第34話

 加奈ちゃんがこの世界に転生した理由……

 ギュンターがわざわざ問う位なのだから何か意味があるのだろう……



 この世界に類似したゲームの知識があるという事は……もしかして、偶然では、ない……?



 震える体を思わず両手で自分で抱きしめながら思う。

 ……確かに、良く知っている、もしくは大好きな創作物の世界を狙ったかのような転生だ。



 偶然にしては出来過ぎている。

 そう加奈ちゃんと二人で話したではないか。



 ゲーム通りの年齢の主要登場人物と近い年齢、出逢うのが不自然ではない立場。

 あまりにも……そう、あまりにも不自然だ。



 これも二人で話し合っていた事。



 更に言えば、ゲーム知識のない私が登場人物に割り当てられ、ゲーム知識のある彼女はゲームとしてみればいわゆモブという立場。

 それにも意味があるのではないかと思った事が――――


「うん。意味はある。君たちの立場が何故そうなのかにはね。知識の有無も含めてというのが厭らしいよね。君に憑いているのは狡猾だと思うよ。彼とはどうしたって比べ物にならないから、様々な策を十重二十重に弄している。その一環で上峰加奈子はカタリーナ・ノイ・チューリンゲンになったんだ。否、成らざるを得ない様にされたがただしいか……彼女の前世での立ち位置。これも含めての重要な要素。君も彼女に聴いたと思うんだけど、あの世界であのゲームをやっていたのは彼女だけじゃなくて大勢いた。エルザに好意的な子達も多かったんだよ。にも関わらず、アレは上峰加奈子を選別して狙って確実に殺して隠して連れて来たんだ。何故なのか? それこそが彼女でなくてはならなかった理由の大きな、且つ最低限であり絶対の理由の一つ。さあ、良く考えてみるんだ。世界のシステムとして一番繊細で精密なのは魂の増産と回収、そして転生だという話をアギロから聴いていただろう? だというのにも関わらずだ、上峰加奈子はカタリーナ・ノイ・チューリンゲンに成れた。成れてしまった。転生できてしまったんだ。上峰加奈子にとってはこの世界は産まれた世界ではない。この世界にっては彼女こそが異世界の住人であり異物でしかないにも関わらず。これが彼女でなくてはならなかった重要な理由だよ。勿論、面倒な事を考えず力任せに無理矢理捻じ込む手段はある。それを気が付かれない様に綺麗に偽装する方法も。君に憑いているのはそれを実行できる。捻じ込むことも偽装もね。にも関わらずそれを選択しなかったんだ。代わりに上峰加奈子を使うという手段に出た。出てしまったんだ。そこら辺も悪辣。実際ね、上峰加奈子の様な存在を使うというこの方法は、気が付かれてもどうとでもなるんだ。要はバレたとしても取れる手段が豊富で、尚且つその世界にとっては脅威足り得る。無理矢理捻じ込んでいたんだとしたら捻じ込まれた方にとっては非常に簡単だった。気が付かれた時点でさっさと排除するだけで良いし、この世界にとってもその方法が最善。どうしたってそうだ。異物の排除は早ければ早い程良いんだから」


 思わずビクッと震えてしまった。

 けれど大きく何度も息を吐いてから、どうにか心を落ち着かせる。

 きちんと聴かなければと、それだけを言い聞かせ、自分の知らなかったことを必死に脳に刻み込ませていた。



 ――――ただ無理矢理に捻じ込んだだけならば、相手に気が付かれた時点で排除されてしまっていた。

 けれど、加奈ちゃんは現在気が付かれているのだろうか……?

 否、気が付かれているからこそギュンターはこの話をしているのだろう。

 それにも関わらず加奈ちゃんは未だに排除されてはいないという事……?



 ――――だから加奈ちゃんが選ばれてしまった……?


「うん、正解。当然幻獣の王は気が付いているんだから、本来なら気が付かれた時点で即座に排除されてしまう。もっと分かりやすく言えば駆除だ。人間がダニや蚊を駆除するのと一緒。そういう感覚だから。誰だって害にしかならない存在はどうにかしていなくなって欲しいよね。それができるならするでしょ。でもね、彼等、そう、幻獣達にしてみても上峰加奈子に対してはそれはとても難しい。だから君が思った通りよ、彼女は。実に理想的だったことは想像に難くない。彼女の様な存在が、よりにもよってあのゲームのエルザが大好きだっていうんだから……。選ばられるべくして選ばれたって所だろう。彼女にしてみてもからね。あの世界から引き離すのは通常の彼女の状態より実に容易だったはずだ。……全くもって君に憑いているのにとって運が良かったと言えばいいのかな……」


 ギュンターはそこで言葉を切り、心配そうに私を見詰めている。

 沈痛な、痛ましい表情。

 彼が心配の眼差しを向けるのも分かるほどには、私の呼吸はおかしい。

 過呼吸とでも言えば良いのか、過剰な呼吸に肺が破裂しそうで喉の痛みさえ遠のいていく。



 頭をハンマーで思い切り殴られたような痛みのおかげでどうにか立っていられる。



 そうだ、それでは、それでは加奈ちゃんは――――


「そう。上峰加奈子は、あのゲームが好きでエルザが大好きなだけの、純粋な被害者だよ」

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