第25話
そろそろ夕食の時間だ。
ユーディを迎えに行こうかと考えていたら、気になった事がある。
色々考えてはいたのだが、レストランを思い浮かべたら朝の時の事を思い返してしまい、ちょっと疑問に思った事を、改めてリーナに確認。
「操られていた平民の女生徒達、誰に操られていたのか、ルーもフリードも分からなかったのかな……?」
リーナもハッとした様に考え込む。
「どうなんだろう……まったく、本当に面倒事が起こりすぎ!」
二人で首を傾げていたら、部屋のチャイムが鳴り、視てみたらユーディだった。
三人でレストランへと向かい、どこへ座ったら良いかと辺りを見回していたら、
「エルザ、捕獲完了!」
そんな美声がして、私の手を取ったのは、
「エド!? え? 何!?」
私がワタワタとしていると、エドは楽し気に笑いながら
「ほら、行くよ」
説明もなしに引っ張っていく。
力加減は絶妙で、無理矢理感も無く、誘導されるように連れて行かれる。
「あの、どこに行くの?」
訊ねた私に、エドは困った子を視る様な感じで
「俺達と一緒の食事は、嫌?」
そんな事を訊くのだが、
「私は構わないけれど、ユーディとリーナは良いの?」
私が混乱しつつ、後ろを振り返りつつ訊けば
「わたくしは構いません」
ユーディは微笑を浮かべつつ答えてくれて、
「わたくしも問題ありませんよ」
リーナは苦笑気味に返答。
「ほら、何の問題もないじゃないか」
エドは鼻歌でも歌いそうな楽し気な様子で、今朝の席に私を連行してきた。
「はい、エルザはここ」
やはり今朝と同じ場所に、私は座る事になったらしい。
「……えっと、もう決定事項な感じなの?」
思わず訊ねた私に、エドはさも当然と言う様に肯く。
「無駄な抵抗はしない方が良いと思うよ。よりユーディやリーナに迷惑掛かるだけだと思うし。時間と手間が余計にかかるだけで、結果は同じだろうから」
「……了解。ありがとう、エド」
思わず力なく答えた私は悪くないと思う。
本当に逃げられない感が凄いので、脱力感が溢れてくるのだ。
「こんな時もお礼を言うエルザって、相変わらずだよね」
エドは面白そうに笑って席に着く。
「エルザ様らしいと思いますわ」
ユーディはクスクスと笑っているし、
「律儀ですわね、エルザ様は。色々穴がおありなのに、根が真面目でいらっしゃるらから、礼は欠かさない印象ですわね」
リーナまで楽し気に答える。
自分としては、それ程律儀だとは思わないのだが、単に何かしてもらったらお礼を言っているだけなのだ。
嫌な事にはお礼は言わないし、普通ではないのだろうか……?
