3:6 赤の果実は半熟する
「今日は救世主側も教皇側も合同で、ある技を教えようと思う」
一部屋だけトレーニングルームを借りて、レインたちの前にルナとノアが立つ。二人はBクラスと戦う前に教えるべきことがあった。
「レインにリベロ、ディザイアが自身に黒色の衣服を纏わせていたのを覚えているか?」
「オレは知らないぜー。なんせ死んだふりをしていたからなー」
「ならレイン。お前は?」
「…覚えてる。あなたはあの時、
ノアは頷き、続けてこう説明を続ける。
「俺とルナがお前たちに教えるのは
「創造形態っていうのはどういうものなのでしょう? レインとリベロは実際に見ているので分かるようですが、私たちはそれを目にしたことがないのでいまいち想像がつきません」
「安心しろ。今から俺とルナで実際に創造形態を見せる。よく見ておくんだぞ」
ノアとルナは視線を交わすと、創造力を集中させた。
ルナは黒色の光が身体全体を包み込み、ノアは白色の光が身体全体を包み込んだ。
「……これが創造形態だ」
「某変身アニメみたいでしょ~」
するとノアは白色のコートのような衣装を、ルナは指揮官のような黒色の衣装を纏って、その場に現れる。
「…見た目が変わったようにしか見えないな」
「うん。確かにさっきとあんまり変わらないと思うけど…」
「最初はそう思うよね~」
「そうだなぁ……レイン、試しに真剣で俺を斬ってみろ」
「真剣で?」
「あぁ、全力で俺を斬ってみろ」
「…分かった」
ノアに指示を出されたレインは、普段から使用している模擬刀ではなく刃が付いた真剣を創造し、居合の構えに入った。ブライトたちは本当に大丈夫なのかと息を呑む。
「手加減はしない」
レインが抜刀してノアに斬りかかる。
ノアは避けようとも受け止めようともせず、そのまま棒立ちをしていた。
「――!?」
間違いなく斬り込んだ…はずが、逆にレインの持っていた真剣が粉々になる。それを目の当たりにしたレインは、その場に立ち止まり、握っていた柄でノアに振り払うが、
「…嘘でしょ?」
小枝のように折れてしまった。
ノアの衣装には傷一つ付いていない。ノア自身もまったく痛みを感じていないようだ。
「創造形態は創造力の特徴を生かした技だ。どんな特徴を生かしているか…レイン、分かるか?」
「…自分よりも強い創造者の創造物を、破壊は出来ない」
「そう。この創造形態は簡単に例えるなら鎧みたいなものだ。これを覚えれば、自分よりも格下の攻撃をものともしなくなり、自分より強者の攻撃を軽減することが可能になる」
それは鎧となり、相手からの攻撃を無効化、または和らげる効果がある。ノアとルナが転生をする前の時代から存在していた一種の技。ディザイアはそれを使用していたのだ。
「効果はそれだけじゃないんだ。…ルナ、この裾を破れ」
「オッケー」
ルナはノアに言われた通り、コートの裾をビリビリに力技で破る。本当ならばこんなことは出来ない。ノアとルナの創造力が均衡していたからこそ成せたことだ。
「仮にこうやって損傷をしても、一定時間経てば…」
「…元に戻っているのか?」
ビリビリに破かれた部分が、徐々に修復を始めた。
「この鎧は『体内に流れる創造力を体外へと具現化』させたようなものだ。纏っているように見えても実際は一心同体の鎧。損傷した部分は、自動的に再生してくれる」
「でもよー? ルナの鎧は肩出てるし、意味ないんじゃねー?」
「私は動きやすさを重視にしてるからね~。ノアみたいに防御を重視にしちゃうと、どうしても出遅れることあるし~」
創造形態による鎧は人それぞれ。
勝手に決められるものではなく、自分で好きなように創造が可能。どんな材料がいるのかなどは考えずとも、創造力が主となり形成されている鎧は創ることが出来る。
「やり方は簡単だ。自分の周囲に創造力を放出する感覚で、鎧を創造すればいい」
「…やってみる」
「おい、待て話をちゃんと聞いて―――」
レインがノアからやり方を聞く前に、すぐに創造形態を試そうとした。最初はノアと同等に白色の光に包み込まれていったが、
「……?」
「「「…っ!?」」」
「…だから、話を聞けと言っただろ」
そこにはほぼ半裸のレインが立っていた。
リベロたち男性陣は一斉に視線を違う方向へ逸らす。
「…どうして出来ないの?」
「体内の創造力が少ない状態で鎧を創造するのは、生地の薄い服を着るようなものだ。お前の場合は僅かな生地しか形成出来なかった。つまりは、創造力がまったく足りていないんだよ」
「ええっと…それって私たちはやらない方がいいよね?」
「ブライトたちに限らず、リベロたちもやめた方がいい。こうなりたくなかったらな」
「室内だとしても、すっぽんぽんは勘弁だぜー」
「この創造形態を習得するための練習は、一人で行った方が良さそうですね」
「それが賢明だ。ほらレイン、さっさと落ちている制服に着替えろ」
ノアは自身の白いコートをレインに羽織ってやる。
わずかに蒼色の和服のようなものは見えたが、それでも鎧と呼ぶには程遠い。
