2:11 第二殺し合い週間 中篇

「おい!? 何が起きたんだよ!?」

「ボクらは嵌められたんだ…!」


 辺りの視界が黒く染まり、近くにいる人物の顔すら見えなくなる。

 Cクラスの生徒たちは罠に嵌められたことに気が付くと、全員がざわつき始めた。


「くそぉ!! もう一度オレが引き戸を吹き飛ばして……」

「よせブレイズ! ボクたちが少しでも加減を間違えれば、仲間にも当たってしまう! 君は炎で少しでも辺りを照らしてくれ!」


 フリーズは何か打開策はないかと考えようとするが、その時間すらも与えられることなく


「ぐぁ!?」 

   

 すぐさまCクラスの男子生徒の呻き声が聴こえてきた。

 フリーズとブレイズは声のする方向へと、炎で照らしてみるが誰かが倒れている様子もない。


「きゃぁ…!?」

「うあぁっ!!」

「ぐぅあ…!?」


 しかし次々と生徒たちの呻き声は聴こえてくる。

 ブレイズとフリーズは数人の呻き声が聴こえ、やっとその意味を理解した。


「気を付けろ! この部屋の中に敵がいるぞ!」

「背後を取られたらマズイ! 壁を背にするんだ!」


 二人は仲間たちに注意をするが、呻き声は鳴り止まない。


「うおおお!! オレ様に任せろぉぉ!!」

「落ち着けアスパイア! 大声を上げたら敵の動きを探れないだろ!」


 アスパイアのせいで、音で敵の位置を判断不可能となり、ブレイズとフリーズも手を出すことすら出来ない。


「……声が聞こえなくなったってことは」

「ボクたち以外は全滅、だね」 

「おい!! オレ様たちしかいねぇのかよ!?」


 声が聞こえてくるのは、ブレイズ、フリーズ、アスパイアの三人のみ。


「どこだ…! どこにいやがる!」


 ブレイズが声を荒げて敵の居場所を探ろうとするが、教室内は嵐の後かのように静まり返っていた。



「「「――!!」」」



 三人の首筋に冷たい触感が伝わり、声を失う。

 自身の首に触れているものが"敵の武器"だということは嫌でも分かってしまうのだ。


「……」


 教室内の明かりが点灯する。

 そこでやっと敵の姿が明確となった。


「君たちは…」


 ブレイズにはブライトが短剣を、フリーズにはウィザードが杖の類であるスタッフを、そしてアスパイアにはレインが刀を突き付けていた。


「上手くいったね」

「てめぇは…!」


 ルナが教室内に姿を現し、ブレイズたちの身動きを止めているレインたちを見て軽くウィンクする。


「どういうことだい? ボクたちの仲間…Cクラスの生徒たちはどこへ?」

「それだけじゃねぇ…! Zクラスのやつらはどこに消えた!?」


 どのような作戦を立てていたのか。

 それは再生や創造破壊を教えた日まで遡る…。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「…裏をかく?」

