二十 義兄弟(五)
真成も真備を睨みつけていた。
真成が口を開けたとき、真備は真成に走り寄って彼を抱きしめた。
長い体を屈めて、真成の肩に顔を埋めた。
真成はぎゅっと目をつむり、声を絞り出すように、
「兄さま、すまない。心配かけて。でもどうしようもなかったんだ。もうどうしたらいいか、自分でも分からなくなってしまったんだ」
真備が鼻をすする音が聞こえた。
真成は目を開けて、
「兄さま、おれはもうこれ以上兄さまにも
「……いや、きみのしたことは間違っていない。びっくりしましたが、これでいいのです。やりたいようにやればいいんです。きみには、きみにしかできないことがあります」
真備は顔を上げないまま続けた。
「きみは真面目すぎる。張進志を殴った唐人学生に、出家しろと言われたそうですね」
「どうしてそれを?」
「その唐人学生がわざわざわたしに教えに来てくれました。
「いや、それは違う。おれはあちこちをふらふらしていた。気がつくと醴泉寺にいた。そしたらいつの間にか真海が来ていた。おれのしたことが間違っていないって、なぜそう思う?」
真備はようやく真成の肩から顔を上げた。
「実はきみを探すため、
「でもそれでは張進志に償えない」
「彼に償いたいのなら、彼の言うとおり
「どうやって?」
「それはわたしにもよく分かりません。わたしもひとからは真面目と言われる
真成は真備の目を覗き込んで、
「兄さま、おれがいなくなったことを仲麻呂にも言ったのか?」
「いいえ、科挙に向かって猛学習している彼には心配をかけたくなかったので言っていません。
「弁正さまにも心配をかけてしまったか……本当に馬鹿なことをした」
「ですから、それでいいのです。あっ」
「兄さま、どうしたんだ?」
「この近くにひとり、馬鹿を教えてくれそうなひとがいました。行ってみましょう」
真備が早足で歩き出したので、慌てて真成とわたしはあとを追いかけた。
真備が向かったのはかなり立派な屋敷の前だった。
真備は勢いよく門を叩いた。
門番がのっそり顔を出した。
大柄な門番は真備の顔を見るとにやにやして、
「おや、あんた前にも来たね。お嬢さんに用かい?」
「はい。取り次いでもらえますか?」
「いいよ、待ってな」
門番は引っ込んだ。
暮鼓が鳴り始めた。門が再び開いた。
現れたのは先ほどの門番……ではなく、あの
真成は目を丸くした。
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