第17話

 ルディがようやく落ち着いたと言うか、私から離れたのを見計らって、ディート先生の号令の元、ベース作りを行った。

 テントを張って、タープと一体化させて雨が降っても濡れないで作業できるようにし、完成。



 家でもテントやタープの張り方は練習したから、何とか出来た。

 ルディは手伝わない様にディート先生に言われて、渋々見学していたのだ。



 ごめんね、ルディ。

 でもルディに手伝ってもらったら、私やロタールの訓練にならないのだ。

 だから、シューやディルは最低限のお手伝いである。



 もうちょっと慣れてきたら、シェルター的な物も自作するとか。

 木の枝や枯れ葉を使って、防寒対策と雨除けにするらしい。



 体温を下げない様に、風除けや雨除けはサバイバルで必須だとか。

 私は魔力無しだから、余計に気を付ける様に言われた。

 魔力で体温を底上げ出来ないから、らしい。



 次に近場の湧水を確認した。

 水は生きるのに必要不可欠だから、水場は常に把握しておく様にとのことだ。



 ただ、魔法や魔導具で水の確保も可能ではあるので、大量に必要になったりした場合や、煮沸する火よりも水の補充に魔力を使わなければならない場合以外は、特に考えなくても構わないらしい。

 それでも、魔力切れを想定し、水場は確保するに越した事はないとか。



 今回は、野草や木の実を採取するだけだから、簡単だという。

 食べられる野草や木の実を識別し、教えてくれる機能が、通信機には装備されているのだ。



 私は腕輪型の通信機を起動させ、それを対象に向けた。

 そうすると、食べられるかどうか、どこを食べられるのか、調理方法等、色々教えてくれる。



 最悪機械が壊れている事も想定し、しっかり覚える様にと言われた。

 それと、全て採りつくしたら野生動物が困るから、程々に、とも。

 尤もだと思う。

 もしかしたら、機械が壊れてしまう事だって無いとはいえないのだから。

 それに食べる物が無かったら、野生動物だって飢えて死んでしまう。



 釣りはまた今度となった。

 いきなり沢山の事をやっても覚えられないし、私の体力的にまだ無理だろうとの判断である。



 残念だが仕方がない。

 森の中を結構探索して木の実を数種類入手したのだが、それだけでも結構疲れてしまったからね。



 ルディに私の手が届かない所の実を採ってもらった。

 私がお願いしたのだが、何だか嬉しそうで、良かったと胸を撫で下ろす。

 元気が出たろうか。



 ただ、ルディに頼んだらルチルがふくれてしまったのには驚いた。

 どうやら自分が採りたかったらしいのだが、ルチルはまだどうも危なっかしいので、ルディに頼む方が良いと思うのだ。



 食べる物を採取して燃料も確保したら、次は竈の作成である。

 穴をまず掘るのだが、何故か銃を用いる事になった。


「エルザは魔法が使えないんだから、銃から魔法を撃つしかないだろ」


 ディート先生はそう言うのだが、穴を掘るのに銃って、何だか首を傾げてしまう。


「銃の扱いは習ったのか?」


 ルディが訊いてきた。


「うん、家で習ったよ。でも、穴を掘るとはどうやるのですか?」


 私が訊いたらディート先生は


「まず、銃を出してみろ」


 そう言うので、首から下げた指輪型の空間収納から私専用の銃を取り出す。

 銃には魔力を沁み込ませることで、個人認証が出来る。

 それで一人一人を登録する。

 登録した人以外は使えないのだが、魔力が強い騎士以上なら、握った瞬間に初期化と認証が可能だとか。



 私の場合は、魔力の代わりに私の力を使用する。

 それで認証可能な様にも帝国製の銃は出来ているらしい。

 本当に助かる。



 しかし、私には結構大きい銃なのだ。

 両手で持たないと安定しない気がする。

 とても軽いのだが、何故大きいのだろうと疑問ではある。


「エルザの銃は、あれか、全属性に相性の良い人間用の、特別製か」


 ルディが言った言葉に引っかかる。


「ねえ、ルディ。私、魔力無しだけれど、全属性に相性が良いの?」


 それに答えたのはディート先生だ。


「ああ。魔石には属性がある物と無い物があるんだ。全属性が使えるなら問題ないんだが、たまに全属性が使える訳じゃないが、全属性に相性が良くて、魔石を選ばない人間、ってのがいる。普通の人間はその相性が良くない属性が使えない為に銃で使っても、属性があるやつよりはちょっと威力が落ちるんだ。それを補填するのに、魔力の装填以外にも魔石がいるんだが、全属性が使えたり、相性の良い人間にはその補填用の魔石がいらず、純粋な威力向上に使える。説明が遅くなって悪かったな。今日使う時に説明した方が良いかと思ったんだよ」


「いえ。ただ扱いに成れるので精一杯だったので、今聞いた方が理解できます」


 うん、今の方が良く解ったと思う。

 しかし、私、全属性と相性が良いのか。

 不思議だ。


「僕やディルも全属性と相性良いんですよ。大抵の紫の瞳の持ち主はそうだと聞きます」


 シューの言葉にディルが肯いている。


「私、も、全属性と相性が、良い、です」


 ロタールも教えてくれた。

 しかし、全属性と相性が良いのは少数派だと聞いたが、身近に多いな。

 何故だろう?

 たまたまかな。


「力を認証させたから、思っただけでその属性の魔石の魔力が使える。取りあえず、目標の地面に銃の先端を向けて、穴を五センチ掘りたい、って思えばそうなる」


「分かりました」


 ディート先生の言葉に肯いてから、銃を構える。

 ここに穴を掘りたいのだと思いながら、目当ての地面に向ける。



 一瞬、茶色の光が見えたと思ったら、地面に結構なクレーターが出来ていた。

 ちょっと大きいかも……


「普通に属性の無い魔力を撃つ訓練はしてきたが、こういうのは初めてだったな。にしては、まあ、上出来かね」


 ディート先生が言ったら、穴が軌道修正され、石を積んで鍋類を乗せるのに丁度良い大きさになった。


「あの、ディート先生が直して下さったのですか?」


 ディート先生は首を振る。


「ロタールだな。しかし久しぶりにしてはコントロールに問題は無いか。将来が楽しみだ」


「いえ、あの、エルザ、が困っていた様なので……」


 ロタールはちょっと申し訳なさそうに身を縮める。


「ありがとう、ロタール。助かったわ」


 うん、私、ちょっと落ち込んだからね。



 微笑みながら感謝を伝えたら、


「力に成れたのなら、良かったです」


 ロタールは、はにかみながらそう言った。

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