第五章 帝立アリアルト魔法高等教育学校 2
第1話 序章
幻獣の立体映像兼体験展示館は、まるで本物みたいな臨場感と疾走感があってとても楽しかった。
魔法を使う様子や空を飛ぶ様子が見れたり体験できたし、空を飛んでいる幻獣から視た景色等が映し出されている仮想現実と装置は圧巻で、見惚れてしまったし見事としか言えない。
広い展示館の中をゆっくり回って、色々体験していたら何だかお腹が空いてしまった。
「展示館の中にあるレストランは悪くないと聞く。予約してある故、行くぞ」
ルーの楽しそうな声音に、笑みがこぼれる。
「ありがとう、ルー。ここ、楽しいけれど、人が結構沢山いて疲れていたの。お腹も空いたし、とっても助かる。それから嬉しい」
ルーはクスリと笑うと、私の手を取り、悠然と歩を進めた。
メニューを見て、思わず瞳を輝かせてしまう。
何せ、大好きなサクラマスのスモークサーモンがあるのだから。
そう、前世でもサーモンなら時しらずか、サクラマス、キングサーモンが大好きだった。
……あれ?
今気が付いたのだが、何故、前世と同じ名前や味の食べ物があるのだろう?
そうまた思ってしまった。
世界が違うにしては、似すぎている、気が、する。
それとも、全ての世界で、食べ物は一緒、とか……?
もしくは、前世の世界で作られたゲームを元にして、この世界が出来ているから――――
「エルザ!」
鋭く名前を呼ばれ、慌ててルーへと注意を向ける。
「な、何、ルー?」
ルーは苦笑しながら私を見詰めている。
「あまりろくでもない事は考えるな。例えどうあれ、産まれたのならば思う様に生きるまでだろう。既に命は宿ったのだからな」
ルーの言葉に、どうにか肯く。
そうだ、例え発生要因が何であれ、命は命。
精一杯、生きるしかない。
――――それでも、と考える。
それでも、本来産まれるはずだったエルザの命を、私は奪ったのではないだろうか……?
だとするならば、どう償ったら……
いつもの答えの出ない問答に、私の思考は沈んでいった。
そうして墜ちて行く。
暗闇の中を堕ちて行くのを感じながら、さっきまでのルーとの光景は現実には存在しないものだったと息を吐く。
夢が見せた儚い私の願望、なのだろうか……
一体どれくらい墜ちて行ったのだろう、幾つか光を突き抜けてたどり着いた光の膜の中は、全てがおかしくなる前の頃、二人だけになりリーナと会話している光景だった。
「思うに、神様という存在がいたとして、その存在が人間に関わるのは何故か? って話なんだけどね」
リーナでもあり加奈子でもある彼女は難しい顔をしながら額に手を当てて目を閉じる。
「あのね、例えるなら、ミドリムシみたいなのに対して、人権的なモノを憂慮するってさ、人間としては少数派だと思うのよ。だからね、神様みたいな存在が人間の事情を配慮するとは到底思えない。だから例えば、神様的な存在が些細かもしれないけど何かミスをして人間が死んだとする。それで何かお詫びってするかな? ってことなんだけど。私は無視して何もしないと思うのよね。歩いてて間違って蟻潰したとして、その蟻の墓作るなり何かその蟻の為にするかなって思う訳。勿論何かする人も皆無じゃないとは思うよ。思うけどさ、何かする人って確実に少数派だと思う訳です。むしろ家に蟻いたら薬剤投入で積極的に殺害じゃないかなと。もしくは、蟻を素足て踏みつぶしていたら気持ち悪いだけで、蟻に対して悪感情しかわかないんじゃないかなぁと思うんだよね。そこに蟻が居るのが悪い、みたいな感じで」
加奈ちゃんは一気に言ってから一息入れつつ
「そもそも、ミスする相手とか信用できる? またミスしてこっちに被害がまた降りかかるのが関の山でしょ。とはいえミスの種類にもよるか。偶々とかって事もある訳で一概には言えないけどね。それに感覚とか常識とかが絶対違うと思うんだよ。だから神様的な存在が良かれと思ってしてくれたことが必ずしも良いとは限らない、ってのもあるんだけどね。もしくはその件に罰則的なモノがあって、強制的に何とかしなきゃいけないってケースもあるだろうけど」
加奈ちゃんは目を開けて大きく息を吐く。
「それでね、神様的な存在に何かしてもらったとしたらだよ。与えた訳だから取り上げるのも自由だと普通は考えない? だから力が与えられたとしても戦々恐々としないのが不思議で不思議で……その神様的な存在に見限られない様に崇め奉って必死になるでしょうと思うんだよね」
加奈ちゃんは眉根を寄せながら私を見る。
「瑠美に聞いた、私達と同じ世界から来たらしい男に対する感想でもあるけど、そういう神様的な存在が私達に関わってでもいない限り、私達がそろってこの世界に居るのはおかしいんじゃなかって思ったら、こう、色々考えちゃった結果です。長々とごめんね」
加奈ちゃんの考えがとてもストンと納得できたのを憶えている。
確かにそうなのだ。
もしかしたらその神様的な存在にとって人という存在が、蟻ではなく一般的な人が感じるナメクジやミミズ的な感じかもしれない。
そんな存在に対して忌避して近付かないのも分かるし、積極的に駆除しようとするのも分かる。
むしろ何かそのナメクジ的なモノに関心を持って善意的に動くのは少数派だとも思う。
思うけれど、相手の神様的な存在がその少数派で無いとは言い切れないのも事実。
本当に考えれば考える程ドツボとしか言いようがない現状からは逃げたくなる。
なるけれど、逃げだしたら私の大切な存在達がどうなるかが全く分からないのだ。
前世のゲームの脚本通りに進むのだとしたら、お父様の命が危ない。
フリードを筆頭に攻略対象者達もどうなるかが本当に分からない。
不安要素しかない。
それでも、出来る事を見付けて前に進むしかないのだ。
言い聞かせ言い聞かせていたのが鮮烈に蘇った。
――――この状況が外にまで広がらない事を祈るばかりだ。
……お父様が現在どうなっているのかも分からないのだけれど……
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