第133話1月5日 母の猫

母の猫が 俺の部屋で トイレの失敗をする


11月の中頃

母が入院してからひと月ぐらい経って 母の猫を俺の部屋で 寝かせるようにした

一日中母の部屋にいて 深夜だけ 探すかのように1階に降りてくる

そして大きな声で泣いては明け方にニ階に戻って行く

そんな毎日を過ごす母の猫

朝、2階にあがると母の毛布にくるまって寝ている

ご飯は母の部屋であげた

トイレも2階にある

俺の部屋に入れるには ちょっとした理由があって少し抵抗があった

トイレもないし そちらの心配もある

けれどもやはりそういう 寂しげな母の猫の行動を見てしまうと一人にはしておけなかった

最初は寝かせるだけに していた

ご飯を上げてしまうと生活圏が完全に1階にうつってしまいトイレなどの失敗が 心配されたからだ

結局 玄関でご飯をあげるようになり最終的には俺の部屋にあげてしまう

そして約ひと月ぐらい たった今日

トイレの失敗

これは躾云々ではなくて ドライフードを食べたくない母の猫が駄々をこねて 粗相をした

そういう状態

一番困るといえば困るタイプではある

だけど 2階に上げて 生活させるのは あまりにも厳しい

母は帰ってくる

けれども その部屋にはもう 二度と 帰ってこない

2階だから 上がらない上がれない

あの部屋で 母を待っていても 母の毛布にくるまってじっとしていても

母の 作ってくれた小さな食卓で キャットフードを待っていても

母は帰ってこない

もう二度とあの 衣装ケースを取り合って 喧嘩することもない

新しく 違う場所での生活がいつか始まる

そちらを楽しめばいい

それはよく分かっている けれども

感情として どうしても 二度とあの光景が見られない帰ってこないと思うと

どうしようもなく 震えてしまう

母の猫は今俺の部屋で俺の隣で丸くなっている

母だけが 大好きで 母の車のエンジン音で2階から降りてくることができる

俺が帰ってきても一切顔を出さない

そんな子だった

あらゆる周囲のそういった変化が 現実を現実として 突きつけてくる

そんなものは十分受け入れているんだ

受け入れた上でなお 突きつけられる

その光景は 苦しくてやまない

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