第7話 <英雄たちの戦場>

 ボーティク王国が滅びたのと同時刻、惑星ビルピンでは、世界樹が展開したバリアを挟んで宇宙連邦軍とドラムグード王国軍が睨みあっていた。

 世界樹のバリアは、ある程度までの闇の魔力を持つ存在を通さない。それ故に、王国の一般兵や下界というクラスの兵たちは侵入ができない。

 まさに聖域を守る究極の障壁だ。

 だが、王国軍も黙って見てはいない。

 バリアを突破できる親衛隊たちだけでは、さすがに勇者たちに勝てるかは怪しい。身代わりや補助になる一般兵の随行が必須だ。

 そのため、赤の親衛隊の一人、神崎美炎が現在、バリアを破壊するための魔法を準備していた。

 親衛隊とはいえ、魔族一人の魔法で神に等しい存在の張ったバリアに空けられる穴など、ごく微少なものだ。しかし、穴さえ空けることができれば、時間をかけて侵攻できる。

 狙うは一点集中砲火。拡散させれば、どうしても威力が落ちる。

 王国軍の先頭指揮官、青の親衛隊のアマデウスが手を挙げる。突撃準備の意味だ。

 闇の魔力はさらに高まり、遂に開戦の火蓋が落とされる。


「受けなさい!私の奥義!"紅き火炎の砲撃クライシス・フレイムロアー"!」

「突破口が開きますよ!総員突撃なさい!」


 美炎の魔法がバリアを直撃。約四百メートル四方の穴を形成して消える。

 開いた連邦への道に、闇の軍勢が迫る。第一陣として攻め込んだのは、下界クラスの兵士が使役する魔物たちで構成された部隊。主にオークやゴブリンたちだ。

 これらは、連邦内で発生する個体に比べ、純粋な闇の世界で生まれているため、明らかに強い。

 穴を抜けてきたドラムグード王国軍を迎え撃つのは、王国聖騎士団やエルフの騎士たち。そしてビルピン共和国軍だ。

 今回は、勇者や護神聖騎士たちは出撃していない。戦力の補充が間に合っていないのだ。

 守備隊の指揮官、エルフのハンスが剣を抜く。


「迎え撃て!奴らに我らの土地を汚させるな!」


 沸き立つ連邦軍。ハンスが先陣を切って向かっていく。それに続く形で、後方の部隊も続いた。

 ハンスの向かう先からは、多数のゴブリンやオークが血走った目で向かってきていた。


「ふんっ!こんな雑魚なんて…!」


 オークの一体が、剣を構える。

 ハンスは、いつものように剣を弾いて胴体を斬ろうと、下から斬撃を仕掛ける。

 甲高い音と共に、。オークの攻撃が、相殺したのだ。


「そんな!?我の剣が止められただと!?」


 歌が聞こえてくる。何だか……心が安らぐ歌……。

 ハンスは、自分の能力を下げられ続けていることに気づかない。だが、オークの能力が上昇し続けていることには気づいた。


「強くなっている…?これは一体!?」

「ニクイエルフノオトコ……コロシテクウ…!」


 オークの筋肉が肥大化し、ハンスを押し返した。

 周りでは、やはりオークやゴブリンたちが強化され、次々と連邦軍が命を刈り取られていっていた。


「なんだ……何が起こっている…!」







「美炎さーん?だーいじょーぶー?」

「もう魔力が底をついてるわ。それより、あんたこそ順調?」

「もーちろーん。"アーアッ!アーアアー"」


 アマデウスが歌を奏でる。その音色が戦場に響き、兵士たちの悲鳴を塗り替えていく。


「……ホントに質が悪いわね。その歌」

「お褒めに預かり恐悦至極。では、リクエストにお応えしましてアンコーーール!お聞きください。"到来する暗黒時代ザ・ダークエイジ"……」


 アマデウスが歌うこの歌は、音階魔法の一種だ。

 光の魔力を持つ者の能力を低下させ、それを闇の魔力を持つ者に上乗せする。逆転魔法と音階魔法の複合技。

 しかも音階魔法のため、音が聞こえる限り効果を発揮し続ける非常に危険なものだった。


「さあさあ!我輩の演奏会は、まだまだ始まったばぁーかりですよー!」


 右手に自分の神器であるタクトを構え、より激しく演奏を始めるアマデウスだった。







 一方の連邦軍は、一時後退を余儀なくされていた。

 ハンスが率いていた部隊が、ハンス他六名を残して壊滅。敵軍の勢力は衰えていない。

 防衛隊の総司令、王国聖騎士団のアズサは頭を抱える。


「くっ……後方の補給班に伝達!これよりミズーリを放棄して、拠点をアストライヤまで後退させる!」


 後退などすれば、穴からさらに多くの敵が来ることは分かっている。だが、戦い続ければ全滅の可能性もある。

 幸い、レザリア本土にはまだ勇者たちが残っていた。彼女たちが加勢にきてくれれば、現状の打破も可能。

 そう考えたアズサは、苦渋の思いで後退を選択した。


「殿は俺たちの部隊が引き受けよう!たった七人でも、あの地獄を生き残った精鋭だ!」


 撤退する部隊を支えるのは、ハンスたち元最前線守備隊。

 準備が整い、浮遊式の<モーターバイク>に乗っていく連邦軍。

 アズサは、最後にハンスと約束を交わす。


「必ずだ。必ずアストライヤまで来るんだぞ!」

「任せろ!可能な限り敵を減らしてすぐに追いかけるさ」


 お互いの拳をぶつけ合い、二人はここで別れることとなった。

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