第19話 検証、幽霊トンネル!(2)

「ここだ」


 深夜2時。車はトンネル前で止まった。車のライトがトンネルを照らす。上の方に名前が彫られた鉄の板が張り付けられているが、苔がびっしりと覆っていて文字を読み取ることができない。静馬曰く1kmのトンネルだという。

 雰囲気は十分だろう。


「後部座席にアタッシュケースがあるだろ? とれ」


 燈太は後部座席に移動した。アルミか何かの金属できたアタッシュケースを見つけ、助手席に戻る。静馬は燈太からそれを取り上げた。

 静馬が開け始めたので、覗き込むようにして中を見る。

 中には、ノートパソコンが入っていた。しかし、普通より少し分厚く大きい。


「ここに、温度、湿度、音、光などの車外についたセンサーから得た情報がすべて表示される。それを見て、俺たちは現象を調査、検証を行う」


「……俺は何をすれば?」


「するな。何も」


 静馬は車のハンドル下にあるボタンを押した。


『自動走行を開始します』


 機械音が車内に流れる。


「トンネルは道。自動運転で走行して問題ない。これで、俺たち、いやはデータを見ることに専念できるというわけだ」


「はぁ」


 車は大きく口を開けた幽霊トンネルに向かい走り出す。内部は弱々しいオレンジのライトが照らしていた。

 前後はもちろん対向車線にも車は見られない。静馬はパソコンを睨み、燈太はただ何かが起こるときをじっと待っていた。


 1往復。


「『UE』、『幽霊周波数』の計測なし。その他にも異常はみられない」


「えっ、そのパソコンで『UE』の検出もできるんですか?」


「バカ、このスペックで、出来るわけないだろう。本部の『演算装置ハイド』のデータをリアルタイムで受信している」


 対人課でも聞いた『演算装置ハイド』。燈太はまだ見たことがない。どれほど大きな装置なのだろうか。


「……もう一往復する感じですか?」


「統計上『UE』の観測がされたのは2時から4時までの間だ。ここから二時間は現象に遭遇するまで、このトンネルを走り続ける」


 燈太と静馬はトンネルを走り続ける。

 気温や湿度が微妙に変化を繰り返すのみで、何も起こらない。


 3時15分。

 トンネル中腹地点でそれは起こった。


「キャー」


 悲鳴が、開けていた窓から聞こえてきたのである。


「ッ、静馬さん!」


「……『UE』観測。これだな」


『自動走行を解除します』


 静馬は車を端に寄せ、停車させた。


「……悲鳴に聞こえましたね」


 燈太の声には反応せず、静馬がパソコンを操作する。画面には、何らかの波形が映っていた。

『キャー』

 パソコンから音源が流れる。

 先ほど聞こえた悲鳴である。録音してあったらしく、静馬は何度か繰り返し流した。


「ふんっ」


 静馬は鼻で笑った。


「どうしたんですか?」


「これは人の悲鳴ではない」


「えっ」


「キツネだ、これは」


「キツネ?」


「貴様はキツネが『コンコン』とでも鳴くとおもっているのか? 波形も見たがあの音は間違いなくキツネだ。トンネルの雰囲気に惑わされ、勘違いし噂ができたのだろう」


「な、なんだ……」


「おい。何ホッとしている。更に面倒になったぞ」


「……あっ」


 解決などしていない。『UE』の観測はどう説明をつけるというのか。


「キツネが『UE』をだしているとか?」


「であれば、トンネルのみで『UE』が検出されるのは不自然だろうが。このトンネルにはまだ何かある」


『自動走行を開始します』


 車は動き出す。


「貴様は念のため、窓の外をしっかり見張っておけ」


「はい」


 燈太は何かを見逃さないよう窓から顔を出すようにして、、外をみていたが何も変わったものは見当たらない。

 同じ景色が流れ続ける。

 見続ける。

 外に異常はない。

 ――そう、一向に変わらないのだ、景色が。


「あの、静馬さん。……もしかして」


 噂にあったのは、悲鳴が聞こえる。トンネルが抜けられない・・・・・・・・・・・。この二つ。


「……本命は悲鳴ではなく、トンネルから抜けれないという『現象』のようだな」


「あの、『UE』はトンネルのどの辺から発生しているんです?」


「そんなものがわかれば最初からそこを調査する。『演算装置ハイド』の処理能力をもってしても『このトンネル内部から』という情報より正確なものは得られていない」


「ど、どうします?」


「チッ」


 静馬は燈太に聞こえる大きさで舌打ちをした。


「貴様」


「は、はい!」


「全くもって心外だが、貴様の能力を使うことを許可する」

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