第34話

 昨日の内に、ヨハネ教官、で良いのか悩むが、本人がそう呼べと仰るのだしと、自分を納得させる事にしたのだが、その教官へ、私の感じた干渉されている様な感覚を伝えているので、一安心。

 そんな事を思いながら、昨日の夢を思い出す。



 何とも懐かしい夢を見たものだ。

 それでも、いつも心の片隅にあった人だ。

 彼の事を気にしていたのは、やっぱり自分と同じように、集団から暴力を揮われていたからだろうか……?



 夢を思い返しながら準備をし、今日は昨日良く寝たから体調も万全、と思いたい。

 等と考えつつ、迎えに来てくれたユーディとリーナと一緒に朝食へ向かう。


「三人共、おはよう」


 声をかけてきたのは、


「エド! もう来ていたの? 相変わらず早いわね。あ、おはようございます」


 私に続きユーディとリーナも挨拶した。


「「エド様、おはようございます」」


 それを聞いてから、エドは笑顔で


「早いのはエルザ達もだろ? 俺が早いのは、まあ、一族の職業病、かな」


 そんな事を話していたらイザーク登場。


「皆さん、おはようございます」


 私は笑顔で挨拶。


「おはよう、イザーク」


 エドはヒラヒラと手を振りつつ


「おはよう」


 ユーディとリーナは見事に揃って挨拶。


「「イザーク様、おはようございます」」


 挨拶を交わしているとフェルがやってきた。


「おはようございます。皆早いですね」


「フェル、おはよう」


「おはよう。いつもの通りに俺が一番乗りだよ」


「おはようございます、フェル」


「「フェル様、おはようございます」」


 そんな感じで朝の挨拶を続けている内に、来ていないのはフリードとギル、ルディとアンドだけになる。


「ああ、エルザ、おはよう」


 何とも妖艶な声がして、誰だか分かった。

 周囲も騒めいているから確信できる。


「ルー様、おはようございます」


 私は微笑んで挨拶したのだが、ルーは、その飛び抜けて麗しい顔を不満そうにしている。


「私の到着直後に結界は張ってある。故に普通に呼べと何度言ったら分かるのだ」


 思わずため息。

 これも知られたら不敬ものだとは思うが、それでも出てしまうのを許して欲しい。


「ルー、あのね、そうは言っても、一日で初めて会うのだから、礼儀は大事だと思うの」


 今更感は否めないが、それでも線引きは大事だと、入学して改めて思うからそう言ったのだが


「エルザに礼儀を取られるのは、嫌だ。そなたに距離を置かれるのは絶対に断る」


 ルーは断固として譲る気配が無いのだから、ここは私が折れるしかないだろう。

 本当に、困った人だ。

 私も人の事は言えないとは思うから、自分の事を棚に上げている感が否めないのは、私が残念な証拠か。


「前にも言ったけれど、出来ない時は出来ないの。それでも、こうして普通に話しているじゃない。それで許してくれる?」


 ルーは、ふんと鼻を鳴らすと


「まあ、良い。妥協しよう。そなたをこれ以上困らせるのも……それはそれで楽しいとも思うが、ここは自重しよう」


 ルーが、非常に不穏な事を仰っておいでなのですが……


「それはどうかと思うぞ、ルディアス。人を困らせるのは良くない。特にエルザでは、可哀想だと思うのだが……」


 とんでもなく玲瓏な声がして、これも誰だか判別は簡単だ。

 周りの人達も、ルーと合わさったからか、益々騒々しくなっている。


「おはようございます、フリード様」


 私が挨拶をすると、フリードが何故か眉根を寄せる。


「おはよう、エルザ。それは朝からあまり嬉しくはないのだが……」


 うん、フリードもか。

 何だか諦めたくなってくるが、先程の言葉を繰り返す。


「さっき、ルーにも言ったけれど、朝一番の礼儀は大事だと思う」


 そう、なあなあで澄まして良い場面ばかりじゃないと思うのだ。

 やっぱり、一応、一人前では無いとはいえ、大人の仲間入りをしたのだから、境界はしっかりとしておきたいと思うのは、おかしいのだろうか……?


「距離をおかれるのは、嬉しくはない。ただ、対外的に必要な場面というのは分かる。とはいえ、今は結界も張ってあるのだし、問題ないと思うのだが、駄目だろうか?」


 フリードは申し訳なさそうに言うから、こちらとしても強く言いずらい。

 元々、ルーの件で折れているので、否やは無いのだが……


「朝の最初の挨拶だけはきちんとしたいのだけれど、それも駄目? それ以外はケースバイケースだろうけれど、普通に話そうと思っているわ」


 フリードが難しい顔をしている。


「それは、構わぬが……普通に話してくれるのであれば、それで良い、とは、思う、が……」


 何とも、微妙な語尾に、不安が湧いてくる。

 私、何か間違ったろうか……?

 フリードを何か傷つけた?


「可哀想とは言うがな、フリードリヒ。多少は困らせた方が表情も見応えがあると思う。何より今の様に、誰か一人で思考が占められるのが自分であれば悪くはあるまい?」


 ルーが、何かとんでもない事を仰っておられる様な気がするのですが……


「――――うむ、確かに、分からなくはない様な気はする。するが、やはりいけないと思う。ああ、エルザ、気にせずとも良い。先程のは私の個人的な我が儘故、そなたが気にする事ではない」


 フリードは難しい顔でルーと私に答えている。

 えっと、フリードも分からなくはないっていうのが、ちょっと、あの、不安を掻き立てるのですが……

 でも、フリードは、駄目だって思ってくれているから、大丈夫、だよね……?


「それじゃ、朝食何食べるか決めて、頼むか」


 ルーと一緒に来ていたアンドがそう言って、メニューを見だす。


「そうだな。殿下方も、それでよろしいですか?」


 フリードと一緒に来たギルが訊ねると、ルーもフリードも肯く。



 またいつも通りの、平穏な朝食が摂れるかと安堵した時、声が、聞こえた。

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