柏蜜柑の初日
犬や猫、あるいはハムスターなど、可愛い動物が好きだという女性はそれなりにいる。しかし、ヘビやトカゲといった爬虫類、あるいは獰猛な肉食動物すらも愛玩動物として愛でることができる女性は少数派だろう。そして、柏蜜柑はそんな少数派の一人だった。
彼女の実家はペットショップを営んでおり、ミカンは自然な流れであらゆる種類の動物達を可愛がるようになった。そんな彼女が異世界への扉を開いたのは、当然地球で見る事の出来ない動物と触れ合うためだ。
彼女がスタートに選んだのは、マロッペという名の無人島だ。
面積は他の有人島に比べると小さく、住み着いているのは野生動物のみだ。ミカンにとっては楽園とすら言える。
最初に立っていた場所は、滝のある川原だった。とりあえず飲み水には困らなそうだ。
また、滝壺は思ったよりも深く、魚も生息している。食料も目処が立った・・・と言いたいところだが、生憎と彼女には魚を手掴みで捕るような能力はない。ついでに、獲っても調理する手段もない。
そのまま川に沿って歩みを進めると、猫の背にフクロウの翼が生えたような奇妙な動物の群れと出会った。
人間への警戒心が薄いらしく、ミカンには一瞬目をくれただけで、暢気に川辺で水を飲んでいる。そちらへと歩み寄っていっても、逃げる様子すら見せない。地球の動物ならあり得ない反応だ。
そのまま群れの傍まで近寄ると、一斉にネコフクロウたちがこちらを見た。ギョッとするミカンを囲むように、ネコフクロウが寄ってくる。そして、鳴き声の大合唱を始めた。どうやら、懐かれたらしい。スキルの恩恵だろうか。
その内の一匹に手を触れてみる。危害を加えてくることはなく、むしろ地球のネコと同じ様にじゃれついてきた。そのまま撫でていると、他のネコフクロウ達からも期待しているような視線を向けられた。
しばらくの間、ミカンは代わる代わる彼らの背を撫でる羽目になった。
その後、ようやくネコフクロウ全員が満足したところで、一匹に擬人化の力を行使してみる。
といっても、実際の行動としては、ネコフクロウの額に指で触れて念じるだけだ。
変化は劇的だった。等身は人間の子供程度まで成長し、しかし猫目や髭、フクロウの翼などはオミットされていない。まさに獣人といった見た目だろうか。二足歩行まで可能になっている。
「にゃ!?にゃんじゃこりゃっ!?」
しかも、言葉まで発していた。”何だ”を”にゃんだ”と発音しているのは、猫だからなのか、舌足らずなのか。
説明は全員を擬人化させた後まとめてすることにして、次々とスキルを行使する。
・・・つもりだったが、四匹目を擬人化した時点で、スキルの手応えがなくなった。そして、どっと疲労感が押し寄せる。どうやら、保有魔力が切れかけらしい。
残りの擬人化はあきらめ、とりあえず擬人化した四体に自分の力について説明を行うことにした。
「貴方達は、私の力によって人間に近い存在となったのよ」
「そうなのですか、すごいですねご主人様は!」
「すごい!」
「流石は我らの主だ」
「・・・うん、そうね」
素直で物分かりが良い上、ミカンのことを主人と呼んで持ち上げてくる様を見て、頬が引き攣るミカン。
動物魅了のスキルがしっかり機能しているのはありがたいが、これは流石に面映ゆかった。
「改めて、ご主人様!何なりとお申し付けください」
「我ら、主様の手足となって働きましょうぞ」
「主様、指示を!!」
擬人化した四匹がそう言いながら傅くと、残りのネコフクロウたちも鳴き声を上げて顔を伏せた。擬人化しても、元となった動物との意思疎通は可能らしい。
「えっと、じゃあ、食料を・・・」
「は!直ちに!」
「美味しいものをお持ちします!しばしお待ちを!!」
そう言って、二体が翼を羽ばたかせ、何処かへと飛び去って行く。それに、ネコフクロウたちが続く。
「・・・私に忠実なのはいいんだけど・・・うん・・・・」
その後ろ姿を見送りながら、ミカンはそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます