散歩

 まだ日が上がって間もなく、町がゆっくりと眠りから目を覚まそうとしているような、そんな時間。

 私は自分の家の前で彼が姿を見せるのを待ちわびていた。

 彼とは、私の大切な人。かけがえのない存在だ。

 私達は毎朝、連れ立って散歩に行くことを常としている。

 散歩は良い。身体を動かすのは、何というか、充実感がある。これを欠かしてしまえば心身に悪いことは間違いないだろう。


 やがて、私はすぐ傍の彼の家から物音がするのを聞いた。扉の向こうにいることが分かる。

 予想通り、程なくして彼が姿を見せた。


「さあ、行こうか」


 私は彼の言葉に応じ、その手をぐいぐいと引くような形で歩んでいく。

 彼は不満な様子も見せずに付いて来てくれた。いつだってそうだ。私の気が向くままに好きな場所へと行かせてくれる。ただ、危ない時だけはしっかり止めるので、その時は私も立ち止まるようにしている。


 それにしても、良い天気だ。

 少し前までは悪い天気が続いていた。雨の日は散歩がなくなることも多いので、彼と過ごす時間も減ってしまい寂しい気持ちになる。家の中で雨粒が屋根を打つ音をただ聞いているのはたまったものじゃない。

 なので、こうも気持ち良く晴れていると足取りも軽くなる。ついつい彼の周りをくるくると回ってしまうくらいには。私に振り回されて少し困った顔をしながらも、彼は楽しそうに笑ってくれた。


 彼と一緒に散歩する時間こそが、私にとって何より幸いなひと時だ。

 とはいえ、いつまでも散歩しているわけにもいかないので、適当にふらついてから私達は帰路につく。

 散歩は朝だけでなく夕方にも行くので、少しばかりの辛抱だ。この空模様ならなくなることもないだろう。


「ちょっと待っててね」


 彼は私を家まで送っていくと、すぐ傍の自分の家に帰っていった。

 しかし、彼がすぐに戻ってくることを知っている。

 その手には私の食事を携えて、彼が『犬小屋』と呼ぶ私の家へと。

 散歩後の食事もまた私にとって幸いのひと時だ。やはり動くと腹が減る。

 私は彼が持ってきた食事をあっという間に平らげた。彼はそんな私の身体をゆっくりと撫でてくれた。

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