龍介くんの日常

第74話

瑠璃の案内で、行方不明の女子2人と小学校時代に仲が良かった、小向という子にメールしてから家に行くと、物凄く頑張りましたという装いで出てきた。

「出かけんのか？ごめんな、忙しいのに。」

「ううん！全然！」

寅彦は、彼女が龍介の元ファンだと気付いて、笑いを堪えるのに苦労したが、当の龍介は気付くはずも無く、早速聞き込み調査入った。

「佐藤と…えー、なんだっけ？竜宮城？」

瑠璃が慌てて訂正し、とうとう寅彦は吹き出している。

「浦島さん。」

「ああ、その2人、どうもあの噂の祠に悪い願い事をしに行った様なんだが、なんか知らねえ？奴らが願いそうな悪い事って。」

さっきまでニヤケ顔だった小向の顔が、急激に曇った。

「ええっと…。瑠璃の前だと、ちょっと言いにくいんだけど…。」

「なに？いいわよ？なんなら外出てようか？」

「ううん。寒いからいいよ…。でも、私が言ったって言わないでくれる？」

「ええ。言わないわ。」

「ーあのね…。瑠璃、加納君と付き合ってるんでしょう？

最近よく手を繋いで、2人ともお洒落して、休みの日の夕方とか、駅まで歩いてるじゃない？」

付き合っているという表現に、意外な事だが、龍介は否定しなかった。

「う、うん…。」

龍介が否定しないので、瑠璃が相槌を打つと続けて言った。

「それ、サトエリも見たんだって。」

佐藤という少女は佐藤絵里という名前なので、そういうアダ名が付いている様だ。

「それでさ、サトエリと浦さんて、加納君の事、昔から狂信的に好きじゃない？

なんか、アイドルオタみたいな感じでさ。」

「そうね…。」

「私達はそれ見ても聞いても、ああ、瑠璃なら仕方ないよねってなんか納得って言うか、まあ、加納君に手が届くとは正直思ってないからさ。

別に恨むとか無かったんだけど、サトエリと浦さん、凄い恨んでんのよ、瑠璃の事。」

「な…、そうなの！？」

「うん。もう学校でも、その話ばっかでさあ。

私達も段々気分が悪くなってきて、最近あの2人とは離れてて、段々クラスでも浮いてきてるんだけどね…。

それ、よく柏木と佐々木が怒ってたんだ。

自分の思い通りに行かないからって、瑠璃が悪い奴みたいに悪口ばっかり言ってるなんてみっともない、加納君が聞いたら半殺しにするぞって。」

「してえトコだが、女には手え出さねえ主義だ。つまり、瑠璃が俺から離れるとか、そういう事を願いに行ったと？」

「ーそんなもんじゃないと思うんだよね…。」

瑠璃が諦めた様な顔で、冷静な声で言った。

「死んじゃえって感じ？」

「多分…。死ねとかしょっ中言ってたし、どっかの神社に、丑の刻参りしようとかも話してたみたいだよ。」

黙っている瑠璃の代わりの様に、龍介が怒りだした。

「人を呪わば穴２つっつーんだよ。」

「え？どういう意味？」

「人を憎んだり恨んだりして、不幸になれなんて呪うと、自分も呪われるって事だ。

全く、くだらねえ奴らだな。話してくれて有難う。」

礼もソコソコにして出ると、龍介は瑠璃を見つめた。

「あんなの気にすんな。俺はお前と友達同士の付き合い、止めたりしねえからな。」

ーやっぱり友達同士の付き合いの方にとってたんだあああ～！

瑠璃は心の中でかなり落胆したが、なんとか微笑んで礼を言った。

寅彦が笑いを堪えて、肩を揺らしているので、そっと足を踏んでおく。

「しかし…。助けたくもねえな、奴ら…。」

「まあね…。でも、私死んでないし…。」

「死なせねえよ。」

かっこいいが、やっぱりズレているのが悲しい上、寅彦の足をまた踏む羽目になりながら祠に到着。

「柏木君と佐々木君は、私が死ねっていう願掛けだったから、必死に止めてくれたのね…。私の為にこんな事に…。」

深刻な顔になる瑠璃の頭を撫で、龍介はいつもの様に人を安心させる笑顔で笑いかけた。

