第114話 思惑が重なる二人

 ――撃った……っ!


 燈太はこの時、初めて人へ銃を向け、撃った。

 木原は能力を使っていて、恐らく死ぬことはないだろうと考えていたものの、汗は止まらないし、心臓もバクバクとなっている。

 だが、しっかり狙ったところへと弾は命中。案外、なんとかなった。

 

 ――話しが通じる相手じゃない。覚悟を決めなきゃ、殺される……。


 木原がどんなに外道でもできれば人を殺したくないし、もちろん自分が死にたくもない。

 だが、燈太はこれからも『黒葬』で『未知』を探し、追及したいと考えている。好奇心が止まることを許さない。

 そのためならば、なんだってしてやる。綺麗ごとばかり言ってられない。


「君さ……名前は?」


「……坂巻……燈太」


 ――……あ、なんで素直に答えてるんだ。

 

 落ち着け。冷静になれ。

 人を撃ったという恐ろしい初体験で脳内にアドレナリンが駆け巡っている。

 熱にほだされるな。落ち着け。

 

「覚えておきたい。君の名は深く頭に刻んで教訓にしなければ」


 木原のたわごとには耳を貸さない。が、木原をよく観察した。

 やはり、流血も見られなければ怪我をしている様子はない。銃弾はやっぱり能力で防がれている。

 

 ――そうだ。纏っている魔力の鎧に穴はないか……?


 能力を使う。木原との距離は4、5m。持参した超音波センサーを使えば……。


 ――だめだ……。超音波は魔力の鎧に弾かれてない……!


 超音波センサーと能力を組み合わせ、目に見えない物体を認識するという燈太の十八番は今回は不発に終わった。この原理は、機器から放たれた超音波の反射を能力でキャッチするというものだが、魔力の鎧は超音波を反射しない、つまり銃弾は弾いても超音波は弾かない性質らしい。


 ――いや、考えてみれば当然だ……。こっちの声が聞こえてるんだから、音波を防ぐ性質じゃないってことは当たり前……。


 となると、木原の鎧の穴を探すのであれば、半径1m以内に近づき能力を使うしかない。この方法ならば、「把握」する環境の中に奴の魔力『UE』が含まれるため鎧を正確に調べることができる。

 だが、これは「鎧に穴がある」という希望的観測を前提としていて、調べたものの「穴などはなく完全無欠でした」、そんな結果になりかねない。挙句、近づくことはハンドガンの射程の有利を捨てることにもつながる。幸運なことに、あっちは銃を持っていないようだから、ひとまず一定の距離を保ち続けるべきだ。


 だが、それだけでは負ける。


 ――残弾は12発。普通に撃っても致命傷にはならない。狙うは――。



 ――魔力切れ。


 木原にとっての懸念材料だ。

 一度『器』から出して体外へ放出した魔力は、少しずつ消えていく。ゆえに、銃を無効化できるレベルの魔力量で身体全体をずっと覆い続けるのは不可能だ。

 かといって、あちらの能力がわからない以上、魔力を温存し防御を緩めるのは木原の性情が許さない。恐れ、警戒する、これは人間が生きるうえで大切な本能だ。


 ――だが、このまま膠着状態が続けば、こっちの魔力が切れてしまう。最低限のリスクは妥協するしかない……!


 坂巻燈太はイカれている。油断を誘って……という手が効く相手ではなかった。

 であれば、魔力による防御が完全である内に、攻勢をかけ、殺す。

 恐怖を飲み込み、木原はナイフを逆手に持って燈太に向かって走りだした。


「……ッ!」


 燈太は、動き出した木原に驚き、一瞬身体をビクっとさせてから、こちらを向きながら後ろへ駆けだした。

 撃ってこないあたり、こちらの能力を理解している様子だ。無駄撃ちになるとわかっている。まあ、それは小賢しい限りだが、今、木原にとって良いことが起きていた。


 ――……よしっ。


 自然と、燈太が隠し階段から離れたことだ。

 じりじり攻めよれば、隠し階段へ逃げる可能性もあった。そっちに逃げられると即、電波が通じてしまう。よって、燈太を地下三階へ続く階段側へ誘導するべく、木原は「いきなり走る」という選択をしたのだ。

 もちろん、地下三階への階段にも近づかせたくはない。逃げられるのならそっちの方がマシというだけであって、上へ逃げられてもブラフがバレる。


 ドン!


「なっ……」


 ――撃ってきた……!


 突然、燈太が発砲した。直撃箇所は腰。

 何が目的――


 ――……そうか! こいつ、魔力切れを狙っている……!


 木原が動いてすぐに撃たなかったことから、こっちの鎧が銃弾を無効化するのはわかっているはず。つまり、この射撃は牽制。


 魔力を温存させないための牽制・・・・・・・・・・・・・・である。


 この一発は、木原に何のダメージも与えなかったが、木原に対し「もし魔力温存のため鎧を解除すれば致命傷を負うかもしれない」というイメージを植え付けた。今後も機を見て、燈太は撃ってくるだろう。

 これは、できるだけ魔力を放出させたいという燈太の考えが見えていた。


 ――クソガキ……ッ!


 実際のところ、木原は恐怖心から鎧を解除し魔力を温存する気など毛頭なかったが、死ぬ可能性を示唆してきた燈太の行動に腹を立てた。

 木原は歯を食いしばりながら走り、燈太は若干身体をこちらへ向けながら走る。

 走っている体勢的にこのままなら距離は縮まるのだが、その前に燈太が地下三階へ続く階段に到達してしまう。

 だが、

  

 ――問題ない……、予定通りだ。階段へ辿り着く前に決着を付ける。


 牽制射撃はともかく、燈太が階段の方へたどり着きそうなのは言うまでもなく想定内。

 木原には一つの秘策があった。

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