第89話 集会と単独
~前書き~
・2部終了まで毎日投稿予定です。
・83,84,87話のサブタイトルを変更しました。
中身の変更はないのでご安心ください。混乱するようなことをして申し訳ないで
す。
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「まさか、ほんとに『暁の5』を殺せるとはね」
「気を付けなきゃ私も寝首を掻かれますねぇ」
「ははっ、それは言い過ぎでしょ。……でも、こいつらは使える」
ハールトとシャルハットがピザを食べていると、木原達から報告の電話があった。本当に『暁の5』を暗殺したのだ。まさか、提案当日に実行するとも思わなかったが。
また一つ、ハールトは上へ近づいた。にやけてくる。
ちなみに木原が『暁の5』に強襲を行うと言っていた時間に、『黄昏の5』シェパードに電話を掛けたのは、シャルハットだ。
ハールトが頼むと、電話を掛けるくらいならと引き受けてくれた。これは、『暁の5』がシェパードに「木原達を爆破しろ」という電話を阻止するのが目的である。流石に、『暁の5』がシェパードに電話を掛けた時、ちょうどシェパードと電話していたのがハールトなのはマズイ。
この件から、今食べているピザはハールトが奢った。シャルハットはシェパードとそりが合わないらしく、電話終了後、不機嫌になったので奢るだけでなく、更にピザの耳をチーズにするオプション付けて手打ちとした。
「……そういえば、シャルハット。例の少女の件なんだけど」
「あー、言ってましたね。『器』を持ってる子でしょ?」
「そう。今さ、僕と初めて会った場所からずぅーと動いてないんだけど」
「あなたに会いたいんじゃないですか? ……そう、一目ぼれしたとか」
「勘弁してくれ。そういう趣味はないよ」
「まあ、冗談ですけど。やっぱり……、あれ、えー、誰でしたっけ……、死んだ……」
「福田?」
「あーそうそう、福田君がその子に『器』を譲渡して仲間にしたってのはほんとなんじゃないですか? 私達との接触を試みてるというのは間違いないでしょう」
「行ってみるかなぁ……」
「でも、護衛はつけた方が良いですよ。案外その子が『黒葬』と
「うーん。そんなに『黒葬』に恩を感じるポイントがあるかなぁ……。あの子は『暁の1』の占い曰く、誰かを殺したくて力を欲したわけでしょ。『黒葬』はそれを止めるだろうし、どっちかっていうと邪魔に思ってたはずじゃない?」
「念のためですよ。念のため」
「ま、それもそうだ――」
突然、ハールトに電話がかかってきた。
続けて、シャルハットにも電話がかかる。
「……あー、『暁の1』のクソ爺だ」
「ヴォルフさん……、こっちは『黄昏の1』ですね。トップが同じタイミングですか」
こうして二人へ、緊急会議を開くとの連絡が届いた。
◆
「呼び出しだ。……そろそろ気づかれたっぽいね」
「気づかれたぁ? ……あぁ、『黒葬』が壊滅してねぇって話かぁ?」
「そ。間に合って良かった……ほんと」
木原の元に、『極夜の魔術団』から呼び出しメールが届いた。
それにしても、『暁の5』との殺し合い。篠崎に能力を隠していたのが幸いした。意外が形で不意を付くことができたからだ。
記憶を読む魔術があるなら先に言ってほしい。
――いや、ハールトさんは知らなかった?
記憶を読む魔術があるという情報をハールトに渡し、媚びを売るのもありだ。
……いや、記憶を読む魔術があったとわかればハールトにとって、木原達は爆弾となる。『暁の5』暗殺の首謀者がハールトというのを知っているからだ。下手するとハールトに始末されかねない。
この情報の扱いは気を付けねばならないようだ。
あと、篠崎が思ったより重症じゃなくて助かった。篠崎が死ぬのは、今後『暁部隊』を殺すとき困る。
「僕は行ってくるけど、篠崎君はここにいて。君のボロボロ具合は何か疑われそうだ。……なんて言い訳しよう」
「ナイフいじってたら、刺さった」
「……君の普段の素行を考えると、ギリギリ通るラインだね。採用」
◆
「――全員揃っていないが、時間じゃ。では、集会を始める。単刀直入に言うが、『黄昏の3』がおそらく殺害された」
『暁の1』が話を始める。
「ほう」
シャルハットは、はっきり言って驚いた。
ビヨンデは『黄昏の3』。『黄昏の2』のシャルハットより実力は下であり、戦えばシャルハットが勝つ。ただ、その勝因は、ビヨンデが先に攻防一体の魔術が魔力切れで使えなくなるというだけだ。つまり、魔力が切れぬ間は勝てない。
ほぼ無敵なのだ。
その彼が返り討ちにされたのは、少々以外だ。
「『黄昏の3』とは強襲3時間後にある場所で待ち合わせていた。しかし、約束の時間を1時間過ぎても姿を見せないのだ」
