第20話 検証、幽霊トンネル!(3)

「俺の能力をですか?」


「二度言わせるな、阿呆が。そうだ、許可する。

 チッ。『演算装置ハイド』との通信も途切れた」


 指先を合わせ――


「……えっ、何を調べれば……」


「現在地だ」


「現在地……ですか?」


「そうだ。今俺達におきている現象として考えられるのは三つ。

 一つ目。完全に隔離された別空間にいる。

 二つ目。トンネル内の二点が空間的に結合している」


「……? 三つ目は?」


「三つ目。それ以外だ」


 決めつけはよくないということだろう。

 静馬という男は冷静で、その場の状況を瞬時に分析し、打開策をすぐに提案してみせた。対人課の面々とはまた違うベクトルで凡人ではない。


「えと、俺の能力でそれを解析しろと」


「そう言っている。なぜか先ほどからGPSも機能しない。貴様の能力なら成功する可能性がある」


 燈太を頼るということは今パソコンでできることに限界が来たということだ。

 本日、燈太のしたことは、静馬からの話し相手を務める、窓の外をみる。

 やっと、自分がこの「未知」へアプローチできるのだ。


「や、やってみます!」


「うるさい」


 自分の現在地、つまり座標を能力にて把握する。


「……動いてます。座標の値もおかしいものではないです」


 車は時速30kmほどの速度で前進を続けている。燈太が能力で確認した座標もその通り進んでいる。


「……そのまま観測を続けろ」


「はい」


「推測では、いつか座標が飛ぶ・・


「飛ぶ?」


「黙れ、集中しろ」


「……はい」


 些か理不尽だとは思う。

 観測を続ける。数秒後、燈太の観測していた座標が大きく変化した。値が大きく飛んだ・・・のだ。


「と、飛びました!!」


 静馬は急ブレーキをかけた。舌を噛みそうになる。


「飛んだということは、先ほどの仮説2の可能性が高い」


 静馬は路肩に車を寄せ、ドアを開けて降りた。燈太もすぐにシートベルトを外し、外へでる。


「ここで、空間が結合している」


「結合ですか?」


「そうだ。ある点とある点が繋がり、このトンネルが円環状になっている。値が飛ぶという正確な位置を教えろ」


「やってみます」


 燈太はトンネル内部を歩き、どこで、値が飛ぶのかを突き止める。つまり、入口と出口が繋がっている結合部を探すのだ。


「ここです」


 値が飛んだり、飛ばなかったりと不安定な場所を見つけた。


「……この場所に何か原因があるんでしょうか?」


「そうとも限らん。最悪の場合、トンネル外部から何らかの干渉を受けている可能性もある。そうであれば、こちらから手出しはできない。

 もし、内部に原因があるとするなら、ここだろうな」


 静馬は車からアタッシュケースを取りに行き、それから道路の真ん中へ赴く。

 静馬は地面を足でコツコツと叩きながら、トンネルを横断する。やがて、壁までたどり着いた。壁までつくと、アタッシュケースで思い切り、壁を殴りつける。


「……な、なに――」


 声をだした瞬間、ものすごい形相で睨みつけられた。

 殴りつけた時の衝撃音がトンネル内部に響く。


「……あるな」


「え?」


「空洞だ。この壁の向こうにスペースがある。案外薄いな」


「じゃあ、そこに何かが……」


「だろうな」


 燈太は静馬に寄ろうとする。


「離れていろ。邪魔だ」


 静馬はそう言うと、アタッシュケースを前に突き出した。このまま開ければ、中の物が下に落ちることになるだろう。

 静馬はためらうことなく、開けた。

 落ちるような物音はしない。しかし、「ジジッ」という奇妙な音が耳に入った。壁に目を向けると、ケースから壁まで一本の光線が伸びていた。


「レーザー……?」


 光線に照らされた部分が赤くなる。静馬はその光線で円を描いた。焼ける匂いが少しばかり鼻についた。

 その後、静馬の指示で、車から大きな工具箱を運び、壁にできた円形を手前側に引っ張り出す。コンクリートの壁に人が身を屈めれば潜れるほどの穴ができた。


「映画みたいだ……」


 穴の中は暗く、よく見えない。

 静馬は、ポケットからライトを取り出し中へ光を当てた。

 燈太が覗きこむ前に、静馬は穴の中に何かを投げ入れたり、何かしらの調査を行った。そして、穴へひとりで入っていく。


「貴様も早く来い」


「あっ、はい」


 穴へ入る。

 静馬がランタンのような物で部屋の中を照らした。

 部屋は大きくない。数畳だ。燈太の実家にある自室はこんなものだった。

 まず、目に入るのは真っ青な壁。しかし、材質が一切掴めない。大理石のような反射の仕方だが、模様は一切ない。

 そして、部屋の真ん中にテーブルが――。


「骨?!」


 テーブルの真下。白骨があった。人の頭蓋骨である。

 燈太は腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。

 静馬はテーブルを覗きこみ動かなくなった。


「……座標」


「へ?」


「座標だ!! 早くしろ!!」


 静馬がこの時初めて燈太を怒鳴りつけた。顔は燈太の方を見ず、何か・・を恐れているように。切羽詰まっているのが伝わってきた。

 急ぎ指を合わせ、能力を発揮する。


「あれ?」


 座標がわからない。


「出ろ! ここから!」


 静馬の顔は蒼白になっていた。燈太はよくわからないがただ事ではないと考え、すぐに穴からでた。静馬もすぐに穴から出てくる。


「車に乗れ!」


 二人が乗ると車は動き出す。

 謎の部屋、人骨。

 ――そして、ちらりとしか見えなかったが、テーブルの上には何か大きなものが乗っていた。


「あの……」


 静馬は冷や汗をかいていた。静馬は燈太の声に反応することはなかった。

 車は1分ほどトンネルを走り続けた。


「あっ」


 出口が見える。怪奇現象から抜け出せたのだろうか。

 冷静に考えれば、「永遠に続く」トンネルという噂は矛盾している。本当にトンネルから抜け出せないのなら、この噂は立たない。出れるからこそ噂は立つ。

 つまり、実体はいつかは抜けれるが、一定時間ループするトンネルだ。


『自動走行を開始します』


 音声が流れた。静馬が車を自動運転にしたのだ。


「全く……」


 静馬は背もたれに思い切り体重を預けた。汗をぬぐう。


「……あの、静馬さん……。あそこに何があったんですか?  その、人骨が見えたのですけど」


「あぁ」


「やっぱり、その。呪いなんですか……?」


 人骨。あの骨の呪いがあのループする空間を作り出していたのだろうか。

 静馬は鼻で笑った。


「あれは……。そんな、チャチな物ではない」


「え、でも。人骨が……」


「人骨か……」


 車は止まり、方向を変えた。トンネルの方向である。今来た道を戻るのだ。


「窓から目を離すなよ」


 静馬はそう言った。

 トンネル走る。窓の外を見ているが、景色は変わらない。


「あれ」


 コンクリの円盤が落ちていた。燈太達が開けたものだ。

 しかし――


「穴が……消えてる!?」


「そう、部屋が消えているだろう。

 ここから話すことはあくまで仮説だ……」


 静馬は語り始めた。

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