第37話 新しいおうちには



 幼稚園を卒業し、小学校へ上がるタイミングで、文緒の家族は引っ越した。

 明日は入学式という日、目新しい近所の公園で遊んで帰ると、玄関ドアをあけたところに見知らぬ女が立っていた。


「誰?」

「何言ってるの。文ちゃん。お母さんでしょ」

「…………」


 いや、どう見ても母ではない。母はこんなに美人じゃなかった。


「違う。お母さんの顔じゃない」

「お母さん、整形してきたのよ。キレイになったでしょ?」

「…………」


 そう言われると、そうかなと思う。

 じつは前のおうちの片付けが残ってるからと、新しいおうちには、まだお母さんが来てなかったのだ。お母さんが一人で残って、前のおうちを掃除してるんだと聞いていた。

 引っ越しの前の日の夜に、お父さんが庭に大きな穴を掘り、ゴミ処理用だと言っていた。きっと、あれにゴミを埋めていたのだ。


「前のおうちのお掃除、終わったの?」

「そうよ。さあ、文ちゃん。上がって晩ごはんにしましょ。文ちゃんはハンバーグ好きだよねぇ?」

「うん! 好き!」


 どうしたんだろう?

 いつもはお父さんの健康がなんとかと言って、お魚ばっかり食べさせられたのに。それどころか、こんなのいらないと文句を言うと、じゃあ食べなくてもいいと、お皿ごとゴミ箱にすてられた。文緒はそのせいで、たいてい空腹だった。でも、今日のお母さんは優しい。

 すると奥からお父さんもニコニコしながら顔を出した。


「文緒。早く来なさい。おうちが新しくなったんだから、お母さんだって新しいほうがいいだろ?」

「うん!」


 文緒は嬉しくなって、玄関をかけあがった。ぬぎちらかした靴はお母さんがそろえてくれた。


「あらあら、文ちゃん。くつはそろえましょうね」

「はぁい」


 文緒がお行儀悪くすると、しつけだと言ってしょっちゅう叩いてきた

 文緒はすっかり新しいお母さんを気に入った。新しいおうちに新しいお母さん。とてもステキ。

 そして、古いお母さんのことはすぐに忘れた。

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