「それにこの創造形態は鎧を維持するのにもかなりの集中力と創造力が必要となる。お前たちにはまだ使えない」
「それなら、どうして僕たちにこの技を教えたの…?」
「Bクラスが創造形態を扱えるのは確かだからね~。どういう特徴で、どういう効果を持つのかを知ってほしくて~」
「今月に殺し合い週間があるんだよ? 私たちが頑張ってこれを覚えないとマズいんじゃ…」
「残り少ない時間で創造形態を習得するのは無理だ。後、二ヶ月か三か月あればどうにかできたが…」
心配をするファルサに、ノアはキッパリと「無理だ」と返答する。
何よりも殺し合い週間までの時間が少なかった。それなりに赤の果実のメンバーたちも努力をし、ノアやルナも、精一杯鍛えようとしている。だが、それでもやはりそこまで仕上げることは不可能なのだ。
「Bクラスには『ああ、この程度か』と思わせるぐらいの力を発揮しろ。変に中途半端な力を見せつければ、向こうも全力で殺しに来るからな」
「意表を突くってことだよね?」
「簡潔に述べるならそうだ。耐えて耐えてチャンスを待って…その時が来たら相手のジュエルペイを腕を斬り落としてでも奪い取る」
「…腕を斬り落とすのか?」
「あいつらは再生ぐらい使える。それぐらいものともしないだろう」
ノアはレインが着替えたことを確認すると、次の段階の話へと移る。
「そこでだ。もし仮に相手が創造形態となった場合の対処法を話す」
「おー! それだよそれ! オレずっとそれが気になってんだよなー」
やけに興味を示すリベロを他所に、ノアはレインが手に持っているコートを受け取り、試しに広げてレインたちへと見せた。その白いコートはどこからどう見ても布で作られていそうな見た目だ。
「対処方法は創造破壊とほぼ同じだ。攻撃する個所を一点集中し、この鎧が修復する前にひたすら損傷させる。それを繰り返して、相手の創造力を枯らすか、鎧を突き破って本体へと攻撃を与えるかの二つしかない」
「んじゃあさー? 相手の鎧がパーンって破けて、どこかの誰かみたいに丸裸になるとかはあるのかー?」
「…ここで殺す」
「落ち着けレイン!」
刀を創造して、斬りかかろうとするレインを止める。
「リベロ? 変なこと言わないでよ?」
「冗談だってヘイズー。オレは真面目に聞いてるんだぜー」
「…リベロ、お前はそれが真面目なのか?」
「まぁなー。んで? 教えてくれよー」
「あー…そうなることは稀にある。例えば相手の精神が極限に追い詰められたときだ。一定だった創造力の流れが不安定になり、鎧が内部から崩れたりする」
「ほーん、そうなのかー。良いことを聞いたなー」
リベロが何を企んでいるのかは分からないが、取り敢えず質問には答えたノアは、ルナと共に創造形態を解除し、元の制服姿へと戻った。
「あれっ? ノアとルナはどうして解除したら、元の制服姿に戻れるの?」
レインは先ほど裸になっていたというのにノアとルナは元通り。
ブライトはそれに気が付き、そんな疑問を投げかける。
「あぁ、そういえば言ってなかったな。俺たちはエデンの園の制服に酷似したものを創造力で形成させているんだ」
「それは今の状態も創造形態、ということですか?」
「まぁね~。いつどこから自分の身に災いが降りかかるかなんて分からないし~。私とノアは授業日からずっと創造形態を保ってたよ~」
「…なら、さっきの恰好は必要ないでしょ?」
「それがそうでもない。スポーツにだって、選手が動きやすくなるように専用のユニフォームがあるだろ? 戦う時だってそれと同じだ。自分が動きやすいと思う服装を見つけ、その恰好で戦う。着慣れているか、着慣れていないかで戦況は一気に変わるもんだぞ」
ノアとルナは前世で戦ってきたからこそ、恰好の重要さが分かっていた。ベストコンディションの状態で全力を発揮するためには、些細な変化も起こさないこと。着慣れた服、履き慣れた靴、あらゆるものが普段通りだからこそ、本気を出せる。運動会に新品の運動靴を履いたところで勝てるはずもない…とノアは伝えたかったのだ。
「そっか! ルナは入学式の日はローファーだったのに、次の日にはブーツに変わっていたのも…」
「そゆこと~。私はこっちの方が動きやすいと思ったからだね~」
「戦い慣れた時、最も厄介になるのは環境の変化なんだ。レインたちはまだ戦い慣れている…とは言えない。だから、殺し合い週間が始まるまで、まずは自分の戦闘スタイルを決めて教えて欲しい。俺たちも全力でバックアップする」
殺し合いに強くなる方法、なんてものは日常で教えられるようなことじゃない。けれどルナとノアは幾度も殺し合いを経験してきたプロのような存在。その二人によってレインたちは創造形態と共に「自分のスタイルを見つけることの大切さ」を教えられた。
(…考え方が変わったな)
レインたちの表情は僅かに変化をしている。
ノアとルナは、それを見ると二人で顔を合わせて頷いた。
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