「ああ、ブレイズたちは俺たちZクラスが守りに徹するしかないと考えている。今月の殺し合い週間はその裏をかいて、俺らから攻撃を仕掛けるんだ」


 赤の果実のメンバーたちは、ノアの元へ集められると簡単な作戦説明を受けていた。私はそれを隣で見守りながら、ノアの話を聞く。


「攻撃を私たちから仕掛ける? 殺すこともできないのに、攻撃したところで何の意味があるの?」

「レインの言う通りだよ。私たちからCクラスの本拠地に攻め入るなんて自殺行為と同じことじゃ…」

「誰がCクラスに攻め込むなんて言った。俺は攻撃を仕掛けるとだけしか言っていないぞ」

「ノア、それならどうするつもりなのですか?」

「誘い込むんだよ。Zクラスの隣にある空き教室にな」


 確かにZクラスの教室の隣には使われていない教室がある。

 その空き教室の使用用途は未だハッキリとはしていない。


「ノアくん…誘い込むといってもCクラスが教室を見間違えることなんてないと思うよ?」

「あぁ、だから俺たちの手で偽物のZクラスを創るんだ」 

「偽物のZクラス?」


 ノアはB型のリベロ・ティア・グラヴィスの三人を順番に指差しながら、説明をこう続けた。


「一階から五階まで、すべて教室の数や位置が一緒だ。先月はそれを利用して、俺たちは五階まで駆け上がって空き教室で立てこもっていたよな?」

「そ、それがどうしたんだよ?」

「実は一階から五階まで教室の数はすべて一緒だったが…唯一一階だけ教室の位置が少し違ったんだ」

「教室の位置、ですか…?」

「俺たちの階には下駄箱があるだろ? その分だけ廊下の長さが上の階よりもあるんだよ」


 思い返してみれば、本校舎の外から真正面に見たとき、二階から横の長さが縮んでいたような気がする。そう思うのは私だけでなく、レインたちも「そういえば…」と気が付いているようにも見えた。


「今月はこれを利用するんだ」

「どのように利用するのですか?」

「――Zクラスに続く廊下へ壁を創って、行き止まりだと思わせるんだ」

「か、壁を…!?」

「そうだ。この壁は殺し合い週間が始まる前、B型の三人に創ってもらう」

 

 B型は防壁を創造することに長けている。

 ノアは三人のその性質を利用しようとしているらしい。


「日頃から二階で過ごしているブレイズたちなら、壁が創られていることなんて気が付かないだろう。相手がZクラスの生徒だからと気を抜いていることなら尚更だ」

「なるほどねー。オレたちも活躍できるってわけかー」 

「待って。教室の中に誘い込めたとして、その後どうするつもり? まさかそのまま閉じ込めておくわけじゃないでしょ?」

「当たり前だ。教室の中に誘い込んだ後は、A型の出番だぞ」


 今度はA型のレイン・ブライト・ウィザードを指差して、役割について説明を始めた。


「殺し合い週間が始まると同時にCクラスはやってくる。お前たちは深夜帯の暗闇を利用して、三人でCクラスの生徒たちを気絶させろ」

「…気絶させる方法なんて知らないぞ? それに暗闇で気絶をさせるのなら、俺たちだって見えないはずだ」

「この"暗視ゴーグル"を使用すればいい」


 ノアは三つの暗視ゴーグルを三人にそれぞれ手渡す。


「ブレイズ、フリーズ、アスパイアだけは気絶させずに残しておけ。それ以外は全員気絶させるんだ」

「もしブレイズたちが暴れ回ったらどうするの? 私たちやられるんじゃ…」

「大丈夫だ。あいつらがいくら氷や炎を操れても教室という閉鎖空間、ましてや暗闇の中で能力を発動すれば仲間にも被害が及ぶからな。絶対に第一キャパシティは使用しない」


 A型・B型の六人は役割が決まり、まずチップを貰えるはずだが…C型のヘイズとファルサにはまだ役割を伝えられていない。


「ヘイズちゃんとファルサちゃんには何をさせるの~?」

「あー…少し大変だとは思うが、A型の三人が気絶をさせたCクラスの生徒たちをロープで縛っておいてほしいんだ」   

「ロープで?」

「暴れられたら困るからな。Cクラスとの一戦が終わるまで、Zクラスの教室で様子を見ておいてほしい」

「……えっと、Zクラスと空き教室の間に壁を創るんだよね? 私たちはどうやってZクラスまで気絶させた生徒を運べばいいの?」


 ファルサが挙手をしてそんな意見を述べる。

 言われてみればそうだ。Zクラスと隣の教室の境目に壁を創るのなら、その間を行き来が不可能となる。ノアの作戦に穴があるのではないかと声を上げようとしたが


「その点は心配いらない。廊下を歩かずとも、隣の教室へ移動する方法がある」 


 ノアは自信満々にそう言い切った。

 廊下を歩かずなど、転移技でも使用できなきゃ無理な話だと誰もがそう思っただろう。


「…ここがZクラスへ移動できる場所なのか?」

 