「だって、お前は俺だけじゃなく、みんなの大事な友達だもん。奴らは当たり前の事しただけだ。気にしないの。お互い様なんだから。」

「うん…。」

友達という箇所が、恋人だったらどんなにいいだろうと思わなくは無かったが、そんな事言っている場合では無い。

「龍隊長、どうしましょう。」

「うーん、しかし、そんな願掛けに行ったくせに、戻りたくねえってのはなんだと思う？瑠璃隊員。」

「そうね、その目的だったら、さっさと帰って、私が死ぬか確認したい筈よね。」

寅彦が手を挙げた。

「宜しいですか、隊長。」

「どうぞ、寅隊員。」

なんだか地球防衛軍的になっているが、そこは気分なので気にしない。

「唐沢の死が仮に叶ったとしても、龍は自分達には振り向かないってのも分かってるからじゃねえのかな。

学校違うし、頭の出来雲泥の差だし。

結局、戻ったって、唐沢は死んでねえ、死んでたとしても、龍も振り向いてくれねえ、つまんねえ現実しかねえとなったら、もう戻りたくもなくなったのかも。」

「なんでんな事で、つまんねえ現実になっちまうんだろうな。」

今度は瑠璃が手を挙げた。

「はい、どうぞ。」

「さっきの小向ちゃんの話で、最近その事しか言わなくなって、仲良かった子達にまで距離取られる程だったってあったでしょう？

完全に囚われてしまっていたんじゃないのかな？

龍が好き、私が邪魔っていう事だけしかもう頭に無かったのかも。」

「他の日常を捨てされる程に？」

「そういう人はいるのよ。女の子に多いけど、1つ考えると、もうそればっかりになっちゃって、他、何も手につかなくなって、人生の全てみたくなっちゃうの。」

「おっそろしいな。」

龍介が言うと、寅彦も同意しながら言った。

「そうだな。でも、ある意味、ストーカーってそういう輩なのかもしれねえな。女だけに限った事じゃねえのかも。」

「ああ、そうかもしれないわね。」

「そんじゃあ…。取り敢えず、佐々木と朱雀だけ呼んでみっか？

瑠璃のお袋さんの話だと、ここにいるのに、こっちから姿が見えなくなってるだけな訳だから。

声ぐらいなら聞こえるかもしれねえ。

朱雀と佐々木は戻りてえと思ってるだろうからさ。」

その頃、朱雀達は、息を潜めて百鬼夜行から隠れていた疲れで眠り込んでいた。

「龍…。助けて…。」

朱雀が寝言でそう言った時、悟は聞き覚えのある声を聞いた気がして、目を覚ました。

「朱雀…、なんか聞こえない？」

「え…。」

2人で耳を澄ますと、確かに龍介と瑠璃、寅彦の声が聞こえた。

「龍！寅あ！唐沢さあああん！」

「朱雀！こっちだ！絶対戻ってやるって気合い入れて、声の方に来い！」

「はい！」

2人は立ち上がり、昨夜からずっと、泣くか、仕方のない恨み事を言っているかの2人を見下ろした。

「君達はどうすんの。」

「え…。」

「戻って、龍や唐沢さんに迷惑かけてごめんなさいって謝ってくれるんだろうね？

多分、あの人達は必死になって僕達を探してくれてたんだ。

龍の事だから、どうしてこうなったのかも、きちんと調べてるはず。

言い訳なんか効かないし、龍にとって、唐沢さんはものすごく大事な人だから、呪い殺そうとしただけでも、凄い怒ってると思う。」

「やだ、そんなの…。加納君に嫌われたくない…。」

「もう遅いよ！

こんな事しでかす前に、どんな人が龍に好かれるのか、ちょっとは考えたの！？

全然考えもしてないじゃないか！

そういう努力もしないで、唐沢さんの悪口ばっかり言って！

だから、あいつらみたいな、悪いお化けに仲間と勘違いされて、こんな所に引き込まれちゃうんだよ！」

2人の少女はまた泣き出した。

「もう付き合わないからね。

