第337話 障壁破り

 空を駆けながら、竜夫はあたりを埋め尽くすかのように存在する小型ドローンを叩き落としていく。


 一体一体はそれほど脅威ではないが、これだけの数が揃うと恐ろしいものと化す。数の暴力という奴はどこに行っても偉大である。異世界という場においてもそれは例外ではないらしい。


 非常に邪魔ではあるが、いつまでも小型ドローンの相手ばかりはしている状況ではなかった。大元を断てていない以上、倒してもすぐ補充される。すべてを倒し切るのと、こちらが消耗しきるのと、どちらが早く訪れるのかは言うまでもない。そして、その大元があるのはここから遠く離れた『棺』である。


 であれば、取るべき手は一つ。飛び回る小型ドローンを適度に減らしたところで、それらを制御している灰色の竜を撃破するしかない。物理的な大元が『棺』であったとしても、それを制御しているのは奴である。奴を倒すことさえできれば、『棺』から飛来する様々な兵器による攻撃は止むはずであるが――


 それを言うのは簡単だが、実行は難しい。数に押されている状況ではこちらの思うように動くことは難儀であり、なおかつ設置された機雷によって動きが制限されている状況だ。灰色の竜に接近することすら厳しい状態である。


 それでもなお、竜夫は刃と銃を駆使し、飛び回る小型ドローンと設置された機雷を処理し、前に進んでいく。かなりの数を破壊したはずであるが、その数はあまり減っているようには思えなかった。もしかしたら、こちらが認識していないところから、現在進行形で供給されているのかもしれない。


 そこまで進んだところで、考える。


 先ほどアースラに言われた言葉の意味を。


 接近しなくてもできるはずであるというのは、どういうことなのか? なにかこちらが忘れている、あるいはそれに思い至っていないことであるというのは間違いないはずだが――


 あたりを飛び回るドローンはそのことに関してこちらに考えさせる暇を与えてこない。素早く機雷に触れないよう飛び回りながら、こちらに対して攻撃を仕掛けてくる。小型ドローンの攻撃は機雷の爆発とは違い、それほど威力が高いものではないが、それを受け続ければそのダメージは確実に蓄積していく。消耗はできる限り避けておくべきだろう。しかし、消耗を必要以上に恐れた結果、やられてしまってはまるで意味がない。道を切り開き、前へと進むためであれば、ある程度のダメージを受ける覚悟してそれを実行する必要があるだろう。その判断は極めて難しいところであるが、できなければこの状況を打破することは難しい。


 小型ドローンの処理をしつつ、竜夫はアースラの言葉の真意を探っていった。


 自分の能力についてはすべてとは言えなくとも、いままでの経験でどの程度できるのかは把握している。様々な武器を創り出す能力。銃や刃だけではなく、手榴弾の類なども創ることも可能だ。もしかしたら、もっと強力な兵器を創り出すことも可能かもしれない。


 アースラの言葉を考えるに、いままで行ったことのある手段にそのヒントが隠されているはずだ。それは一体なんだろう? あと少しでそれが出てきそうな気がするのだが――


 あたりを飛び回りながらこちらに攻撃を仕掛けてくる小型ドローンどもはそれをなかなか許してくれない。そのせいで、あと少しでつかめそうな『なにか』をつかむきっかけがなかなか得られなかった。わずかでも、ゆっくりと考えられる時間があればいいのだが、奴らにとって排除すべき敵である自分にそのようなことをさせてくれるはずもない。動き回りながら、敵の処理をしつつ、設置された機雷の位置を把握しなければそれを続ける必要がある。


 奴の障壁を無効化しうる力と言えば、あらゆる隙間に入り込める極薄の刃と、創り出した刃をその空間に割り込ませることであるが――


 そこまで考えたところで、気づく。離れた場所から灰色の竜を守る障壁を破りうる手段のことを。


 確かに言われてみればそうだ。似たようなことを過去にやったことがある。その応用をすれば、強力な攻撃ですら容易に弾き返す奴の鉄壁の障壁を破ることが可能のはずだ。


 確実にうまくいくのは恐らく一度きりだろう。二度目以降もできるものの、一度行えば向こうもそれに警戒してくるはずだ。できることなら一度で成功させるべきであるが――


 本当にそれができるのかどうか、試してみる必要がある。竜夫は力を込め、銃を放つ。放たれた三発の弾丸は、飛び回るドローンに命中し――


 小型ドローンは爆散する。


 問題ない。やること自体はいまと同じだ。間違いなく、できるはずであるが――


 とはいっても、これを成功させるにはもっと近づく必要があるだろう。離れすぎていた結果、うまくいかない可能性は充分にあるはずだ。それだけは気をつけておかなければならない。


 確実に成功させるのであれば、拳銃の有効範囲程度まで接近する必要があるだろう。空という隔てるものが一切ないために距離が測りにくく、そのうえ竜と化し身体が巨大になっているので、その距離調整が少し難しいところであるが――


 難しくとも、やらなければならなかった。できなければ、この状況を打破し得ないのだから。


 小型ドローンを撃ち落とし、機雷を避けつつ、その爆発に巻き込まれないように処理しながら、前へと進んでいく。


 いまであれば、奴は恐らく自分の防御が絶対であると確信しているだろう。そこにつけこみ、そのまま一気に倒してしまえれば最善であるが。


 距離はまだ遠い。離れることによって発生するだろう力の減衰を最低限に抑える必要がある。もっと近づく必要があるだろう。


 幸いなことに、鉄壁の障壁に守られた奴はこちらのように動き回っていない。そもそも、奴の戦闘スタイルを考えれば、動き回る必要がないのだからそれは当然だ。そこにチャンスがある。その隙を突くことが確実にできるのは、一度目だけだ。


 竜夫はさらに近づく。


 まだだ。できるだけ近いほうがいいが、確実に隙を作り出すのであれば、多少の距離は必要だ。接近しすぎると、奴がカバーしきれないほどの隙を作り出すことができなくなってしまうからだ。そのあたりはしっかりと見極める必要があるだろう。


 小型ドローンを撃ち落とし、設置された機雷を避ける。あと少し近づければ、もっとも有効な距離になるはずだ。


 当然のことながら、小型ドローンはこちらを阻もうとしてくる。小型ドローンは搭載された機関銃を放ち、こちらへの攻撃と設置された機雷の起爆を図ってこちらの妨害を行ってきた。


 竜夫は放たれた弾丸と機雷の爆発を避けながら、反撃を行って小型ドローンを撃ち落としつつ、さらに前へと出て、灰色の竜へと接近。


 ここだ。


 竜夫はそこで動きを止め、持つ銃に力を込め――


 狙いをつけ、三発の弾丸を放ち――


 ほぼ同時に、弾丸に引かれるようにして、灰色の竜へと接近。


 放たれた弾丸は障壁を発生させている装置へと飛んでいき――


 弾丸は障壁へと命中。そのまま弾かれる――はずであった。


 放たれた弾丸は弾けるようにしてその場に刃を発生させる。それは、その空間に割り込ませるようにして発生し――


 空間に割り込むようにして創り出された刃は障壁を貫通し、その奥にある装置を破壊する。三つの発生装置をほぼ同時に破壊されたことで灰色の竜の前面にあったはずの障壁が消え――


 決定的な隙が生まれた。


 弾丸とともに動き出していた竜夫は他の装置がカバーを図る前に灰色の竜へと近づき、持っていた刃をその身体へと突き立てた。

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