 四限目の訓練の時間が終わり、その方法を見せると言われノアに付いて行ってみれば、辿り着いたのは空き教室の使用されていないロッカーだった。


「どこからどう見てもただのロッカーだけど…」

「それはどうかな?」


 ノアはロッカーを開いて、軽く奥を押し始める。

 一体何が起こるのかと私たちは見守っていれば


「嘘…!」

「うおー! 隠しダンジョンみたいだなー!」 


 すぐ隣にあるZクラスのロッカーの中まで続いていた。

 私たちは順番にそのロッカーを通って、Zクラスまで戻ってくる。


「…こんな仕組みがあったのか」

「全然知らなかったよ…」

「ノア、どうしてあなたはこの仕組みを知っているのですか?」

「本校舎の地図を見たからな」


 ノアが同盟チャットに地図の画像を添付して送ったため、私たちはそれを見てZクラスと空き教室の位置を確認してみると


「ほんとだ、ここだけ道があるよ」 

 

 細い通路のようなものがZクラスから空き教室へと繋がっていた。

 

「…この地図はどこから?」

「ウィッチに『校舎の地図が欲しい』ってメッセージを飛ばしたらくれたんだ。一階だけしか載っていないが、今はこれだけでも十分だろう」


 ノアは私たちの知らないところで情報を集めていること。

 それをその時に知って、少しだけ心が締め付けられるような感覚がした。まるで私のことなど必要ないと思われているようにも捉えられたから。


「作戦遂行中の連絡は無線で取り合うことにする。以上が今回の作戦だが…何か質問はあるか?」 

「…私は何をすればいいの~?」

「ルナは…いざという時に援護へ入れるよう、Zクラスで待機しておいてくれ」

「……分かった」 

  


◇◆◇◆◇◆◇◆


 

「そういうことだったのか…。ボクたちの行動はすべて読まれていたんだね」

「うん。綺麗に引っ掛かってくれたおかげで、作戦は無事に成功したよ」

「…おい、ノアはどこにいやがるんだ? まさか高みの見物ってか?」

「Zクラスにいるけど? きっと自分が出る幕でもないと思ってるんじゃない~」 

 

 実際、作戦はここからが本番だ。

 レインたち三人がブレイズたちの身動きが取れないようにしている現在。この状態で敗北を認めさせれば、CクラスとZクラスが無事に手を組めるようになる。


「これはあなたたちの負けだよね? あの時の約束を守ってもらうよ」

「…負け? 何を言っているんだい?」


 フリーズの雰囲気が明らかに変わった。

 冷気を漂わせ、臨戦態勢へと入っている。


「今更抵抗するつもり?」

「もし…この場にノアがいたのなら、ボクは負けを認めたかもね」

「…! 私が相手じゃダメとでも言うの?」

「いいや。そこに立っているのが君だからこそ、ボクにはまだ勝てる可能性があるんだよ」


 瞬間、フリーズの身体から一本の氷柱が飛び出して、ウィザードの右肩を貫いた。 


「ぐぅ…っ!!?」

「ウィザード!」

「おらぁ! 邪魔だぁ!!」


 炎が渦巻いて、ブライトを熱風が吹き飛ばす。

 レインは巻き添えを食らう前に、出口のある方向へと飛び退いた。


「ウィザード…! 大丈夫!?」

「…ああ、再生のおかげでなんとか無事だ」


 吹き飛ばされたブライトはその場に立ち上がり、急いでウィザードの元へと駆け付ける。どうやら再生を上手く使用したことで、怪我は治療が出来たらしい。


「ルナ! どうするの!?」

「ノアのノートにはこう書いてあるよ。この場でブレイズたちが反抗する意思を示した場合―――」


 私は大鎌のラミアを手元に創造する。


「――――実力行使で大人しくさせるって」

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