第136話 目覚めし怪物

「さて」


 ゼフィラルテはハールトを爆殺し、『黒葬』の男達をみる。


「すまない。粛清を済ませねばならなかった」


 立っているのは男が一人、少女が一人。少し離れて少年が一人へたりこんでいた。


「我は、ゼフィラルテ・サンバース。これより魔術で世界を変えようと考えている」


「笑わせんな、化石野郎が。てめぇは今の世界を何にも知らねぇだろうが」


 眼つきの鋭い男が言い返す。


「記憶を見た。常識は既に頭の中だ」


 ゼフィラルテはトントンと頭を人差し指で叩いた。


「じゃあ、わかんだろ。平和だぜ、アンタが生きてた頃よりな」


「いや?」


 ゼフィラルテは鼻で笑った。


「何……?」


「魔術師が殺されているではないか」


 男は目を丸くし、そして、ゼフィラルテを睨みつけた。


「それは、てめぇらが罪のない人間を殺したからだろうが!!」


「――何が悪い」


「あ?」


 男は、怒りのあまり前に一歩踏み出した。


「罪がないと言ったな。無知は罪であろう? 魔術受け入れぬ者、人にあらず。魔術も使えぬ、魔術も知らぬ人間など、殺されたとて仕方ないことだ。加えて、無意味に殺したのではない。意味を持って殺戮を遂行したのだ」


 ゼフィラルテは続ける。


「何世代、何百年と、このときのため、多くの同胞が血を流し、辛酸を舐めてきた。その苦労はもはや、我には測りかねる。無論、貴様らにも到底理解の及ばぬことだ。故に、我は亡き同胞への敬意を以て、この世を統べる」


 ゼフィラルテの復讐の炎、そして大儀に燃える心は未だ絶えず。


「魔術により世界を選別し、魔術師の理想郷を作り上げるのだ。それこそ、正しき『人の世』である」


 ゼフィラルテは拳を握った。


「……紅蓮センパイ。もう良いッスよ。狂ってる」「あぁ」


 少女と男は顔を見合わせた。

 そして、


「「てめぇを『処理』する」」


「たわけが」


 ゼフィラルテは、軽く構えた。

 奴らは同胞を殺している。魔術を知り、『魔術内包者』であるのだろうが処刑対象だ。


 少女は手斧を取り出すと、消えた。


 ――内包せし、魔術か。


 次の瞬間にはどこからか強風が吹き、稲妻が駆けた・・・・・・


「『起源・光り轟く迅殺の槍サンダーボルト・スピア・オリジン』」


 ゼフィラルテの前方で、少女は電撃を浴びていた。稲妻は三本だ。自動迎撃魔術である。


「空ッ! ……てめぇッ!」


 男が走りだし、迫ってくる。


「『起源・届き得ぬ向こうシャイニング・ウォール ・オリジン』」


 顕現した見えぬ壁により、男は片腕を切断される。

 ゼフィラルテは、男に近寄った。


「がぁ……」


「あえて、致命傷は避けた。そちら側の知識が欲しい」


 男の頭に手をやろうとすると、


「――けっ、寄ったな? クソ爺」


 切断したはずの腕がなぜか生えていた。そして、男はゼフィラルテの顔面を目指し腕を伸ばしている。もう、拳を避けることはできない。


「『起源・虚無を晒す肢体インビジブル・イグジスト・オリジン』」


 拳はゼフィラルテの顔面に飲まれた。つまりゼフィラルテは透過したのだ。


「なっ……」


「活きが良いな。少し削ぐか。『起源・爆ぜる魔の雫ドロップ・ボンバ・オリジン』」


 更に片腕、両足を吹き飛ばした。

 ゼフィラルテとしては、ダメージを与え、おとなしくさせるつもりだった。恐らく、再び再生するのだろうという予想をした。


 しかし、男の足や腕は再生しなかった・・・・・・・。男の目は虚ろだ。


「なんだ、既に限界だったか。『起源・目視する記憶の頁リコレクション・リード・オリジン』」


 男が息絶える前に、頭に手をかざす。ゼフィラルテは『黒葬』の知識を得た。

 現代の魔術師の『目視する記憶の頁リコレクション・リード』は『器』に干渉し、記憶を探るが、ゼフィラルテの「起源オリジン」はその制約はない。


「……伊佐奈紅蓮とやら。もう貴様に用はない。爆ぜろ。『起源・爆ぜる魔の雫ドロップ・ボンバ・オリジン』」


 詠唱を済ませ、爆発が起きるその一瞬手前。


「――死ね」


 後方から少女――名は狐崎空――の声がした。

 