「あ、今朝は色々あって聞けなかったけれど、ディルやシューは一緒に食事しないの? それに、ロタール大丈夫かな……?」
私の問いに、エドは苦笑して
「ああ、二人ね。シューは知らないけど、ディルは一緒に摂る事もあるし、彼等は俺達と違って他の付き合いの関係で別の人と摂ったりしてる時もあるからね。今朝だとシューはロタールと摂ってたみたいだし、ディルはエルザの家に仕える騎士家の人達と摂ってたみたいだよ。ロタールはシューと仲が良いし、ここで皆で食べる時はシューが連れてくるだろうから。そうじゃないならシューと食べた方が気は楽だよね。別に一緒に摂るかどうかは自由だし、執行科とかでも顔を合わせるから問題ないしね。ただ皇族や四大公爵家や俺の家の人間ってさ、色々相手が緊張しちゃうから、俺達は俺達だけで一緒に食事とかした方が周りは楽だよ。だからエルザも一緒で良いと思う。というかエルザの場合、逃げられないと思うから諦めた方が楽」
ディルとシューとロタールの事は分かったけれど、改めて諦めた方が楽とか言われると、どうも、何だか、居心地が……
「あ、姉上いらしていたんですね。良かった。探そうかと思っていたのです」
イザークが軽い足取りで登場。
「ありがとう、イザーク。今回は大丈夫だった?」
今朝の事があるから、心配して聞いてみたのだが
「ああ、それは大丈夫でしたよ。一応、想定はしていたので、早めに来ましたし」
イザークが着席した頃、フェルがやって来た。
「良かった、今回は間に合いましたね」
そんなフェルにエドが声を掛ける。
「やっぱり早めに来たの?」
「はい。それでも今朝の事があるので、緊張してしまいましたが……しかし、エドやエルザは本当に早いですね」
フェルの言葉に、私とユーディ、リーナは顔を見合わせ、
「早い方が空いているかなって思って。混雑していると、背の低い私は大変だし。ぶつかったら相手に迷惑でしょう?」
私の返答にユーディは苦笑し
「エルザ様がいらしたら、皆様道を譲られると思うのですが……」
リーナは楽し気に
「エルザ様が気にしていらっしゃったから、今朝と同様、早めにと予め決めてあったのです。わたくしも、エルザ様は気にしすぎだとは思うのですが」
エドは楽し気に笑いながら
「きっとエルザはそうだろうし、なら、ユーディもリーナもエルザに合わせるだろうから、早いだろうなって予想が当たって、複雑だよ。本当に、もうちょっとエルザは自信持てば良いのに」
自信とは何ぞや?
いや、本当に分からないのですが……
「だからさ、エルザは皇妃候補の筆頭で、なにより筆頭大公爵家の正式な令嬢なんだから、皇族以外は周りが勝手に動くから、エルザは特に何もしなくても大丈夫だよ。騎士家の子や平民だって、昨日や今日でエルザの顔を覚えたろうから、堂々としてれば良いだけだって」
首を傾げていた私にエドが言うのだが、
「それが私には難しいかなぁ。人前とか緊張するし、人混み苦手だし……」
どんどん暗くなる私に、
「エルザは、そのままで良い。何も気にせずとも良いと思うが」
とんでもなく妖艶な声がして、声のした方を見れば案の定
「ルー、様。アンドも一緒なのね」
ルーとアンドの二人が揃って立つと、タイプが違うから、余計にルーの美貌が強調されている気がする。
声も妖艶なら容姿も妖艶とか、ルー、ややこしい。
統一されていると言えばそれまでなのだが、どうも心臓に悪いのが二乗で、更に性質の悪さが相乗効果なのだ。
「どうした? また何かあったか?」
今度はどうしようもなく玲瓏な声で誰か判断できる。
「フリード、様。ああ、ギルと一緒、なのですね」
フリードとギルが連れ立っていると、華麗なフリードと怜悧なギルとの対称性で、これまた見応えがある。
硬質な印象でいながらどうしようもなく華麗な容姿のフリード。
いるだけで周りが華やかになる感じが、成長してより一層増したろうか。
しかし久しぶりに聞いたルーとフリードの声も、声変わりしていたけれど、特徴がありすぎて既に頭に染み込んだから、容易に判別できて助かる。
それに二人が登場すると、周囲がこう、密かに感嘆の溜め息を漏らすから、分かりやすいのもある。
「あ、ルー、様。あの、後で話があるのですが、時間を取って頂けるでしょうか?」
また何かあって忘れない内にと、早速ルーに確認。
「それは構わぬ。食後にここに残れば良かろう。他の場所では面倒だ。ああ、フリードリヒ、お前も残れ」
何故かフリードまで残る様に言うルー。
「それは構わぬが、何故だ?」
首を傾げ、不思議そうなフリード。
そんな様子も絵になるからか、周囲からため息が漏れるのが漏れ聞こえてくる。
「面倒故、言わぬ」
ルーはそれだけ言うと、メニューに目を落とす。
フリードは相変わらず人が良いからか、疑問符を浮かべつつも了承し、やっぱりメニューに目を移した。
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