第53話 すて猫



 歩道のどまんなかにダンボールが置かれていた。サッカーボールが二つ入るかどうかの小型のやつだ。天面に『可愛がってください』と黒い油性マジックで書かれている。きっと、猫か何かだろう。にゃーにゃーと鳴き声が聞こえる。


 文緒は猫が好きだが、アパート暮らしでペット不可だ。しかし、となりは空き部屋だし、一匹くらいなら、どうにかこっそり飼えるかもしれない。


(どんな子かな。あんまりたくさんいるとムリだけど……)


 気になったので、ダンボールをあけてみた。そっとひらくと、黒い毛が見える。どうやら黒猫だ。トラ猫を期待していたが、黒猫だって好きだ。


 文緒はフタを全開にした。

 そして、悲鳴をあげた。

 猫ではない。

 小さなダンボールのなかに異様にねじくれた体勢で丸くなって、薄汚いおじさんがニャーニャー鳴いていた……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る