第105話12月11日そこそこで切り上げて、あんまり頑張らないで、 なのに結果を期待する

介護タクシーが、鬼のように高い

デマンドタクシーというのを見つけたけれど、病院までいくものはその地区在住の人しか使えないらしい


多少好きなスポーツ観戦の話もできるようになったけれど

無理している感じもする

観戦できないことよりもこれまでを語れないことが苦しい

楽しかった記憶全てが

触れないタブーになるというのは

この十数年の否定だからさ


愛猫に、電話越しに呼びかけることができるようになった

これまでは愛猫の話題すらできなかった

が、愛猫の声を聞くともうだめ

電話遠ざけて、と泣きそうな声になる

家を思い出す

楽しい場所を思い出す


入院中

胸がぎゅううとなって苦しいと訴える

お医者に安定薬を請求する

気持ちはわかるけれど

薬でしのごうとすると認知症へとつながる

脳を無理やり黙らせるのだから

一方でほっておくと

精神が病む


訪問客が楽しませてくれる

とても嬉しいらしい

でも帰ると余計に鬱になる

相手により話に合わせたり、気を遣ったり

笑顔をつくることも多い

腹から笑えないという


家に帰りたい

そういうことなのだけど

帰ったところで

何もないんだよ


その場所で半分を少しでも取り戻せば

もしかしたら少しくらいは何かあるかも

すっきり笑えることはなくても

笑えないままということはなくなるかも


期待しちゃだめなんだけどね

俺は


期待したことは全部かなわないことになってるからさ

これまでずっと

がんばればなんとかなるんだったらいいんだけどね

がんばったら体の半分がなくなるんだもんさ

そこそこで切り上げて、あんまり頑張らないで、

なのに結果を期待する

それが正解なのかね

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る