第4話 <狩られる獲物>

 静まり返る部屋。

 そこでは、透き通るような声が淡々と響く。

 美しい音色を奏でるその声だが、その内容は極めて恐ろしいものだ。


「どんな難癖つけて攻め入るか……。もういっそ軍事航路計画予定のための立ち退きにするか!」

「いやいや!雑すぎでしょ!?」


 アスラの言葉についツッコミをいれてしまうクロイツ。

 いくらなんでも適当すぎる理由に頭を抱える。

 一方のアスラと龍牙は、奇妙なものを見る目でクロイツを見つめる。


「いや、理由なんて正直どうでもいいですから」

「理由があるという事実が大事なんですけど?」

「それにしても酷い!もっとマシなものにしてくださいよ!」


 そんな訳もわからない理由で攻められるほうの身にもなってみろ。泣くでは済まされない。

 ボーティク王国は、ドラムグード王国とあまり国交がない。

 特に害していない強国からの攻撃理由が立ち退き。

 大抵の人ならばぶちきれるだろう。

 長年強いたげられてきたクロイツだが、さすがにボーティク王国が可哀想になってくる。

 アスラは突然席を立った。

 そのまま乗ってきた船へと向かう。

 慌てたのはクロイツだ。何をする気なのだろうか?


「ギャレルは仕事早いね。もうボーティクに対して宣戦布告したって(笑)」

「……へ?」


 突然の宣告に固まるクロイツ。部屋からは、不安そうな表情のルミナが顔を覗かせている。

 そんな周りを気にもせず、アスラが陽気に笑いかける。


「心配しないで。あんな田舎の奴ら一瞬で終わるだろうからさ」


 窓の外から轟音が響く。

 龍牙たちボーティク侵略軍を乗せた多くの戦艦が次々と発進していった。







 ボーティク王国は、現在国の中枢が麻痺していた。

 宇宙最大の勢力を誇るドラムグード王国からの宣戦布告。大臣や貴族たちは狂乱状態に陥っていた。

 薄くなった頭皮をかきむしり、貴重な毛根にダメージを与えながら唸るのは、ボーティク王国国王のグルヌス二十四世。

 彼は、頭から出血してもかきむしることを止めない。


「なぜなのだ…!なぜ我らが狙われるのだ!誰が何をしたのだ!その者の首で済ませてもらうよう取り計らえ!」

「しかし王よ!ドラムグード王国は立ち退きの要求を……」

「そんなものドラムグードお得意の適当な理由づけだろう!他に何か原因があるんだよ!」


 顔を真っ赤にして怒るグルヌス。

 そこに追い打ちをかけるのが彼の息子。グルバリアスだ。


「父上ご安心を。あんな連中に我ら由緒あるボーティクが負けるなどと……」

「そうですぞ王よ!奴らを追い返し、そのまま領土をぶんどればよいのです!」

「それに、間もなくおもちゃとしてブリュークの美姫が我が物になる。妹たちの誕生日も含めて盛大なパーティーだ!」

「貴様ら…!事の重大性を理解しておらんのか!?」


 どうやらまともなのはグルヌスだけのようだ。

 ドラムグード王国に反撃を叩き込んで領土をぶんどる?

 そんな神業を今のボーティク王国が出来るわけがないだろうに。

 そんなグルヌスに対し、不満を露にするグルバリアス。


「弱腰だ父上!そんなだから勝てるものにも勝てない!」

「そうですぞ!奴らに思い知らせてやりましょう!最強ボーティクここにあり!……と」

「というわけだ!父上にはご隠居していただこう!」


 グルバリアスが指を鳴らすと、あちこちの扉から無数の兵が現れる。

 兵士たちは、驚くグルヌスを置き去りにして身柄を拘束していく。

 空いた玉座には、新たにグルバリアスが座った。


「貴様!!何をするか!」

「これからは私が王だ!グルバリアス二十五世としてな!」

「今からでも遅くない!ドラムグード王国に降伏を申し入れろ!取り返しがつかなくなるぞ!」

「連れていけ!」


 グルバリアスの命令で、グルヌスは城の塔へと連行されていく。

 その間もなにか喚いていたが、それをいちいち気にするグルバリアスでもなかった。

 グルバリアスは玉座に座り直し、軍事関係の役所に命令を出す。


「これよりドラムグード王国と戦争に入る!奴らを追い返し、ドラムグード王都を焼き払うのだ!」

 

 グルバリアスの無謀な命令にも、異を唱えるまともな人はいない。全員がそのままに行動を起こす。

 そしてそれが、ボーティクの運命を決定付けるものとなった。


 





 そして運命の開戦の日。戦場となるボーティク王国領スクラム平原にて。

 ボーティク王国軍約二十万に対し、ドラムグード王国軍は二万程。そして、ドラムグード王国軍に従うブリューク王国軍一万。

 単純な兵の数だけならボーティク王国側が圧倒的に有利だ。


「ふんっ!生かしてやっている恩義も忘れたか。あのクズどもは!」

「陛下。ドラムグードが攻撃してきた理由はブリュークでは?」

「知らん。だが、いい機会だろう。ついでにブリュークも消してくれるわ!」

「しかし、ドラムグード王国軍には親衛隊がいるようですぞ」


 そうだ。ドラムグード王国軍の最前線には、親衛隊を四人確認している。

 これがどう転ぶのかは分からない。

 開戦時刻となり、一気に緊張するボーティク王国軍。

 対するドラムグード王国軍は、一人の人物が前に歩み出てくる。

 青の邪神龍である龍牙だ。

 龍牙は、その手を天に掲げる。溢れ出す絶大な魔力。

 ボーティク王国軍とブリューク王国軍の兵士たちは、その光景に震えが止まらない。

 周囲の気温が下がり始める。とてつもなく強大な、氷の魔法が放たれようとしている。

 空気中の水蒸気が凍りつき、光を反射して幻想的な風景を作り出す。

 美しい見た目とは裏腹に、どんどん地獄へと変わっていく世界。

 そして遂に、龍牙の魔法が発動する。


「受けてみろ……。"地獄潰しの猛吹雪インフェリアン・デス・ブリザード"」

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