第三十五話 祈りも願いも届かないなら、戦うしかない

 翼を大きく広げ、羽ばたきと共に地を蹴り上る。

 衝撃波が円状に生まれ、大地をめくりあげ木々が吹き飛ぶ。


 ——轟音。


 耳をつん裂く音を、後ろに置き去り、飛び立つ。

 それは、始まりの合図。

 神と災厄との戦いの。


 ——まずは、セイから離れないと、戦いに巻き込んじゃうとまずい……。


 八枚の翼でくうを切り、超低空高速飛行。

 一瞬が、スローモーションの様に引き伸ばされてゆっくり動く。

 木々を大地を抉り、なぎ飛ばしながら、飛ぶ。

 災厄に。

 神殺しの槍ロンギヌスを両手で持ち構える。


 災厄は、未だに動かない。


 一呼吸もない刹那。

 隠す白煙は弾け飛ぶ。

 見えた——紅い鬼。


 奴は……、災厄は……笑っていた。

 嬉しそうに。

 新しい玩具を見つけた子供の様に。

 ニタリ、ニタリと。


「はーーーーーーーー!!」


 問答無用で、弾丸の如く、槍をつきたてる。


 ——ギャンッ!


 掴まれた!?

 渾身の一撃は、災厄の両手に掴まれる。


「くっ——」


 そのまま押し込もうと、さらに力を加えるが……わずかに地を削り、災厄を下がらしただけだった。

 ビクともしない。


 逃げ場を失った神気が、二つの力の前で——暴れだす。


 パチッパチッ! バチッバチバチバチバチッ!!!!


 紅電が舞う。


「あーーーーーーーー!!!!」


 全身全霊の叫び。

 吹き飛ぶ魔の森。

 槍ごと災厄を押し込む。


 ——ドンッ!! ドゴンッ!! ゴンッ!!


 槍を掴んだまま、木々を削り、折倒し——吹き飛ぶ災厄。


 ——これだけセイから離れれば……気にせず全力をだせる。

 まだ槍の先を、両手で掴んだままの災厄を睨む。


「はっーー!」


 神殺しの槍ロンギヌスを真っ二つに素早く可変し、掴む手から強引に外す。


 ——ドンッ!


 翼を空に叩きつけて上に飛ぶ。

 上空で私は、二つに別れた槍を上段と中段に構える。


 ——二刀流


 小さくなった災厄を睨み、全神気を二刀に、暴れ出す力を無理やり押し込める。


 ——これで決める。


 紅い光を放ち出す二刀。


 グルグルと、頭の中で回る。

 お父さんの姿が。

 笑っている顔、悔しそうな顔、泣いてる顔。

 私は……ここまで来た。

 この日の為に強くなった。

 お願い……。

 お父さん……力をかして。


「ふーー……」


 勝つ。


 ——ゴゥンッ!


 真っ逆さまにおちる。


 落ちる。


 落ちる。


 落ちる。


 どんどんと大きくなる地面。


 紅黒く光りだす災厄の拳が、私を粉砕する為に、タイミングを合わそうと、狙っているのが見える。


 その拳、目掛けて、二刀を振るう。


「十、文字、——斬りーーーー!!」


 ——ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッッ!!!!


 拳と二刀が正面から衝突。


「あーーーーーーーー!!」


 拮抗。

 衝突の余波が周りを襲う。

 地が振動し、割れていく。


 ——ガアアアアアアアーーッ!!!!


 叫びこえ


 それは、どこか悲しい聲。


 誰にも理解されない叫び。


 聲なき声。


 災厄は叫ぶ。


 誰にも届かないと知っていても、叫ばずにはいられない。


 神に操られる存在。


 玩具おもちゃ


 それが災厄。


 彼は……災厄は、何度も何度も何度も、叫ぶ。


 殺してくれ。


 殺してくれ。


 殺してくれ。


 オレヲ殺してくれ。


 と——。




 □□□□□□□□□□




 あの日、オレは狩りをしに村を出ていた。

 冬に備えて食料がいる。

 オーガの俺たちは沢山食べる。

 俺は村では一番の力持ち。

 体格だって親父の二倍はある。

 だから、沢山獲物を狩って、家族を、村のみんなを腹一杯にしたい。


 腕っ節には自信がある。

 この力を使って、みんなを守りたい。


 獲物を何匹か狩って、村に帰っていたその時……。


 ——声が聴こえた。


(面白い……ユニークか……いいものを見つけた。そうだ! 良いことを思いついた)


 な、なんだ? 誰だ?

 俺は、声の主を見つけようと、辺りを見回しても誰もいない。


(そうだな……ペットにして、玩具おもちゃと……殺し合いをさせようか)


 玩具おもちゃ? 殺し合い?


「誰だ!? 出てこい! 怪しい奴め!」


(失礼な魔人だなー、まあいいか。僕かい? ぼくはねー)


「神」


 そこで、俺は……オレジャナクナッタ。

 イシニ関係なくカラダガ、カッテニ動く。


 ナんなんだコレは?


 理解がオイツク前に、オレの足はムラに向かう。

 そして……


 殺していた。

 叩き潰しエグリ踏み潰し。

 守りたかったムラのミンナヲ。

 家族を。


 地獄だ。


 ココは。


 長いトキヲ彷徨い、殺し、喰らい続けた。


 オレハ災厄。


 ナア、ダレデモイイ……。


 俺を、オレヲ、コロシテクレ。


 この地獄をオワラセテクレ。


 ——ガアアアアアアアーーッ!!!!


 叫びこえ


 それは、どこか悲しい聲。


 誰にも理解されない叫び。


 聲なき声。


 災厄は叫ぶ。


 誰にも届かないと知っていても、叫ばずにはいられない。


 神に操られる存在。


 玩具おもちゃ


 それが災厄。


 彼は……災厄は、何度も何度も何度も、叫ぶ。


 殺してくれと。




 □□□□□□□□□□




 ——バシュッ!!


 四つに切断した、災厄の拳。


 打ち勝った私は、災厄の首を飛ばさんと、地に降り立ち——跳ねる。


 勝ったと思った。


 殺ったと思った。


 仇を討ったと思った。


 ——声が聴こえた。


(ちょっと、それ……ルール違反かな)


 八枚の翼が散った。

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