴り響いた。
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