第71話
「――――エルザが馬鹿すぎてもう色々どうでも良くなった」
声まで震えているエド。
「ご、ごめんなさい」
思わず謝ってしまうと、エドの肩の震えが更に酷くなる。
「エ、エド…?」
心配で心配でオロオロとしている私の耳元に突然エドが息を吹きかけた。
「…ッな、ななな何……!? エエ、エド…!!?」
目を白黒とさせていると…エドがそれはそれは楽しそうに笑って私を見ている。
……とてもとても至近距離から。
鼻、くっついている気がしますよ。
更に額と額が合わせられる。
頬もエドの手が覆っていた。
<俺の声、聞こえる?>
唐突に脳内に響くエドの声。
内心大混乱しながらも肯く。
不思議とエドの声が優しい気がした。
<良かった。やっぱりエルザは抜群に感度が良い>
安堵した響きのエドの声。
その頭の中に聞こえる彼の声にこそ私はホッとしたのだ。
昔から知っている皮肉そうな音に紛れて確かに感じるのは温かさ。
変わっていないと強く思える声だった。
とはいえエドの話の内容を聞いてハテナマークは絶好調に脳内を飛び回っているけれど。
<これからちょっと内緒話をするけど、声は出さないで。思えば俺には伝わるから>
どうやらエドは秘密の話を私とするために額を合わせたらしいと判断。
それでわたしと距離を詰めたのかな……?
……この体勢もバレないように……?
<そう。他にも理由はあるけど、一番は声を出すのは危険だからだね。ギュンター様にもそう伝えてくれると助かる>
……非常に嫌な予感がします。
肯きながらも背筋に冷たい汗をかく。
此処では……この閉じられた空間での話はエリザベートに筒抜けという事……?
<ちょっと違う。でも概ねそうだと思うと良いよ>
……だとしたら……私たちの会話は――――思ってから違和感を感じる。
彼女は自らの能力について熟知している…と判断しても良いのだろうか。
ならば分かっているというのに能力の穴を残しているのは何故……?
身分の高い者の傲慢な言動だと何とかなるというソレを消さないのは?
<どうやら消したくても消せないし、修正さえ出来ないらしい>
どういう事だろう……?
普通弱点は分かった時点で対策するものでは?
<多分それはエリザベート《アレ》に重要な意味があるんだと思う。能力的な制限というよりはそれも含めての能力なんだろう>
ハテナマークはそれこそぎっしりみっちり隙間もない程頭の中に発生している。
<あのさ、誰かから与えられたんじゃなくて、自分で発現した異能力って奴は、基本的にその能力に目覚めた本人の心の何かを表しているんだってさ。心の何かを糧として”異能力”は生まれるんだと。どこの世界でもこれは変わらないらしいんだけど>
心の何か……?
<うん。自分の願望だとかコンプレックス、渇望なんだってさ。ま、自覚しているしていないに関わらずって所らしいけどね。それらと関係なしに遺伝という場合もあるんだそうだ。その場合、最初に発現した先祖と近しい心の型が遺伝するのと、最初に発現した先祖がよっぽど強い願望なりコンプレックス、渇望を持っていたから、心の型が違ってもその血由縁で能力が遺伝するって事なんだと。心の型の遺伝にしろ、最初が子々孫々に影響を与えるレベルで強固にそうだったって例が多いらしいけどね>
――――では私の異能は……?
私の心の何を糧としているのだろう……?
アギロが言っていたのを思い出す。
異能とは"魂"に紐付けられたモノ。
では"心"も転生したとて変わらないのかもしれない。
例え記憶が無いとしても…根っこは変わらないという事なのだろう。
<多分ね。だからエルザも諦めたら? 間違いなく何度生まれ変わっても変わらないよ、エルザは>
エドの声が皮肉気に聞こえるのは何故だろう……?
<”存在の本質”って奴はさ、基本的に揺るがないんだって。何故なら”存在の本質”は”魂”に組み込まれているモノ。そして”魂”は世界が誕生した時のエネルギーを秘めているんだ。だから世界が揺るぎ難い様に”魂”も揺るがないものらしいね>
そこで一旦言葉を切ったエド。
また話し出した彼の心の声には余計に馬鹿にした響きが多大に籠る。
<だからかな? エルザは生まれ変わっても全然変わっていないみたいだね。やっぱりどれだけ生まれ変わっても変わらないよ、エルザは>
思わず息が止まったのを許して欲しい。
そんな私に嘲るような声が降りかかった。
「ほんと馬鹿だよ、エルザはさ」
何故か嘲笑に紛れて泣きそうな響きを感じた。
瞳を瞬かせる私を皮肉気に嗤った後、また心の中での会話になった。
<実はずっとエルザと二人だけで接触したかったんだ。この空間に閉じ込められる前からずっと。エルザじゃないとどうにもならないと判断したから>
唐突に真剣極まりない顔と声になったエドは、特大の爆弾を落とした。
<ロタールの魂に憑りついていたモノと同様、もしくは類似品が俺の魂にくっ付いていないか診て欲しいんだ>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます