第414話 その先を目指して
竜夫は向かってきた顔のない人型を待ち受ける。それは、自身を一切顧みることない動き。戦うためだけに生み出された捨て駒としてのもの。隙だらけで、対処するのはさして難しいことではないが――
だが、捨て身で向かってくる敵というのは、恐ろしいものである。少しでも付け入る隙があれば、一気に潰される可能性があった。的確に仕留めなければならない。
向かってきた顔のない人型は、その腕を思い切り振りかぶる。極めて大振りで、相手の反撃を一切考えてない一撃であった。
竜夫は自身に向かって振るわれた腕を的確に防御したのち、反撃。顔のない人型は肩口から深々と切り裂かれたものの、それでもなおこちらへと向かってこようとする。大量の血を流しながら、こちらへと向かってくるそれは、人の形をした怪物というに相応しいものであった。
竜夫は、致命傷に等しいダメージを負ってもその動きを止めない顔のない人型に対し、先んじて追撃。顔のない人型は、竜夫の刃によって胴のあたりから真っ二つに両断される。ぐずぐずに腐った果物に刃物を入れたときのような感触が両手に伝わった。
胴から真っ二つに両断されてもなお、顔のない人型はまだ蠢いていた。上半身だけで這いずるようにしてこちらへと向かってこようとする。その光景はグロテスクという他にないもの。
胴体を真っ二つに両断された状態で長く活動していられるはずもない。自身を顧みることなく向かってくるのだとしても、不死身ではないのだ。あの状態であれば、放っておけば間違いなく活動停止するはずであるが――
なにより、雑魚に構っている場合でもない。目的はあくまでもこの先にある『棺』の中枢だ。いちいち雑魚を殲滅したところで、余計な消耗をするだけである。こちらは、これまでの戦いで相当消耗しているのだ。できることなら、温存しておくに越したことはない。
上半身だけでまだ動こうとしている顔のない人型を飛び越え、竜夫は前へと進む。
背後からのっそりとした足音が聞こえてくる。もう一体の顔のない人型だ。その動きはたいした速さではない。駆けていれば、追いつかれることは万に一つもないだろう。
しかし、前から別の敵が現れる可能性は非常に高い。そうなると、必然的に挟まれる形となる。取るに足らない雑魚であったとしても、一本道で挟まれるのは避けておくべきであろう。
とはいっても、奴らは胴体を真っ二つに切り裂かれてもなお動き出そうとするくらい頑丈な身体を持っている。それを考えると、生命活動を停止させるのも一苦労であろう。
間違いなく、こいつらはこの先もこちらを阻むためにどこからもとなくやってくるのは確実だ。いちいちとどめなど刺していられないだろう。
であれば――
前を走りながら、竜夫は手榴弾を数個創り出して、それらを一気に後ろへと転がした。顔のない人型はそれを一切回避しようとせず、手榴弾の爆発に巻き込まれる。両脚を吹き飛ばされる。それでもなおこちらを負ってこようとするが、両脚を吹き飛ばされてまともに動けるはずもなかった。
これならば、ただ無視するよりも安全性と時間を稼げるはずだ。竜夫はなおも異様な空気に満ちた回廊を進んでいく。
再び、どこからともなくゲル状の物体が落ちてくる。それはすぐさま形となり、顔のない人型が現れた。今度は五体。それなりの広さがあるとはいえ、一本道で五体の敵を相手にするのは少し危険だ。最低限、処理しなければならないだろう。
顔のない人型は先ほどと同じく隙だらけな動きでこちらへと向かってくる。
やはり、処理するのは簡単であるが、それは一体の話だ。五体一気に向かってくるとなると、奴らの耐久力の高さを考慮すれば少々危険だろう。取るに足らない雑魚であったとしても、囲まれて一気に襲いかかられれば脅威となる。
幸い、奴らは武器を持っていない。ならば、近づかれる前に処理するのは最善であろう。
竜夫は足を止め、手榴弾を転がした。手榴弾は顔のない人型たちの足もとで爆発し――
当然のことながら、爆発に巻き込まれた顔のない人型たちはただではすまない。爆発によって無残に吹き飛ばされ、その動きを止める。
爆発をまともに受けたとしても、奴らの耐久力を考えれば、身体が多少吹き飛ばされたとしても、攻撃を仕掛けてこようとするだろう。であれば、その近くを通り抜けるのは少々危険だ。
そう判断した竜夫は壁へ向かって飛び、そのまま駆け抜けていく。
手榴弾によって吹き飛ばされた顔のない人型どもから離れたところで着地し、さらに加速して前へと進む。
異様な空気はさらに強くなる。間違いなく、目的地に近づいていた。このまま進んでいけば、確実に辿り着くはずであるが――
背後を見る。
顔のない人型どもが負ってくる気配はなかった。だが、奴らを倒していないこともまた事実である。しっかりと警戒しておく必要はあるだろう。言うまでもなく、油断は命取りとなる。なにより、この場は敵の本拠地であるのだから。こちらの予想し得ないなにかが起こってもなんら不思議ではない。
身体を撫でるようなぞわりとした感触が広がる。視覚的にはなにもないはずなのに、あにかがあるように思えてならなかった。嫌な感触だ。いまのところこちらの身体に異常は生じていないが、ここではなにが起こったとしてもおかしくない場所である。決して、無視していいものではないはずだ。
それにしても、なにかわからない事象というのは本当に厄介なものである。原因不明であるがゆえに、それが危険なものであっても気づくことが難しくなってしまうのだから。そして、その遅れというものは場合によっては致命的なものとなり得る。やはり、見えない脅威というのはどこまでも厄介なものだ。
それでもなお、この先に進まなければならない。この先にあるものをなんとかできなければ、元の世界に帰ることも、生きてこの場から脱出することもできないのだ。恐れていられる余裕などない。
竜夫はさらに加速する。
身体に纏わりつく嫌なものを吹き飛ばすように、時おり竜の力を発散させた。だが、色濃くこの場にしみついているそれはすぐさままとわりついてくる。やはり、これをどうにかするのは、大元をなんとかしなければならないのは確実であった。
さらに進むと、どこからともなくゲル状の物体が落ちてくる。落ちてきたそれはすぐさま形となり、こちらを阻む。現れたのは、顔のない人型。
竜夫はすぐさま手榴弾を放り投げる。
だが、顔のない人型は急加速し、竜夫が投げた手榴弾の爆発を回避。その動きはいままで現れたものとは明らかに一線を画す動き。
竜夫はすぐさま体勢を立て直して、顔のない人型を待ち受ける。
爆発を回避してこちらへと接近した顔のない人型は、いままでの個体とは比べものにならないほど俊敏な動きで拳を放つ。
「くっ……」
竜夫は刃で顔のない人型の拳を防いだものの、しっかりと体重を乗せられたその一撃によって大きく後ろへと押し込まれた。見た目はいままでの個体と同じであるが、その動きは明らかに違う。気を抜けば、やられてしまってもおかしくない。
洗練された動きで顔のない人型はこちらに追撃をしてくる。その足運びは達人さながらのものであった。一切の無駄がない、目の前にいる敵を倒すための動き。
竜夫は追撃をしてきた顔のない人型の攻撃に合わせて刃を振るい、防御。身体を芯から揺るがすような衝撃が刃から伝わってくる。
いままでの個体と違い、こいつを無視するのは危険であることは間違いなかった。しっかりと倒しておかなければならない。
異様な空気に満ちる場所で、竜夫は自身を阻むために現れた敵を打ち倒すために、前へと踏み出した。
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