第96話 分かり合う者
「『黄昏部隊』の1人を『処理』した」
『了解。引き続き、作戦を続行せよ』
玄間は獅子沢に連絡を入れた。
春奈を爆殺した微少『UE』によって、あちらが儀式の『UE』を放出するよりも早く『黒葬』は動いていた。先ほど、本命の儀式と思われる『UE』を観測したので、初動は上々である。儀式魔術が終わるまでに、ビル地下5階へ到達できればこちらの勝ちだ。
作戦の人員は以下。
対人課から課長玄間、紅蓮、空、鑑心。
生物課から課長幽嶋、飛鳥、ネロ
そして、燈太だ。
幽嶋を除く生物課員は、対人における戦闘員ではない。ビル内部への同行はさせない方針だ。飛鳥はともかく、ネロとシールのコンビは強力だが、室内においてその真価は発揮されないだろう。
――対人課長、玄間天海は冷酷である。
治安を維持し、平和を守るためであれば、非戦闘員の燈太も現場に連れて行く。生物課であれそうだ。もし、これが屋外戦であり、玄間が順当と判断すれば、まだ幼いネロを生物課に止められようとも、戦場へ連れ出すことを進言する。
『黒葬』は、国家を超える強力な組織である故に、強大な敵に立ち向かわねばならない。
最低限にとどめることには努めるが、玄間は任務のためなら犠牲が出ることを厭わない。
非情と言われようとも、対人課長としてそれを無機的に全うし続ける。
ただ、その犠牲は必ず無駄にしない。直近は春奈が殉職した。その犠牲は、いち早くこの敵アジトを突き止めることにつながった。
――必ず、儀式を妨害し、魔術団を壊滅させる。そうでなくてはならない。
対人課長、玄間の意志は鉄のように冷たく、そして、ある時は鉄のように激しく熱を持つ。
「よくやった空」
「うっす」
玄間は血を拭い、空に声をかけた。
女の魔術師が死んだため、煙が消え、ビルの入り口が見える。
幽嶋が戦闘を行った煙の魔術師。その情報から、作戦を組んだ。内容はまず、空が駆け抜けることで人工的に風を起こす。その風下にいるネロが臭いをかぎ分け、大雑把な敵の人数位置を把握した。
ネロ曰く、
弾丸を眉間で受け止めることで飛んできた方向を正確に把握。その後、最速で距離を詰め、殴り殺した。
ビルを覆い隠すほどの量の煙、『陣』生成の場にもいたことから高確率で『黄昏部隊』。恐らく、実力は下位で5、6だと思われるが敵戦力を減らせたのは大きい。
「行くぞ」
ここからの作戦は相手の配置によるため、臨機応変に対応する。
あちらの戦力は把握する限り、『黄昏部隊』が4人、『白金遊戯の会』から2人。つまり、戦闘員は計6人。『暁部隊』は6人全員、地下5階で儀式を行っているだろう。
恐らく、室内に入れば『
ビルの入り口の扉までくると、鍵がかかっていた。
この厚さなら面倒ではあるが、膂力のみでこじ開けることができそうだ。
「どけェ……」
扉に手を掛ける前に、鑑心がそう言い、愛銃のリボルバーである『
「……LSBですか?」
玄間が尋ねる。
リボルバーの長所の一つは、マガジンがないため、弾丸の種類を用意に切り替えられることである。
「あァ」
LSB。正式名称「
鑑心が発砲した。
通常、錠内部にはピンという物が存在している。それは鍵の正誤を確かめると共に、合わない鍵では回らないようにさせる役目を果たす。
そのピンを弾丸の威力で一部破壊し、硬質化によって複数存在するピンを一体化させるのだ。火薬はもちろん、距離すらも完璧に調整し、鍵穴に対し正確に叩き込むことで、LSBは変幻自在のマスターキーと化す。
「ほらよォ」
鍵穴から飛び出た金属を捻り、鍵を開ける。
玄間を先頭、紅蓮、空、鑑心、幽嶋、一歩下がって燈太の並び。
「突入ッ!」
玄間はドアを蹴り、前へ進む。入ってすぐのところに下へ降りる階段があり、地下一階へと向かう。
地下一階へたどり着くと広々とした空間が広がっていた。
地下の階はかなり広く作られているようだ。
前方、地下二階へ続く階段がみえる。
玄間達と地下への階段のほぼ中間点。距離およそ20メートル。
男が二人立っていた。
こいつらをどうにかしないと儀式を行っているであろう下へは行けなさそうだ。
――片方を瞬殺し、人数によるアドバンテージを消す。
そう判断し、実行に移そうと、鋭く殺気を放つ玄間。
敵をしっかりと観察する。
一人は、恐らく20代後半。ドイツ系の顔つき。
もう一人は。
「チッ……」
恐らく30代前半。茶色がかった短髪の男。
――鑑心さんが言っていたのはコイツか。
鑑心が陽動の『陣』生成現場へ急行したとき、上空から見た『強者』。それは恐らくこの男。『
みただけでわかる。
――別格。
◆
侵入者と相対した『黄昏1』ヴォルフは、作戦を大きく変更した。
この階でまとめて皆殺しにする。『
しかし、そのプランは、
――俺が止めるか。
瓦解した。
2mを超える大男。侵入者の中で一際存在感を放っている。
しかし、恐るべきは体格ではない。鋭い殺気、にじみ出る威圧感。
それほどまでに、
――別格。
「『
目の前の6人に瞬間移動の『内包者』が混じっていれば、すぐここからいなくなる。そうすればあちらとこちらの人数は同じだ。対人結界を張る余裕はある。
この男はヴォルフが始末する。そう決めた。
◆
残された『黄昏の5』シェパードは考える。
大男と共に、ヴォルフが『
いやそんなことは関係ない。
ミーシャが殺され、こちらの人数は6人。あちらも6人。
試練は平等に科されるのだから、選ぶ手段はただ一つ。
「……『
対象は先頭の、眼つきが鋭い黒髪の男だ。
この男が、シェパードの超えるべき壁。そうに違いない。
◆
燈太の目の前から、二人の魔術師が消え、玄間、紅蓮が消えた。
これが対人結界『
結界というものの、視界に変化はない。ただ、消えただけという感じだ。曰く、6枚の札で囲むそうだが、それは見当たらない。壁に埋め込まれているのだろうか。
燈太は、できるだけ目を伏せ歩くようにしている。それは、『
視界が狭まるデメリットは、腰から下げた超音波センサーを使い、能力を介すことで前方の状態はわかるようにしてある。ツチノコを探したときの方法だ。故に、燈太は指先と指先を合わせつつ、仲間の後ろを付けていく形を取る。
恐らく飛来物であっても早く気づくことができるだろう。
『こちら指令部。やはり、『
獅子沢の声がイヤホンから聞こえる。
「行きまショウか」
「了解ッス!」
「うィ」
「はい!」
『黒葬』社員4人は更に下を目指す。
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魔術団がお話をするときに翻訳魔術を使ってるから、普段から微少『UE』が出てるのでは? という問題点に気づきました。申し訳ありませんが、そこはご都合として割り切っていただけると幸いです。そういったガバが無いように心がけます……。
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