ここに残るか、それとも僕らと一緒に来て、きちんと龍達に謝って、しっかり怒られて、心入れ替えるかのどっちかしかないよ。

悟、行こ。」

「朱雀…。珍しくかっこいいよ…。」

「だって、悟だって頭来てるでしょ？

唐沢さんは僕達の大事な友達だよ？

それをある事ない事悪口言うだけじゃなくて、呪い殺そうだなんて。」

「うん。本とだ。」

悟も振り返って、2人に言った。

「加納って男は、きちんと謝って、しっかり反省して2度とやらなきゃ認めてはくれる。

まあ、加納を振り向かせるのはもう無理だろうけど、でも、こんな事で人間やめちゃっていいの？

君達を誘い入れた悪いお化けは、お化けや妖怪がウヨウヨ歩いている中に僕らを放り込んだ。

隠れなかったら、餌にされる所だったじゃないか。

このまま居て、お化けや妖怪の餌になって、一体化して仲間になるのと、加納に怒られるのと、どっちが怖いんだろうね。」

少女2人は真っ青な顔でスクッと立ち上がった。

「謝る！謝ります！瑠璃にもちゃんと！」

龍介達の前に霧の様なモヤが現れたと同時に、朱雀達４人の姿が出て来た。

「龍～！！！」

朱雀が龍介に飛び付いて来た。

「ああ、良かった。大丈夫か？怪我とかは？」

「無いよ！本当に有難う～！」

龍介に抱きついて礼を言った後は、寅彦と瑠璃にも頭を下げて礼を言い、悟も3人にしっかり礼を言った。

そして件の少女2人に、視線が一斉に集中した。

「あ、あの…。」

佐藤がゴニョゴニョと言い出す前に、龍介が瑠璃の盾になる様な位置に立ち、ズイっと前に出て、2人を例の最大限のお怒り顔よりもっと怖い、ど迫力顔で見下ろした。

こめかみに青筋は変わらないが、何故か青白い顔色になり、大きな目は座り、氷の様に冷たい、何も寄せ付けない様な目になっていた。

「てめえら、俺の友達、よくも危ねえ目に遭わせてくれたな…。」

「ご、ごめんなさい…。あの…。」

「瑠璃の悪口言ってたってだけでも許しがてえのに、その上、呪い殺そうとしただと？」

「すっ、すみません！」

「いいや、許さねえ。男だったら、半殺しどころじゃなかったぜ。女で有難いと思え。」

「は、はい！」

「罪も無え人間呪い殺そうとしたら、自分が死ぬだけだと思っとけ。

今後、もし瑠璃が死んで、てめえらが生きてたら、俺が殺してやる。

瑠璃がそこら辺ですっ転んで、擦りむいても、てめえらのせいだと思って、家まで押しかけて、死んだ方がマシって思いさせてやるからな！」

「はい！分かりました！に、2度と瑠璃の悪口言いません！2人の事は応援します！」

龍介は応援しますで引っかかったのか、少し首を捻りつつも、ヨシと言って、2人を帰した。

2人が帰ると、今度は瑠璃が、朱雀と悟に頭を下げた。

「ごめんなさい…。私の為にこんな危ない目に遭わせてしまって…。」

すると、朱雀は照れ臭そうに言った。

「やだなあ、友達じゃないの。そういう時は、ごめんなさいじゃなくて、有難うだよ？唐沢さん。」

「うん…。有難う…、柏木君…。佐々木君…。」

「本と、別人のようにかっこいいよ、朱雀。どうしちゃったんだ…。」

言った悟を横目で睨む。

「どうしちゃったってどういう事よ。僕だってやる時はやるんです。」

聞いていたんだか、いないんだか、風景を見ていた龍介が、突然手を叩いて言った。

「んじゃメンツも揃った事だし、きいっちゃん呼んでやろうぜ、雪合戦。」

「はああ！？加納！？僕達殆ど寝てないんですけど！？」

「瑠璃がやりてえって言ってんだから、やんだよ。雪合戦。な？」

な？と言われても雪合戦がしたいわけでは無いのだが…。

「う、うん…。ごめんなさい。去年ので病み付きに…。」

悟と朱雀には不審そうに見られるし、全てを察した寅彦には、また笑われるし…。

ーああ、やっぱり今日も喜んでいいんだか、悲しむべきなのか、分からない…。