「姿見せねぇだけでさ、殺されたとは限んねぇんじゃねーの?」
『黄昏の4』が手をあげ、口を挟んだ。
「ないな。そもそも3時間かけて殺せないなら、魔力切れ。死んだも同然だ。奴の使う透過魔術の性質上、幽閉もできまい」
『黄昏の1』ヴォルフがそう答える。
本社に仕掛けた電波遮断結界の効力はとっくの昔に切れている。連絡を寄こすことすらないのだから、まぁ死んでるだろう。
「つまり、『黒葬』を潰せていないということじゃ」
重々しく、そう『暁の1』は述べる。
思ったより、『黒葬』はやり手のようだ。シャルハットが殺害した忍者は下っ端か。まだ上がいる。これは手ごわい、そして楽しくなってきた。
「それでじゃ、次いつ『陣』を生成すべきかというのを占った」
『暁の1』の占いの精度は恐ろしく高い。『極夜の魔術団』で戦闘以外の分野で彼の横に並ぶ物はいない。
「結果、『今』が最善と出た。我々は、今から本命の儀式までノンストップで取り掛かる」
今からノンストップ。……そうか。
先日、『黒葬』本社から多くの関係者がどこかへ行くのを目撃したという情報があった。その人間はこの騒ぎで帰ってくるだろう。
そして、今までどこへ行っていたのか。
占いの結果が「今」である以上、何か急がねばならぬ理由がある。
「あちらが今から、どう動いてくるかがわからない。そのため、あえて分散はせず一つずつ『陣』を生成していく。何か異論は?」
「一ついいですか?」
ヴォルフの言葉に対し、ハールトが発言の許可を求めた。
「現在、『器』を分けスパイとして送り込んだ少女が、こちらに接触しようというような動きを見せている」
例の少女の件か。
「その少女は殺人鬼福田の『器』を現在所持していて、てっきり福田がこちらに引き込んだものかと思っていた。しかし、『黒葬』が壊滅していないとなると状況が変わってくる。『黄昏の3』が仮に返り討ちにされたとするなら、福田が生き延びていることはそもそも不自然」
こうなってくると、少女が寝返ったのではなく、福田が寝返ったことも選択肢にあがる。
「こちらと接触を試みる動き。もしかすると、この少女の裏に『黒葬』の影がある」
「……俺が出よう」
そう言ったのはヴォルフだ。
「であれば俺が単独で接触し、その意図を確かめる。これが『黒葬』側の罠であれ、その少女が寝返ったのであれ、俺が行けば問題は発生しない。儀式は『黄昏』4人、雇われ2人がいれば護衛としては十分だろう」
――罠であれ……ですか。
『黄昏の1』ヴォルフ。
ヴォルフとシャルハットは『黄昏』の番号的に隣り合わせだが、正直、天と地がひっくり返っても勝てないだろう。同じく隣り合う『黄昏の3』ビヨンデとシャルハットとの差とは比べ物にならないほどの開きがある。
それほどまでに、『黄昏の1』ヴォルフは別格。
そんな彼が出る。
ならば、罠であったとしても確かに問題はない。
もちろん、彼が使う魔術を考慮に入れての話だ。
「他に何かある者は?」
「――『暁部隊』の方が1人足りないようですが……?」
木原だ。
表情に出さないようにシャルハットは心掛けたが、あまりの度胸に度肝を抜かれた。自分でぶち殺しておいて、あえて話題に出す。なんと豪快。
「……『暁の5』のことか。今、連絡が取れんのじゃ。おおよそ寝こけているんじゃろう。部外者は黙ってお――」
「失礼ですけど、『黒葬』に殺された可能性は?」
「なっ……!」
シャルハットは笑みをこぼしかけた。
うまい。殺害を『黒葬』に擦り付けることで、自分やハールトに疑いの目はほぼ100%向かなくなる。この状況を生かした機転。
ハールトの方を見ると、顔を伏せるようにしていた。
――笑ってますね、これは。
天敵である『黒葬』が健在だった今、『暁部隊』の欠員はかなり致命的。その状況で笑うこの男。儀式の成功よりも老害の排除に目が言っている。
木原もハールトもベクトルは違えど、狂っている。
――退屈しませんね、ここは。
「『暁の1』。その可能性はあるだろう。どこで居場所がバレたかは知らんが。例の少女と接触するついでに、俺が、『暁の5』の潜伏先をみてくる。殺害されているのであればそこに寄るのは俺だけで良い」
「うぅむ……、頼んだぞ『黄昏の1』。この状況で欠員はまずいぞ……、儀式の成功率が下がってしまう……」
『暁の1』は伸びきった髭を撫でながら、心配そうにしていた。
「ともかく、事態は急を要す。準備ができ次第出発じゃ」
『暁の1』はそう締め、最後に
「陽光よ、我にご加護を……」
皆、祈りを捧げ、シャルハット達は『陣』の生成へ向かった。
【『アトランティス』調査隊、帰還まであと12時間】
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