第16話
初めての野外演習に行ける事になった。
秋の始めだが、山の方は気持ちが良い温度で快晴だから、ワクワクしている。
とはいえ帝都近郊の山なのだが、楽しみな物は楽しみなのだ。
野草を採取して、料理して食べる。
目的はこれだけだ。
竈を作ったり、一応テントも設営するらしい。
雨除けのタープっていう、防水加工済みの広い布の下に、竈とテントを設営すると聞いている。
場所は山だが、キャンプ場でもあって、広場も併設されている公園で、安全な場所だという。
朝早くに家を出て、夕方前には帰還らしいのだが、それでも楽しみすぎて中々眠れない。
ようやくの野外演習に加え、シューと、ディル、ロタールも一緒なのだ。
ロタールは学校の野外演習には行った事があるらしいのだが、何年も前で不安だと言うので、私と一緒に行ってはどうかと提案したのだ。
シューも、ロタールには興味があるらしく、自分も一緒に良いかと言うので、勿論と答えた。
やっぱり平民出身のシューだと、ロタールもちょっとは安心するだろうし。
だからディルも折角なので同席してもらう事にした。
ディル自身もロタールの事は気になるらしく、快く了承してもらえた。
いつも通り、アデラとルチルと一緒に行ける事になって、嬉しい。
私の安全を考えて、ではあるらしいのだが、大切な存在と一緒にいられるのはとても嬉しいと思ってしまう。
ただ、シューやディルの幻獣は連れて行けないのが、とても残念だ。
高位幻獣は、ロタールにはまだ刺激が強すぎるらしい。
ルチルは幼いからセーフらしいのだが。
彼等も幻獣との連携訓練とかしなければならないらしいが、今回は初めての野外演習である私にあわせてあるから、幻獣がいなくても大した問題ではないみたい。
ただ、私が幻獣と一緒に戦闘訓練する日は来ない様なのだ。
何故ならルチルは幼過ぎて、戦闘訓練は不可らしいのだが、訓練を出来るようになる頃には、私は戦闘訓練不可能な公算が高いらしい。
一応、幻獣達の巣からルチルが出られる年齢まで私は生きていられると言われているし、本来の帝国人なら戦闘訓練しても良いそうなのだが、魔力無しの私は心配だから無理、だそうだ。
だから私は、他の幻獣との合同訓練も見学になるという。
ちょっと寂しい。
現地集合の為、到着したキャンプ場付公園に、シューとロタールがいた。
ただ、護衛のディート先生とクー先生、ヒルデ先生、がいるのは、まだ良い。
シューの護衛のニクラスさん、ディルの護衛のスヴェンさん、ロタールの護衛のパウルさんも、まだ良い。
――――何故にルディがいるのだ。
「ルディ!? どうして!?」
思わずルディに問い掛けていた。
「ああ、フリードリヒに勝った故、来たのだ」
思わず脱力する。
「……あのね、訊きたいのは、それじゃないの」
表情を、嬉しそう、から、楽し気なものに変えたルディは
「初めての野外演習であろう? 何があるか分からぬ。理由はそれだけだが」
「……そう。えっと、フリードとまたじゃんけんしたの?」
何となく気になり訊いた。
「そうだが?」
何を当然、みたいなルディに
「ねえ、チェスとか、他のもので決めるのは無しなの?」
私の言葉にルディから表情が無くなる。
「私とフリードリヒで、チェスをせよ、と?」
「……ごめんね。言った私が馬鹿だった。そうだよね、チェスとか他のもの、面倒だよね……」
うん、チェスを始め、他のゲーム類ではまず決められない。
何故なら、決着がつかず、延々とするはめになるのが決定事項なのだから。
本当に二人の能力は拮抗している。
「くじ引きは?」
言った私にルディは渋い顔。
「じゃんけんの方が手間が掛からぬ。くじを作る手間を省ける故」
「確かに、そうだね……」
納得はできるのだが、皇族の、それも皇帝候補二人が、じゃんけんで決めるのってどうなのだと思わなくもない。
「ルディ、ロタールと挨拶はしたの?」
私が訊いたらルディは得意げに肯いた。
「ああ。エルザが気に掛けている相手だ。当然であろう」
なにが当然なのかが不明だが、ロタールを窺えば、案の定恐縮してるのが目に入る。
だからルディやフリードを始め、皇族や貴族は呼ばなかったのに……
ルディも私を案じてくれたのだから、仕様がない。
色々諦めた。
らしいと言えばこれ以上なくらしいのだし。
私達の会話をフワフワ浮きながら、アデラとルチルは見物中である様だ。
「私の心配をしてくれてありがとう、ルディ。でも、そんなに危険はないと思うよ?」
魔獣も令獣も出ないという話だし。
「そうだな。次の演習は狩りでもしようかと思っていたくらいだし。その時はフリードリヒ殿下がいらっしゃるのか?」
ディート先生の言葉に、ルディが崩れ落ちる。
「……抜かった! 狩りの時の方が危険が増すではないか!!」
何だか、自分をもの凄く責めているのだが……
「ルディ? あの、気にしなくても大丈夫よ。また機会があるだろうし」
私が言った言葉に、ディート先生が苦笑した。
「機会は無いかもな。冬場の演習は、流石にエルザにはまだ早い。だが、ルディアス殿下は再来年には学校に入学だ。それで来年からは準備でろくに会えなくなるだろうからな。結果的にエルザの演習に参加できるのは、今回が最後かもしれない」
その言葉を聴いていたルディは、膝をついたまま能面の様になっていた。
「ルー?」
思わず心配で名前を呼び、頬に手を添えた。
「――――すまぬ。エルザ、ありがとう」
私の手に自分の手を重ね、ちょっと微笑んだルー。
「ルー、あの、何か心配事があったら言ってね。私に出来る事があったら、力になるから」
一生懸命にルーに届くように伝えた。
「エルザ、エルザがいてくれるだけで、十分だ」
ルーはそう言って微かに微笑み、私を抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
何だかちょっと不安定、なのだろうか。
この頃会えなかったからかな。
来年には益々会えなくなる訳だけれど、ルーは大丈夫だろうか。
私の寂しさより、よっぽど重い感じがする。
大切なルーが元気になってくれるのを祈って、抱きしめ返した。
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