第5話 <虐殺>

 龍牙の魔法が炸裂。戦場を蒼白く輝く滅びが支配していく。

 荒れ狂う猛吹雪は、先行して突撃してきたボーティク王国軍を巻き込んだ。

 悲鳴すらも凍りつかせる地獄の魔法が、無数の死体の山を築いていく。空気が凍てつき、周囲の気圧を下げていく。

 龍牙が指を鳴らすと同時に、凍りついたすべてが砕け散る。

 同時に、気圧が元通りになろうとして、周囲に更なる猛威を広げていく。

 すべての災厄が収まったとき、生き残ったボーティク王国軍は五万もいなかった。

 あまりにも凄惨な光景に、ブリューク王国軍の兵士たちもその場に崩れる。

 その恐怖から、その場で心臓が止まってしまう者まで現れる始末だ。

 

「恐ろしい…!これが……邪神龍の…!」

「さて、次に移ろうか。新兵器の実験だ」


 逃げ惑うボーティク王国軍。

 ドラムグード王国軍の背後から多数の戦闘機や爆撃機が飛来する。その狙いは、逃げていくボーティク王国軍に定められている。


「……さて、ヤミヤミが作った兵器。失敗作でないことを祈ろうか」


 爆撃機の下部が開き、多数のミサイルが投下される。

 落とされたミサイルは空中で推力を手にいれ、ボーティク王国軍に背後から襲いかかる。

 着弾の直前に空中で細かく分解される。その一片一片が地上に着弾。中規模の爆発を連続して引き起こす。

 それとは別に、新たな爆発が各地で起き出す。

 自らの運命を悟ったボーティク王国の兵士が、希望を見失って自決を始めたのだ。

 

「素晴らしい出来だな。いつもいつも研究所を吹っ飛ばすあいつにしては」

「龍牙様?あの兵器は一体…?」

「ん?ギャレルには話してなかったか?あれは<空対地クラスターミサイル>。こんど導入予定の防御兵器を改修したものだ」


 ドラムグード王国軍の陣営から、どこか読めないような表情らしきものを張りつけた戦車が

 親衛隊の二人が体勢を低くし、突撃の構えを取る。


「トドメを刺してこい!お前たちなら余裕だろう?」


 その言葉を受けて、顔のある戦車が前進する。

 この戦車は、<多脚歩行戦車>。あらゆる地形を踏破するドラムグード王国の陸上における最大戦力だ。

 魔法を使えない人たちが、どうやったら魔法使いを殺せるのかを考えて作ったこの戦車。並の魔法では傷つかない強靭な装甲と、地形を変えるような威力のビーム兵器を搭載している。

 多脚歩行戦車がボーティク王国本陣に迫り、照準を合わせてビームを連発する。

 何人かは反撃を試みているが、それすらも通じずに消し炭にされていく。

 

「何なんだよ……何なんだよあれは!?」


 あまりの恐怖から尿を漏らして泣き喚くグルバリアス。涙と鼻水で顔は見る影もなくなっていた。


「この…!最強は我らボーティク王国だというのに!」

「陛下!今すぐ退却を!敗走してください!」

「ふざけるな!私の最強魔法で破壊してくれる!」


 未だにビームを撃ち続ける戦車に向けて手を伸ばすグルバリアス。その手に雷が集まってくる。


「砕け散れぇ!"雷神の砲撃"!」


 高密度の魔力の塊が戦車に迫る。その一撃は顔のような操縦席の装甲に直撃し……。


―――カァンッ!


 高い音を鳴らして弾かれた。

 グルバリアスに狙いを変更する戦車。操縦席では二人の兵士が会話している。


「なんだよ今の!何がしたかったんだ?」

「あの程度の魔法で破壊しようとした?せめて親衛隊の方々くらいの魔法でないとな!」


 口に当たる部分にあるビーム発射口に紫の光が灯る。赤色のレーザーポインターは、グルバリアスの眉間を捉えていた。


「くそっ…!私がこんな奴らに…!」

「陛下!どうか生きてください!」


 臣下の一人がグルバリアスを押し退ける。放たれるビーム砲。

 地面を転がるグルバリアスの視界に、跡形も残さず消されていく部下の姿が映った。


「うわ……うわああぁぁぁぁっ!!」

「陛下!至急王都まで!」


 部下たちが馬を連れてくる。

 急いで馬に乗り、撤退を開始するグルバリアス。

 その後方から、ドラムグード王国の追撃部隊が迫ってきた。全員、空飛ぶバイクのようなものに乗っている。

 これは、ドラムグード王国軍の兵器の一つで、<ホバーバイク>という。

 機関砲しか搭載されていないが、安価かつ使い勝手の良い兵器で、高い機動力からの一斉射撃という戦法を得意としている。

 ホバーバイクに乗る兵士たちが、その指をトリガーにかける。


「まずいな……。陛下!振り返らずに走り続けてください!」

「今までありがとうございました!ご武運を!」

「お前たち!……くっ!頼んだ…!」

「「「いくぞーっ!」」」


 グルバリアスを逃がすために囮となる部下たち。

 グルバリアスは、言われた通りに前だけを見て走り抜ける。

 背後から聞こえる悲鳴と、火薬の破裂音はすべて無視して……。







 スクラム平原での戦闘が終了。

 ドラムグード王国の被害はゼロ。ブリューク王国軍は、心臓発作による死者が四名のみ。

 ……そして、ボーティク王国は二十万の軍勢のうち、実に十九万八千の死者を出してしまっていた。

 未だに震えが止まらないブリューク王国の兵士たち。


「あんなの……戦じゃない…!ただの虐殺だ!蹂躙だ!」

「まぁまぁ。さて、進みましょうか?」


 龍牙の言葉に耳を疑うブリューク王国の兵士たち。

 あれだけ殺しておいて、まだ進撃を続けるつもりなのかと正気を疑う。

 龍牙の顔に邪悪な笑みが浮かんだ。思わず後ずさるブリューク王国の兵士たち。

 その時、どこかへと行っていた親衛隊たちが戻ってきた。その肩には、暴れているかのように動く麻袋。


「ご苦労様。もう降ろしていいよ」


 龍牙の指示に従って、麻袋を降ろす。

 中には、手足を縛られた女性が二人。身なりから、恐らくは貴族の令嬢なのだろうか?

 だが、二人はもっと大物だった。


「龍牙様。ご命令通り二人を捕らえて参りました」

「なっ!?ボーティクの王女!?」


 龍牙は、怯える二人に首輪をつけて荷馬車補給班の馬に繋ぐ。


「これより王都を陥落させる!アスラ様に勝利を捧ぐのだ!」


 沸き立つドラムグード王国軍。

 だが、ブリューク王国の兵士たちの心は、既に恐怖と絶望で支配されていた。

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