ドラムグードストーリー1

進撃準備

第1話 <動き始める絶望>

―――ズキッ……。


 また……頭が痛む。ここ最近、頻度も多くなってきている。

 顔を横に向け、窓からの景色を眺める。

 ドラムグード王国の大気には、闇の魔力が多く含まれている。そのため、普段からきもち薄暗かったのだが、今は曇天と大雨も相まって真っ暗だった。

 王都の光だけが、街を照らしている。

 そういえば、……と龍牙は思う。

 あの日も、こんな雨だった。こんな風に、激しく打ち付けるような雨だった。

 あの時のことは、今も覚えている。……今でも、忘れることはできない。

 運命を狂わされ、復讐を誓ったあの日のことは。

 あの時の光景が、脳裏にフラッシュバックする。これも、頭痛と同様にここ最近回数を増している。

 あの時のことを見せられると、心が痛んだ。

 ……心?

 まだそんなものが残っていたことに、龍牙自身が驚く。すべて、あそこで棄ててきたと思っていた。


【フフ。龍牙くんって、意外と面倒見がいいよね?】


 彼女の言葉が再生される。いくつものシーンに別れて、何回も聞かされる。


【うわぁ…!ありがとう!大事にするよ!】

【この先何があっても、私だけはずっと龍牙くんの味方だからね!】

【龍牙くんと同じ戦地だね!後方支援は任せて!】

【大丈夫。凉奈のことは死なせたりしない。きっと守るから】


 回想の終着点は、いつもあの戦いだ。

 場面が切り替わる。

 激しく打ち付ける雨。龍牙の頬を伝うのは、雨水か。はたまた龍牙の涙か。

 止まない大雨が、地面に広がる赤色の水溜まりを薄く、広範囲へと広げていく。

 そのど真ん中に、龍牙は立ち尽くしている。眼下には、心臓を潰された凉奈の姿。


【嬉しいな……私のために……泣いてくれて……。龍牙くんの涙……初めて……見たよ……】

【……凉奈……】

【でも……泣かないで?きっとまた……会える……】


 龍牙に向かって伸ばされた腕から、力が抜ける。そのまま、二度と動くことはない。

 龍牙の体内をどす黒い魔力が暴れまわる。そして、すぐに臨界点を迎える。

 龍牙は見た。凉奈にトドメを刺した者の姿を。憎き白銀の翼を。


【神天使マリエル…!絶対に…!殺してやる…!】


 怒りに任せ、魔力を解放。

 そうして、龍牙は銀河団を丸々消し飛ばした。




「……何が守るから……だ。結局、何も守れなかったじゃないか……」


 一通りの回想が終わると、頭痛も治まる。

 このところ、ずっとこの感じなのだ。まともに眠れていない。

 痛む目頭を揉みほぐしていると、龍牙の背中に柔らかいものが押し当てられる。同時に、両目を塞がれた。


「だーれだ?♪」

「華奈美姉様。毎日毎日やめてくれないですか?」

「ケチ。良いじゃないの~」


 龍牙に自分の胸を押し当てていた華奈美は、名残惜しそうに離れる。

 彼女は、青の邪神龍である霧島 華奈美きりしま かなみ。龍牙の姉だ。

 そして、いわゆるブラコンという属性持ちだ。

 龍牙も、華奈美のことは好きなのだが、過激なスキンシップのせいで少し距離を取ってしまう。

 華奈美が部屋に入ってきてすぐ、ギャレルも入室してくる。


「華奈美様。そこらで終わりですよ。……龍牙様。軍の精鋭を集めて玉座の間へ集合せよと、リリカ様の御命令です。」

「分かった行こう。……姉様。後にしてください」


 嫌がる華奈美を引き剥がし、どうにか玉座の間へと向かう。

 その際、ギャレルがかなり負傷してしまっていた。

 華奈美は、剣術や武術こそ素人のそれだが、魔法に関しては龍牙すらも圧倒する才能の持ち主だ。一筋縄ではいかなかった。

 ギャレルは、全身に凍傷を負っていた。

 華奈美の龍魔メギウスは、龍牙の中途半端な冷気攻撃よりも強い、本物の絶対零度だ。

 幸い、リリカの招集まではまだ時間がある。


「居るかヒルダ?各地に散っている主要兵士を呼び戻せ。最優先でな」

「わっかりましたー!お兄ちゃんの命令なら、喜んで~」


 姿は見えないが、気配のひとつが消失した。ヒルダが、軍の高官を呼び戻しに動いたのだろう。

 空いた時間を使い、龍牙はギャレルの治療を始める。





 ドラムグード王城の玉座の間は、軽いパニック状態だった。

 ドラムグード王国には、五つの軍隊が存在している。


 邪神龍王を最高指揮官とする、ドラムグード王国本軍。

 青の邪神龍を最高指揮官とする、ドラムグード王国青の軍。

 赤の邪神龍を最高指揮官とする、ドラムグード王国赤の軍。

 紫の邪神龍を最高指揮官とする、ドラムグード王国紫の軍。

 白の邪神龍を最高指揮官とする、ドラムグード王国白の軍。


 玉座の間には、それぞれの軍の中核を担う重要人物たちが一挙に集まっていた。

 城で働くメイドたちは、この光景に腰を抜かしてしまう者まで出てしまっていた。

 玉座に座るリリカが、その口を開く。


「よく集まってくれたわ。貴方たちを呼んだのには、訳がある」


 そう言うと、リリカは玉座から立ち上がる。


「遂にこの時が来た。拮抗していた三勢力。今やガトランティア皇国は虫の息、宇宙連邦も勇者の多くを失った。この機を逃すつもりはない。宇宙すべてにドラムグード王国の旗を立てるために!今こそドラムグード王国が、宇宙に真の平和をもたらすときなのよ!それを邪魔する者は、容赦なく殲滅することを許します。すべての王国の民たちが望んだ、輝かしい未来への一歩を踏み出すときです!」


 静まり返る玉座の間。

 静寂が三十秒ほど続いた後、紫の軍から声が上がる。


「イヤッホー!さすがはリリカ様!素晴らしい!」

「フォーッ!待ち望んだ時が来たぞー!」

「備えよ!戦争だ!全面戦争だ!」


 一気に沸き立つ一同。気の早い数名は、邪神龍王代理の御前ということも忘れて、ブラスターガンの調整まで始めていた。

 しかし、リリカも浮かれている。そんな些末なことなど気にもとめない。

 そしてもう一つ、玉座の間のテンションをあげる発表を行う。


「それにともない、新たに親衛隊選抜を行います。白の親衛隊の変動はありませんが、それぞれの親衛隊の新メンバーを、四天龍の皆さんに発表していただきます」


 その言葉が油となり、テンションという名の業火をさらに燃え上がらせた。


 


 

 

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