第135話

 刻み新ショウガを入れたのと、ワサビの葉を刻んだのと、普通のいなり寿司の三種類とか……?

 サンドイッチ類もいくつかあった方が……

 カルツォーネは良いかも。

 ちょっとつまめるおかずもあると良いかな……

 唐揚げとかピンチョス……?



 だいたいの材料はそろえてもらったけれど、改めてちょっと見直したりして作る物をいささか変更とかしてみたり。



 ああ、お菓子作りも含めて料理していると楽しい。

 考えが前向きになる気がするし、落ち着く。

 後片付けも好きだから、本当に台所仕事大好きだ。



 刺繍やアクセサリー作りに何か小物入れ等を作ったりだとか、手芸系も気分が良くなるし集中出来て最高なのだけれど……

 本当に同じ作業を延々やる事がまったく苦じゃないからなぁ。



 だからだろうか、ピアノを弾いているのも楽しいし、掃除も好き。

 植物の世話も動物の世話も楽しいだけだし……

 ああいうのが苦手とか嫌いになった事がないから、忌避する気持ちがまったく分からないので、大変じゃないかと、よくやるとか言われても首を傾げる事しか出来ない。



 こういう時に、やっぱり人それぞれなのだと痛感する。



 ああ、勇も、加奈ちゃんも同じことを言っていたのを思い出す。

 出来る人には出来ない人の気持ちは分からないし、出来ない人には出来る人の気持ちは分からないのだと。



 そうかもしれないけれど、歩み寄らなければ平行線にしかならないではないか。

 少しでも近付ける様に努力する事が無意味とは思わない。



 けれど、勇も加奈ちゃんも、それぞれ苦笑して黙ってしまったのが脳裏に過った。



 ――――息を吐いて、自分の作ったものを見回してみる。



 パンは簡単なパンにしてイースト菌ではなくベーキングパウダーにしたけれど、出来は悪くは無いと味見をして思う。

 お稲荷さんや手まり寿司やすし類も数種類作ったし、炊き込みご飯をおむすびにもしてみた。

 サンドイッチも複数、ピンチョスもいくつか種類を作ったから楽しんでもらえたら嬉しい。

 唐揚げもチューリップ唐揚げと普通のに、精進料理バージョンと作ってみたりしたので、気に入ってもらえたら良いのだけれど……

 その他にいくつかの食べやすそうなおかずとデザートも入れて、お弁当箱ではなくとても大きい重箱に詰めて完成である。



 うん、良い出来だ。

 自己評価ではそうだが、皆が喜んでくれたなら幸せだと思う。



 時間も丁度でお風呂に入る。

 使って良いと言われた薔薇とジャスミン、ネロリの精油を乳化するバスオイルに混ぜてから使ってみた。

 生の薔薇の花弁まで用意されていたから、浮かべると白濁してトロリと気持ちも良いお湯に赤い花弁が多数舞っている様になり、更に香りで心も体も癒されながら伸び伸びと湯船に浸かり疲れを取りつつ、脳裏を過るのは昨夜の夢と昨日聞いた諸々。



 その前に見た夢達まで抱えて、私はパンクしそうだ……

 どう処理して良いかがまったく分からない。



 スッキリと納得できたこともある。

 切り替える事が出来た事も。



 ディート先生がかけてくれた言葉は救いにはなるけれど、それでも罪悪感は消えない。

 本来生まれるはずだったエルザならばという思いは……



 それも圧し掛かって前途多難だと素直に降参したくなるけれど、考えるのを止めたら前には進めないのも分かっている。

 だから改めて考えてみた。



 ”聖女”と”巫女”の違いは何なのだろう?

 きっと能力の強さ以外にも違いがあるはずなのに、私には差異が分からない。

 教えてもらうにはどうやらリスクがある様だし……



 けれど、勇まで”聖女”について言及していたのだ。

 そしてお祖母様と私はどうやら”巫女”らしい。

 それらは意味があるのだと思う。



 ――――……一番教えてもらえそうなのは、ディート先生、の様な気がする。

 迎えにいらっしゃったら聞いてみるだけ聞いてみよう。



 そう決めたら幾分心が落ち着いた。



 すると、また疑問が浮いてくる。



 幸せって何なのだろう……?

 分からない。

 分からないけれど、良く考える。

 人によって違うのは分かるのだ。

 それぞれ大切なものや感じ方が違うのだから、個々人で違って当たり前だろう。

 ならば、私の幸せは……?



 よく考えたら、幸せにして欲しいとか、幸せになりたい、というのは、私には無い気がする。

 幸せになって欲しい、はあるのだけれど。



 好きな人というのも良く分からない。

 恋愛感情を相手に持ったと意識した事が無いからだろう。



 どういう基準で選べばいいのか、どういう思いを抱いたならそうなのかがさっぱりだ。



 地獄に堕ちるならば、と選ぶ方が、分かる気はする。

 なんというか、この人とならば地獄に堕ちても構わない、というのが、私の場合恋愛感情を抱く相手を選ぶ基準かもしれない。

 うん、その人となら、何処に堕ちても構わないというのがしっくりくる気がするのだ。



 また考える。

 蔑ろにしてきたけれど、本当は一番向き合わなければいけない存在の事を。



 ――――私にとって、勇とは何なのだろう……?



 今までこれを思考に上らせた事は皆無だった。



 勇は勇。

 それ以外は考えた事も無い。

 だいたい、考える必要性がなかった、のだと思う。



 勇がいてくれたら私はそれで良くて。

 従兄弟なのだから、その関係性が変わるとも思わなかったのだ。



 勇が誰かと結婚したとしたら、私はそれを祝福して、距離を置くけれど、一生従兄弟なのだから関係が途切れる事は無いのだろうと、そう考えていた。



 離れ離れになるなど、考えた事も無いのだ、本当に。

 常に一緒で、隣にいる。

 そしてホッとする、そういう存在。

 ――――例え何があっても赦してしまうだろう大切な……



 それは何なのだろうと考えようとした瞬間、全てが霧散して、勇について考えるのを止めてしまった。

 疑問さえ抱かず、さて風呂を上がろうかと立ち上がる。

 ディート先生が朝早くに持ってきて下さった材料を使い、色々作ってみたけれど、全て空間収納付きの重箱に入れたから一安心。

 どれも悪くなることは無いだろうよ息を吐く。



 お風呂から上がってからも少し時間があったから作ったものを見直してみる。



 改めて作ったものを見返しているのだが、高菜とスモークサーモンと薄焼き卵で薔薇な巻き寿司はおかしくはない、よね……?

 華やかだから、花見に良いと思うのだけれど。

 高菜は簡単に漬物にしてからだから美味しいとも思うのだ。



 スモークサーモンも手まり寿司にプラスにしたけれどどうだろう。

 鯛とシマアジ、エビ、卵焼きの手まり寿司と合わせて色どりも良いと思うのだが……



 後はいなり寿司、が不安だったり。

 新ショウガの酢漬けを刻んだのは胡麻を入れているけれど、問題は無いはず、と言い聞かせる。



 飲み物も複数用意したから大丈夫、だと思う。



 料理を見ているだけで心が落ち着く。

 勇がどうしているかや、排除されない方法等、問題は本当に山積みだけれど、兎に角一つ一つ解決していくしかないと私は頬を叩いて息を吐き、どうにか自分に気合いを入れたのだった。

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