第4話 紳士と蜂蜜の秘密
店内にいたお客様達に呼ばれ、蜂蜜を紅茶に投下。
目を輝かせながら飲み干され、皆様満足気に帰って行った……
「おつかれさん」
苦笑いのジュリー。
「私何かしてはいけないことした?」
ジュリーに聞く。
うーん、と言いながらジュリーが話してくれる。
「どうもこちらの紳士な皆様は、甘いものは女性のもの、と思っているらしくて……つまり、甘いものを口にするのが恥ずかしいらしい。男は黙って無糖の紅茶」
「えー、じゃあお茶うけないのも、テーブルに砂糖置いてないのもそのせいなの?」
砂糖をテーブルに置いてないのはそういうもんなんだと勝手に解釈していたが……
お茶うけ出さないのはジュリーが手抜きしてるからだと……
「お菓子食べてる紳士は見た事ないなー」
「えー……」
「夢子が蜂蜜は薬だって言うから、薬ならばと飲んだんだろうな。なんだかんだで紳士な皆様も甘いもの欲してるのさ。ちなみにその蜂蜜は俺のだ」
「ジュリーは紳士じゃないのね」
「余計なお世話だ」
「明日から蜂蜜はお薬です。って書いてPOPでも用意しておけば?」
皆堂々と甘いもの飲みたいなら、蜂蜜は薬認定しちゃえばいいじゃん。
「多分……それは必要ないかな。明日は忙しくなるぞー。蜂蜜買い出ししとかな」
「ん?どゆこと?」
「まあ、暇ならまた明日こっちにこいや。今日は久々に会えて嬉しかった!家族には……俺の事は内緒にしといてくれ」
「え?なんで?」
「なんとなくだ」
そ、そうすか。
まあいいや、異世界にいるとか話して頭おかしくなったと勘違いされても困るしね。
「服、忘れるなよ」
おう、忘れるとこだった!
2階を借りて着替えを済ませ、店内に戻る。
「じゃ、今日は帰るね。明日も来るよ」
「おう、じゃな!」
ニカッと笑って右手を軽く上げるジュリー。
私も、手を振ってドアを開けた。
「戻ってきた……」
元の世界の庭に出るとドアがスっと消える。
すごいなー……
あ、今何時だろ?
そういやスマホを全く見ていなかった。
画面を見ると18時12分。
もうそんな時間か。
異世界にいるとスマホなんて必要ないもんな。
魔法に紅茶に貴族か……
「なんかメルヘンだな」
ふふっと笑いながら家に帰る足取りは軽い。
こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろう。
何をしても上手くいかない就職活動、パラサイトの私を冷たい目で見てくる両親。
出会いもトキメキもない平凡な日常。
そんな毎日だったけど……
「明日が楽しみだ」
帰宅して、ご飯を食べて、お風呂に入って、いつもはダラダラと過ごすけれど、今日は久しぶりに自分で紅茶を淹れよう。
ヤカンにたっぷり空気を含ませた水道水を入れ、火にかける。
ティーポットは湯沸かしポットのお湯を入れ、温めておく。
そして茶葉を用意。
大好きなアールグレイだ。
「いい香り」
ティースプーン山盛り1杯を温めたティーポットに入れる。
沸かしたお湯を勢いよくポットに注ぐ。
蓋をして待つこと約三分。
茶葉がポットの中で浮いたり沈んだりと上下運動している事を確認。
この上下運動が美味しさの秘訣なのよねー。
三分経ったらお気に入りのティーカップに注ぐ。
ストレートで飲むのが1番好きだけど……
「今日はこれ!」
蜂蜜たっぷり投入して。
お薬紅茶の出来上がり!
今日1日の出来事を思い出しながら……そして明日を楽しみに。
優しい香りに包まれながら……
それでは、
「いただきまーす」
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