第36話 ネズミ
「まいったなぁ。今夜も大運動会か」
家が古い日本家屋だからしかたないが、このところ夜な夜な壁のなかや屋根裏をネズミが駆けまわって、うるさくてしょうがない。
正確にはネズミなんだか、イタチなんだか、ハクビシンなんだかわからないが、カリカリガリガリ、爪でひっかきながら夜中じゅう暴れまわるので、
このまま寝られないのは困る。
文緒は市販のネズミ捕り用のシートを屋根裏に置くことにした。大きめのゴギブリホイホイみたいなやつだ。
押入れの屋根板が一部、動かせる。
昼間のうちに、そこからネズミ捕りシートを入れた。
その夜もヤツは暴れた。だが、一瞬だけ静かになった。ネズミ捕りシートを置いたあたりだ。捕まったのかと思った。が、ベリベリと音がして、すぐにまた走りまわる足音が聞こえた。逃げられたようだ。
(けっこう強力な粘着力だったぞ。あれから逃げられるってことは、そうとう大きくて力の強い動物か?)
ネズミではないのかもしれない。そういえば、家のまわりでイタチのようなものが道をよこぎっていくところを何度か見た。
どうやら屋根裏をかけまわる動物の正体は、イタチのようだ。ことによると一匹ではないのかもしれない。
翌日、屋根裏をのぞいて確認した。
シートにはベッタリと黒い毛がからみついている。
それを見て、文緒はゾッとした。
なんだかイタチの毛にしては、長い。
(これ……ほんとにイタチ?)
根元から抜けたせいか、どう見ても二十センチ以上の長さがある。
なんだか……髪の毛のようだ。
ぶるっとふるえがついて、文緒は首をひっこめた。
その夜も、やはり何者かが天井裏を走りまわった。髪の毛のようなものを残す何か……。
いや、あれはきっとドブネズミだ。毛がふさふさで長いヤツだ。
文緒は自分にそう言い聞かせた。
しかし、ますます気になって寝られない。何日も続くうちに、すっかりまいってしまった。
寝不足が続き、文緒は冷静じゃなくなった。どうにも腹が立ってきて、ある夜、例のヤツが暴れている最中に、思いきって天井裏の板を外した。
文緒は悲鳴をあげて失神した。
屋根裏から、青ざめた人間の顔がのぞいている……。
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