福音
地球の属する天の川銀河よりも遥か彼方に存在する領域。
そこには地球人類よりも随分と早い段階で知的生命体が誕生した。
彼らは今や広大無辺な宇宙を縦横無尽に飛び交うことを可能としており、各地で調査を行っていた。
太陽系の調査には男女一組のペアが派遣されており、その者達は宇宙船から地球の人々の暮らしを不可解そうに観測していた。
「こんな辺境の惑星にまさか我らと同じ知的生命体が誕生していようとはな」
「それも惑星を覆い尽くす程に栄えているなんてね」
「しかし、これだけ個体が存在するのであれば、とうに惑星の外へと飛び出していてもおかしくないはずなんだがな」
「そうね。このままでは惑星の限りある資源を使い切ってしまうわ。滅びの一途を辿っていることに気づいていないのかしら」
「一体、何が彼らの文明を発展を停滞させているのだろうか」
その者達は地球の観測を続けた結果、驚くべき事実に気がつく。
「どうして彼らはこうもいがみ合ってばかりいるの?」
「確かにそうだな。我らとて個我を宿している以上、他者に怒りを覚えることもある。ただ、それにしても彼らは度が過ぎている。長い時間を共に過ごしてきた家族でさえも、互いの思考の不理解から争いが生じているようだ。誰一人として他者と分かり合えていないように見える」
「……もしかして、彼らの肉体は仮想体ではないのかしら?」
「なるほど。それならば、彼らの行いへの疑問も納得できるな。他者との間に存在する大いなる断絶を乗り越えることが出来ていないというわけか」
その者達の文明は既に意識のみでの存在を可能としていた。
仮想体と呼ばれたそれは、意識の認識によって素粒子を操作することで自由自在に構築が可能であり、その演算能力も際限ないものだ。
彼らにとってコミュニケーションとは意識と意識の直接的な触れ合いであり、今行っているような仮想体を用いた対話は趣味のようなものに過ぎない。
互いが分かり合おうと試みれば一切の不足なく伝達が可能な彼らにとって、地球人類の意識が囚われた肉体は不出来なハードウェアでしかなかった。
「彼らの文明を尊重してこのまま放置するか、それとも我らが手を差し伸べるのか。その判断を行う為にも一度戻る必要があるな」
「ええ、そうね」
彼らを乗せた宇宙船は去って行った。とは言え、彼らの技術力であれば母星に戻るまでもほんの一瞬だ。
かくして、地球人類は現在、先駆者達による福音がもたらされるか否かの岐路にあるのだった。
その結論が出るまでもう間もなくである。
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