第26話 ツチノコ捕獲作戦(2)

 燈太の能力は自分の置かれている環境がわかるというものだ。

 「環境」の範囲というのは、入社初日の実験から半径1m程度ということがわかっている。つまり両手を広げたそれより少し大きいくらいの円。その中のことならばすべて手に取るようにわかる。

 気温、湿度、時間、座標、空気の成分など、専門の機械でしかわからないようなことすら把握できる。


 この能力をどう生かすか。


 ツチノコが燈太から1mの距離まで近づいて来れば、能力ですぐにわかる。しかしツチノコは臆病と左空は言っていた。その状況はほぼないだろう。


 この能力は使い方次第だ。


 今回探知に使っている超音波センサーの原理は、名の通りまず超音波を出す。それが何かに物体にぶつかり反射。

 反射までの時間、反射された超音波の大きさ、角度などを計測。

 その結果から、反射させた物体の大きさ、位置、動きを得ることができる。

 反射してくる超音波。これは燈太の能力で検知できる。人間の耳では捉えられなくとも、能力でなら把握できる。


 ――であれば。


 装置を茂みに向け、超音波を放つ。

 指を合わせ、能力発動のルーティーンを行った。


 反射した超音波を能力でキャッチ。ここまで、できるだろう。

 問題はそれを自分の欲しい情報・・・・・・・・へ置き換えられるか。

 超音波が反射して戻るまでの時間などを燈太が得たところで、それを生かせる頭がない。よって、その「バラバラの情報」をつなぎ合わせ、「物体の位置や動きの情報」へ変換できるかは自分の能力の未知なる部分に任せるしかない。


「……」


 燈太は、「超音波の情報」を「空間の情報」へ変換させる。そういうイメージした。

 情報の変換。


 湿度は燈太の能力で把握できる。

 湿度というのは、「空気中の水分量」を元に得ているのだから、ある情報を自分の求める情報へ変える力は備わっているはずだ。


「……わかる……っ!」


 あくまで超音波が出た方向だけだが、そこにある物体の位置や動きが頭の中にモノクロ写真のように浮かんだ。


「これなら、効率よくツチノコを見つけられる!」


 指を合わせたまま、装置を周囲に向ける。するとノータイムで超音波が当てられた空間の情報が頭に浮かぶ。装置の画面をみるよりも手っ取り早く、そして高精度だ。


「この使い方……結構、便利かも」


 例えば暗闇の中でも、周りを把握できる。

 ここまでうまくいくと思っていなかったため燈太自身驚き、そして、能力の新たな使い道を生み出せたことに興奮した。劣化スマホ能力という悪名の脱却である。


 能力を活用し、歩くこと、20分。


「……いた」


 目には見えない。

 が、脳裏に浮かぶイメージには確かに写るずんぐりむっくりな蛇。

 燈太は動きを止める。

 ツチノコはこちらに気づいているが、気づかれていること・・・・・・・・・には気づかない。動きはかなりゆっくりとしている。

 スマホを取り出し、左空へ電話をかける。


「……あ、左空さん。見つけました」


 あまり大声を出さないように気を付ける。


『燈太殿の位置からどれくらいの距離でござる?』


「ツチノコまで……2mくらいですかね」


『ツチノコの方向へ指を向けてもらえるでござるか?』


「指……?」


 左空の姿は見当たらない。とりあえず、指をさす。

 ――瞬間何かが、自分の上から降ってきた。


「上から……?!」


 左空だった。

 左空は着地する瞬間何かを放った。手裏剣だ。

 手裏剣が10枚近く地面に刺さる。よくみればそれには糸がつながれており、ツチノコの行く手を阻んでいた。左空は恐ろしいほど早く燈太の横を駆け、茂みに手を突っ込み、なにかを持ち上げた。


「捕獲でござる」


 唖然とした。


「よく……何もみないでツチノコ手掴みでいけましたね……」


「拙者は耳も良いでござる。方向と、ある程度の場所がわかっていれば見えているのと同じでござるよ」


「さ、流石忍者……ですね」


「燈太殿、籠を持ってきてもらえるでござるか? ツチノコをもって車まで行くのは難しそうでござる」


「了解です」


 燈太は走って車へ戻った。

 車まで少々距離があり、時間がかかったのだが左空は何も変わらず、ツチノコを抱えていた。目には見えないが。


「それにしても、よく見つけられたでござるな。いつもはもっと時間がかかるでござるよ?」


 左空は、籠へツチノコを入れた。


「あぁ、自分の能力が少々役に立ちまして」


「そういえば『超現象保持者ホルダー』でござったな。憧れるでござるよ、超能力」


「……俺からすれば、左空さんの方が凄いですけど」


「拙者のは日々の鍛錬の成果でござるよ。誰でもできるでござる」


「ほんとですかぁ?」


「もちろんでござる。燈太殿も今度やってみるでござる?」


「え、いいんですか? したいです!」


「しかし、口から火を噴いたり、手から雷を出せるようになるわけではないので、そこは了承をいただきたいでござるよ――」


 左空の顔は話の途中で、急に強張った。


「? どうかしました?」


「なんでもない、……でござる。燈太殿は先にツチノコをもって、車へ戻っていてほしいでござる。少々気になることが」


「え? あ、はい」


 「気なること」とはなんだろうか。燈太はぼんやりと考えながら、車へ足を進める。


「……なんだこれ?」


 車へ戻る途中、木に張り付けられた紙を見つけた。その紙には、魔法陣のようなものがかかれている。やけに凝ったものだ、遊びで張り付けてあるとは思えない。

 紙もなかなかに良いものが使われている。紙というより、何かの皮にも見える。


「……気になる」


 実は、オカルト系が好きな燈太はこういった怪しいものに目がない。リサイクルショップ、フリマなどで怪しいものがあるとまんまと買ってしまう人間だ。


 辺りを見回した。


「私有地じゃないし、いっか」


 なんとなく、はがし、ポケットへ入れた。


 ◆


「……」


 左空は燈太を見送ると、そこでずっと動くのをやめていた。


「……出てこいよ。けてるんだろう?」


 左空は口調を本来のものにした。


「――あれ、ばれてますか」


 左空は振り返る。

 後ろには赤いローブを着た若い男が一人立っていた。髪は金髪。


「初めまして。『極夜の魔術団』と申します」

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