第3話 <アスラの挨拶>

「それでですねー。もうあの可愛さと言ったらそれはもう…!」


 リリカの頼みでアスラの部屋を訪れた龍牙。

 新しい親衛隊二名を引き連れて訪れると、最初はアスラも驚いていた。

 控えていたメイドたちに、アスラが恋した相手に挨拶に行くと伝えると、アスラとメイドたちが表情を緩めて準備にかかった。

 ここまではいいのだ。その後、アスラののろけ話が始まらなければ。

 せっせと荷物を整えていくメイドたちを背景に、アスラを喋りを止めない。


「聞いてます~?あの時、舞踏会で一目見たときからもう彼女の虜で……」

「……アスラ様。用意が整いました」


 アスラに仕えるメイド長、フロマンジュが報告する。

 すると、龍牙が引き連れてきた親衛隊の一人であるフィニアが小さくガッツポーズ。

 気づかれはしなかったが、バレたら普通に懲罰ものだった。

 メイドたちは優秀で、いつの間にやら荷物を特使専用船に積み込んでいるという。


「仕事早いねー。龍牙さん!続きは船内で!」

「えっ!?あっ……はい……」


 のろけ話は続くのか……。

 気がつくと、ギャレルとフィニアは護衛の戦艦へと逃げていた。……龍牙を置いて。

 後でお仕置きしようと決めて、アスラと共に船に乗る。

 特使専用船は、三隻の護衛戦艦を伴って発進した。










 惑星オルレアン。

 この星を国土とする国家ブリュークは、混乱状態にあった。

 ブリュークの防衛圏内に突然、ドラムグード王国の船が四隻も出現したのだ。

 技術力も兵力もドラムグード王国に及ばないブリュークは、この突然の事態を受け入れきれない。

 ブリューク王は、すぐに貴族たちを集めて緊急会議を開く。

 だが、ブリューク始まって以来の緊急事態に、有益な案は一つも出ない。

 ブリューク王は、可能な限り抵抗してやろうと兵士たちに配置に就くよう命じようとする。

 その時、管制を担当する兵士が会議室に走り込んできた。


「クロイツ王!ドラムグード王国のアスラ様が上陸を求めています!どういたしましょう?」

「くっ…!何が目的なのか聞き出せ!」

「それが……クロイツ王とルミナ姫に話があるそうです。戦艦の砲が起動していないことから、戦闘の意思はないかと……」

「なに?……お通ししろ」


 兵士は、すぐに船を誘導するために管制室へと戻っていく。

 しばらくして、大きな物音が響く。どうやら、来賓用のパッドに着陸したようだ。

 ブリューク王のクロイツは、娘のルミナを連れて外に出る。

 そこには、ドラムグード王国の国旗をはためかせた船が停留していた。その扉が開き、階段が伸びる。

 階段前に、男女が一人づつ待機する。

 クロイツには、男の方に見覚えがある。


「青の親衛隊……ギャレル……」


 そして、船から降りてきた人物を見て、思わず腰を抜かしそうになった。

 無礼を働けば、この星ごと消されてもおかしくはない。

 降りてきたのは、青の邪神龍である龍牙。その後ろを、邪神龍王子のアスラが続く。

 クロイツとルミナに、緊張が走る。

 アスラは、ルミナを見つけると歩みを早める。

 何か粗相をしてしまったのかと、ルミナは涙目だ。

 そんな彼女に近づき、アスラが一言。


「会いたかった!ルミナさん!」


 思わずフリーズ。どうにも状況が呑み込めない。

 とりあえずは中に入ってもらおう。

 もう季節は冬。

 アスラに風邪でもひかせてしまったら、本格的に侵略行為に走られるに決まっている。

 クロイツは、アスラたちを屋内に案内した。





 クロイツの脳は、とっくに限界を迎えていた。もう何が起きているのか分からない。

 部屋に入るやいなや、アスラがクロイツに向かって頭を下げたのだ。

 思わず龍牙に対して身構えてしまったが、何も行動は起こさない。

 そして、さらに信じられないことをアスラが口走った。


「クロイツお義父さん!む……むむ……娘さんをください!」


 なんと、プロポーズ。

 驚きつつも、内心喜ぶクロイツ。

 ドラムグード王国の王子と婚姻を結べば、ブリュークの安全は約束されたようなもの。断る理由はない。

 だが、それでも断らなければならない理由がクロイツにはあった。

 そしてそれは、同時に不安でもある。

 断ることで、国家の滅亡に繋がりかねない。慎重に言葉を選んでいく。


「申し訳ない!できません!」

「ありがとうございます!必ず幸せに……え?できない?」


 ゆっくりと顔をあげるクロイツ。そして、心臓が早鐘を打つ。

 ギャレルが剣に手を伸ばし、フィニアが小声で呪文を唱えていた。

 急いで弁明しないと、命の危機だ。

 その時、その理由をルミナが説明する。


「実は……隣国のボーティク王国に脅されているのです」


 ブリュークは小さな国だ。

 その歴史は、同じ恒星系内にあるボーティク王国に搾取され続けてきた歴史。

 そして遂に、ボーティク国王グルヌス二十四世は、ある要求をブリュークに突きつけてきた。


「ルミナ姫を差し出せ。息子の性の捌け口に丁度良いからな。もし逆らえば、国土の九割を焼き尽くしてくれようぞ」


 クロイツとしては、そんな要求を受け入れるわけにはいかない。だが、断れば国民を危険に晒してしまう。

 そこで、泣く泣くその要求を受け入れたという訳だったのだ。

 事情を聞いたアスラは、うつむいてしまっている。

 ルミナは尚も続ける。


「私は、アスラ様をお慕いしております。ですが、私が我慢しなければ、民たちが…!」


 その目には、煌めく涙。

 その涙を見たアスラは、顔をあげる。


「ルミナさん。もしその要求がなければ、結婚を考えてもらえますか?」

「勿論です!良いですよね?お父様!」

「当然だ。だが、ボーティクには逆らえない…!」

「分かりました。龍牙さん。いや、龍牙」


 その声に、背筋が冷える。

 変わらない口調だが、どこか冷徹さを感じる。

 アスラの呼び掛けに、楽しげな表情で反応する龍牙。


「何か御用ですか?アスラ様」

「龍牙に命じる。ボーティクなどというド田舎の国家なんて……滅ぼしてしまえ」

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