第128話1月1日お喋りを続ける まるで何事も起きていないかのように

悲壮感をかきけすように

お喋りを続ける

まるで何事も起きていないかのように

これまで通り

会場へ向かう電車の中

リサイクル屋に向かう車の中

練習終わりのフードコート

イベント終わりの牛丼屋で喋っていたそのまま


気付くなよ気付くなよとおびえながら

努めて自然に普通に

喋り続ける


実際、楽しいは楽しい


母とはこれまでの日常を共有しているので

また

それゆえの価値観も事情も共有しているから

その辺りで気を遣う必要がない


けれども、だからこそ

何かしらの狂気を感じる


二人で必死に

その時期、母が元気だった時分に潜り込もうとしているような感覚

この現実なんかまるで起こってなかったかのような演技を続けている

頭がきしむ

頭を叩き割りたい衝動に襲われる


母も同様だったようで

俺が今日、ベッドでついうつらうつらしていた時

大きな精神不安で泣いてしまったとのこと

一時間以上

看護士さんのもと

ぐしぐしと

目が覚めた俺が探しにいくと、来るなとジェスチャーする


遠い場所で来るな来るなする母が

とても怖くてとても悲しかった


そのあとふと母が

帰りたいとぼやいた

それは

家に

だけではなく

あの頃に

なんだ


叶わないと知っている


だから

壊れかけている

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