十七 探花(一)
二月、
残留するわたしたち留学生、留学僧と弁正一家は長安城の門の外まで見送りに行った。
十五年ぶりに日本へ帰る大宝の留学生、留学僧たちは弁正に、
「朝元のことは生まれたときから知ってるんだ。ずっと自分の息子のように思ってるし、これからもそうだ。必ず無事に日本まで連れて帰るから」
「平城京でもおれたちが親代わりとなって面倒を見るよ。だから弁正、心配するな」
弁正は彼らに向かって合掌した。
朝元は、
「お父さん、姉さん、兄さん、行ってきます。二十年後、わたしは今度は日本国遣唐使として帰って来ますから、楽しみに待っていてください!」
と元気いっぱいに手を振って去って行った。
こらえきれずに
大人たちはみな二人を優しく慰めた。
朝元たちの姿が見えなくなっても、見送りの者たちはしばらく身動きせず、言葉を発することもせず、ただ遣唐使たちが通って行った道の先を見つめていた。
これからいよいよ本格的に留学生生活が始まるのだ。
ちょうど一年前、春日の
いや、弁正もいる。
父親のような彼がそばにいることは本当に心強かった。
真成が
「仲麻呂はおまえらと一緒に
真成は笑って、
「もちろんだ。むしろ誘ってくれるような友が彼にいることを知って、おれたちも安心した」
科挙の中でも一番の難関の
仲麻呂が挑戦しようとしているのもまさにこの進士科だった。
皇帝のすぐそばに仕えるような高級官僚となるには、まずこの進士科に合格した進士となり、その進士となった者だけが登れる出世の階段の前に立たなくてはならない。
だがこの進士科は毎年二十名から三十名くらいしか合格者が出ない狭き門だった。
吉麻呂は珍しくふう、とため息をつき、
「いや、さすがの仲麻呂も最初から全部上手くいってたわけじゃねえよ? まあ太学に入ってるような連中はみんないいところのお坊ちゃんだからさ、見た目じゃにこにこ礼儀正しく振る舞って、あからさまに日本人を馬鹿にしたりはしないんだけどさ」
吉麻呂は太学で起きたことを語ってくれた。
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