 ――なんと、あの電撃を耐えたのか? 凄まじい精神力。


「魔術師は……、2つ以上の魔術は行使できない……!」


 斧がゼフィラルテの頭に刺さる。

 この少女は、『起源・爆ぜる魔の雫ドロップ・ボンバ・オリジン』を放つタイミングを一点読みして、襲い掛かってきたのだ。


 『魔術師は同時に2つ以上の魔術は行使できない』




「――我はそんなことを言い残した覚えはない」




 ゼフィラルテの最大同時魔術行使数、18。

 会得済み魔術数396。


 『起源・孤独ゆえに巨する威インクリース・マイト・オリジン』は既に発動していた。空の切り裂いたゼフィラルテは、分身である。


 ――後にも先にも生まれぬ魔術の天才、ゼフィラルテ・サンバースがそこにいた。


「バカな……」


「『起源・爆ぜる魔の雫ドロップ・ボンバ・オリジン』」


「……ッ」


 魔力爆発が起きる。




 ――狐崎空は跡形もなく吹き飛んだ。




 続けて、瀕死の紅蓮を、『起源・爆ぜる魔の雫ドロップ・ボンバ・オリジン』で吹き飛ばす。先は『オリハルコン』とやらで、一芝居を打ったらしいがその隙は与えない。

 念には念を。遺体に『起源・届き得ぬ向こうシャイニング・ウォール ・オリジン』を使い続け、蘇生を不可能とした。


「この程度か。現代・・でさえ」



 ――『黒葬』執行部対人課、伊佐奈紅蓮、及び狐崎空。


 ――死亡。



「ゼフィラルテ様……!」「言い伝え通り……だ」「あァ……なんと幸せなのだ」


 後ろの魔術師が呟いている。


 魔術の質は現代で問題なく通じる。紅蓮の記憶を見る限り警戒するは『オリハルコン』。しかし、その対策は可能だ。

 鉄を纏う魔術で完全に防ぐことができる。

 あと、「対人課長」という奴がなかなかにやるようだが、所詮は『魔術内包者』。魔術師ではない。敵にあらず。


 ゼフィラルテは、手始めにこのビルに残る『黒葬』社員は片端から殺すことに決めていた。同胞の仇を取る。どうせ、思想の噛み合わぬ相手だ。

 それが、新生『魔術団』にとっての序章となるだろう。


 ――夜明けである。


「……さて、次は貴様だ。燈太とやら」


 扉の方へ歩みを進める。


 坂巻燈太。

 環境を把握する能力を持った、あちらで言う『超現象保持者ホルダー』。

 敵としてはあまりにか弱い存在である。


 燈太は座り込んだままだった。表情は読めない。


「どうした死ぬのが怖いか」


「……いや」


 依然、燈太の表情は読めない。声は、蚊の鳴くような声だった。

 無理もない。仲間が1分と経たず殺されたのだから。


「同胞が死んでどうにもならんのだろう?」





「……いや」





「?」


 ゼフィラルテは違和感を覚えた。この少年は、そこまで薄情な人間なのか。紅蓮の記憶にそんな様子はなかった。


「まぁ良い」


 ゼフィラルテは少年を見下ろした。


「安心するが良い。貴様が死ぬのは――」




「「魔術師のためだ」」





 言葉が、重なった。




「だろ……?」


 誰と、重なった?

 後ろの魔術師と、か?


 否、少年とだ。


 ――なんだ。


「聞いたよ。何べんも」


 ――何が……。


「何べんも、何べんも、何べんも、何べんも、何べんも、何べんも、何べんも」




『命運分かつは、新たな『星』である。しかと心得よ。一度歪んだ星座らを直す手段など時を戻す他ないのだから』




「貴様は……」


 ゼフィラルテは正体不明の悪寒に襲われた。


「――誰だ?」


 へらへらと笑いながら、坂巻燈太は立ち上がる。


「紅蓮さんの記憶を見たんだろ? 俺は、坂巻燈太。

――アンタの天敵だよ」




『一度歪んだ星座らを直す手段など時を戻す他・・・・・ないのだから』

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